第24話 現状把握
「一体誰の状況と仁の状況を混ぜ合わせているのかな?」
「それは……きっと特定の誰かではなくて、自分と関わってくれた全ての人……かな」
仁は思い出してみると、これまで出会った人たちのことが頭の中をよぎっていった。
「と、言うと?」
「たとえば、Aさんのためになることをしようとするじゃん? それでそのために動き出すと、今度はその動きが合わないBさんが現れる。じゃあ、AさんとBさんのためになることを考えて動き出すと……」
「その動きにまた合わないCさんが現れる、と」
「そう……なんだよね。そんなことを繰り返しているのが今の状況かもしれないって、光恵さんや高木君、みなみちゃん、そして、ボズと話をしていてそのことを気づき始めているのかもしれないんだ」
言っていて、なんか虚しさを感じて腹の辺りがキュッと締まる感じがしてきた。さらにそう虚しさを感じるのが誰かのせいだと感じてしまっていることに、自己嫌悪に襲われている感じがする。
まさに顔の両サイドからダブルパンチを食らって、ノックアウト寸前のような状態だ。
そういえば、こうやって誰かのためにって動き出したのは高校生の頃からだけど、それ以来自分のためにって考えてワクワク楽しんだことはあったのかな? もしかしたら……
「そっかぁ。自分自身がそもそも満たされていないから、満たしてくれる対象を外に求めて自分は彷徨いまくっていたんだね。だから、本当は自分が何がしたくて、何をしてほしいかが自分でわかっていないから、他の人を頼ることが結局出来なかったのかも!」
「だね! でも、自分のことを自分でわかっている人なんて、実際はほとんどいないと思うよ。わかっていると思い込んでいる人は五万といると思うけどさ。で、大事なのはこっからだよ、仁」
ボズは仁に体を向けて、右手の人差し指を口元にもっていき、チッチッチと指を動かした。
「んっ、どういうこと?」
「気付いたらそのことに満足して、自分はわかっているって勘違いしやすい。だからこそ、気付いた後自分だったらどうするか? そうしていくことが、自分とそれ以外を一旦切り離して考えるために必要になってくるはずだよ。ぼくらの星ではそうしていくことをMPA(Multi Positioning Approaches)って呼んでいるんだ。こっちの言葉でいうと――現状把握かな」
「現状把握……」
言葉は知っているけれど、あまり日常生活では聞きなれない言葉だと仁は感じた。
「いま自分のいる位置・状態を知るっていうことだよ。そのために普段から地球人達がやっていることがあるけれど、なんだかわかるかな?」
「え!? え~っと、自分の位置を特定するとしたらやっぱりスマホのナビで使うGPSかな?」
「正解! じゃあ何でGPSを使うと、目的地にたどり着くことができると思う?」
いつも通り、楽しそうにボズは仁に質問した。
「そ、そりゃあ、目的地までのルートがわかって、それに従って進んで行くからたどり着けるんだと思う」
「そうやね。でも、GPSはルートが分かる前の過程もあるんだよ。そもそも何が分かるからルートが分かると思う?」
「ルートが分かるのは……あ、そっか現在地が分かるから!」
仁の頭の中でカーナビでルート検索しているときに、表示されている情報がイメージできた。
「正解! 目的地と合わせて現在地が分かるから、そこまでのルートの選択肢が出来る。次に、そこからルートを選択することで、常に変化する現在地からどのように目的地に向かえば良いかわかるから、前に前に進むことができるんだよ」
「なるほどね! つまり、前に進めないってことは自分の中で何を選択したらいいか判断できないからで。その選択するものは目的地だけではなくて現在地が分からないと、そもそも今いる位置からどうやって進めば良いのか判断のしようがないもんね!」
「うん、そうだね。だから、仮に財宝が埋まっている場所を示した宝地図を手に入れたとするよね?」
そう言いながら地面に転がっていた木の枝を使って、ボズは地面に座り込んで地図を書き始めた。
「もしこの情報を仁が手に入れたら、財宝を探しに一歩踏み出せるかな?」
「そもそも今のいるところがわからなければ、この宝物がどこにあるかわからないから探しようもない……ね」
「じゃあ、もし仁がどうしても財宝を手に入れたいと思ったら、この後どうする?」
「あ、相変わらず良い質問するね、ボズは。そうだなぁ。おれだったらどうしよっかなぁ――」
「そう、それだよ仁!」
「?? どういうこと、ボズ??」
急に立ち上がって、人差し指を天に向かって差しながら右手を自分の方に、なんか嬉しそうに突き出してきた。
「何かよくわからないことがあったとき、
『おれだったらどうする?』
『私だったら?』
『ぼくだったら?』
って自分に問いかけ直してあげる。そうすると、
『今自分自身が何をしたいのか?』
『何ができるのか?』
などを脳が高速で検索しだすんよ。どう? そうなっていくと楽しいとは思わない、仁は?」
「あぁ、そうだな! なんかそうすると、おれなら楽しんでいつの間にか行動してそうだよ! ありがとう、ボズ」
「あぁ、どういたしまして、仁♪」
そう言いながら、二人して悪戯を思いついたやんちゃっこの顔をしながら、肌寒くなってきた秋の綺麗な星空の下で、しばらく笑い続けていた。
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