君が諦めてきた想いを、オレといっちょ取り戻しにいってみようか
うめさだ
第1章 もう一人の自分との出逢い
第1話 プロローグ
「「「仁兄・咲夜さん、今日は会ってくださりありがとうございました!」」」
「おぅ、またいつでも遊びに来なよ、徹平くん、和葉ちゃん、潤くん。」
「そのときはまた徹平のことで相談に乗っていただけますか?」
「もちろん! この人では恋愛相談は役に立たないからね。いつでも恋愛については私に連絡してね、和葉ちゃん♪」
「おいおい、それはひどいなぁ。まぁ女性のことは女性に聴くのが一番かな。男性諸君がもし恋愛相談をしたいときには、俺のことを頼ってくれてもいいからな」
「「はい! そのときは是非!」」
「あ、でも恋愛のことだったら、仁兄よりも咲夜さんの方が適任かも」
「何で?」
「だって、仁兄の場合は恋愛相談のはずが、いつの間にか歴史の話になる可能性が……」
「そういえば……」
「「(二人顔を見合わせて)咲夜さん、ぼくたちのときも是非恋愛相談に乗ってください!」」
「お、おまえら~! (ダッシュで逃げる男性二人)あっ、こらまてー!」
徹と潤が猛スピードで戦線を離脱して森の中に入り、あっという間に視界から消えてしまったのを仁が慌てて後を追いかけていく。
「「あははは♪」」
しばらくの間、咲夜と和葉の愉快に笑う声が森中に響きわたるのだった。
ここは、梅里家の夏の避暑地である山梨県の小淵沢にあるコテージの外。男性陣が全員どこかに行ってしまったあとに、女性陣+女の子が取り残される形となる。
今日遊びに来てくれた三人組は、わざわざ香川県から仁に会うためだけに夏休みを利用して来てくれた大学生たち。彼らは前もって丁寧に手紙を書いて送ってくれて、アポをとってきてくれた若者たちだった。
それならばと、仁は妻の咲夜に相談をして、特別にコテージへ招待することになり、昨夜一泊していってこれから帰るところだった。
夕方とはいえ、まだ日差しが強かったので、和葉は妊娠中の咲夜を気遣い、ベランダにあるウッドデッキと背もたれの付いている木製の椅子を日陰に用意し始めた。
その後を追うように梅里家の長女悠羽が和葉の後をついていき、二歳半なりの手伝いをヨタヨタしながらしている姿がとても微笑ましい。
「和葉ちゃん、気を遣ってくれてありがとうね! 悠羽もお手伝いありがとう」
「ウンっ! ドウイタシマシテ!」
そういって悠羽は咲夜の隣に座った和葉の膝の上にチョコンっと座って、甘え始めた。
「ごめんなさいね、昨日からずっと和葉ちゃんに甘えっぱなしで」
「いいえ、悠羽ちゃんには二日間ずっと癒されっぱなしで、私の方がお礼を言いたいくらいですっ」
そう、悠羽は全然人見知りしなくて、老若男女どんな初めてのお客さんが来てもすぐに仲良くなってしまう。今では、すっかり梅里家のおもてなし担当だ。
「でも、咲夜さんと仁兄って本当に仲良いですよね。悠羽ちゃんもとっても可愛くって人懐っこいし、わたしも梅里家のような家庭を築きたいって本気で思いますもん!」
「ありがとう、和葉ちゃん。でも、わたしたちも結婚した当初はいろいろあったんだよ~。結婚式のことで揉めて結婚式を延期しようとしたときもあったし、仕事のことで冷戦状態のときも何度かあったしねっ」
「ほ、本当ですかー!? 全く信じられません!」
「ハァハァハァ、そう、いえば、そう、いうことも、あったよな」
「あれ? もう駆けっこは終わりなんですか?」
「あいつら、ハァハァ、逃げ足だけは、すでに一人前だよ」
遠くの方で、一人前という言葉だけを聴いて喜んでいる徹平と潤を、息を切らしながら見ていた仁だが、さすがに走り疲れて三人の前の椅子にドガッと腰掛けた。
「でも、本当にあのときから今まであっという間だったけど、いろいろあったよなぁ……いろいろあったけど、ずっと支えてきてくれてありがとう、咲夜」
「どういたしまして! あなたで慣れたから、もうどんなやんちゃな子に育っても大丈夫な気がするわ♪」
「あはははは……返す言葉がありません」
このやりとりだけで、梅里家の主従関係が一目瞭然だ。
「でも、仁兄と咲夜さんはそんな波乱万丈な時期をどうやって乗り切ったんですか?」
「そうです、ぼくもその話がまだ聴けていませんでした! 当時どんな感じだったんですかっ?」
いつの間にか戻ってきた徹平と潤が興奮しながら質問をしてきた。
「おいおい、その話をしだしたら、今日中に終わらないぞっ」
「あら? だったら、この子達うちにもう一泊泊まってもらったら?」
「「「えっ、いいんですか!?」」」
「もちろん♪ ちょうど昨日畑で収穫した野菜もあるし、もう一泊できる? 今夜は庭でバーベキューでもしましょう!」
「「「やったー! 美味しいものが食べられるなんて幸せです!」」」
「そこまで喜んでもらえるなら、野菜たちも喜んでくれるかな! じゃあ君たちの荷物を家に持ってきてもらい、もう一度リビングに戻るか」
「「「はいっ!」」」
本当に仲良し3人組だよなぁ。息もピッタリだし。この子らにだったら、まだ出版した本にも講演会やセミナーでも公開していない話を伝えても良いかもなぁ。
ボズ、どう思う?
うんうん。やっぱりボズもそう思うよな。いつかきっと俺らの想いも受け継いでくれるよな。
じゃあ、今回お前のことも初公開ってことで。
えっ、ついでに歌わせろって? わかったよ。その代わり、ご飯食べてからな。
「そういえば、ボズと出逢ったのはちょうど三十歳になった頃。新しいプロジェクトも始まって、順風満帆だと思っていた頃だったよなぁ」
仁はそんなことをつぶやきながら、咲夜と和葉、そして今度は徹平と潤に両手を繋いでもらってご機嫌な悠羽のあとに続いて、自宅のコテージの中にゆっくりと入っていった。
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