第10話 私は見てない私が撮った心霊写真

 2月の木曜日でした。


 美味しい水を汲むために、ひとりで家から車で1時間程度の観光地に行きました。

 午前中は雨が降っていましたが、天気は少しずつ回復に向かっていました。


 ポリタンクに水を汲み、少し遅い昼食を取ろうと、手頃な食事処に車を停めました。駐車は苦手なので、店から少し遠い所に停め、傘を差してお店に入りました。


 観光地だけど、平日だったためか空いていました。

 でもまったく人がいないわけでもありません。混むときはめちゃ込みする店なので、得した気分でした。


 食事を終えて店を出ると、雨は上がっていて光も差していました。

(せっかくここまで来たんだし、お散歩でもしてみようかな?)と思い、車まで戻って傘を置き、周囲を散策しました。


 空気は清々しく、そこに光が差し込み、なかなか風情がありました。

 地面は濡れていましたが、雨はやんでいたので歩きにくいこともなく、近くにあった公園に行きました。


 そこには桜が咲いていました。

 種類はわかりませんが、河津桜のように思います。


 それほど広くはない公園でしたが、公園をぐるりと囲むように桜が植わっています。まだ2月でしたが、満開の桜の中を歩いていました。


 ひとりで楽しんでいるのがもったいくらいに綺麗で、友人のDちゃんに写真を送ることにしました。彼女の休みは木曜で、仕事をしていないため返事がすぐに来るはずです。綺麗に撮れたと思える写真をメールで送りました。


 それからまた公園を回りました。

 時はゆっくりと流れ、静かな景色の中、誇らしげに咲く桜を心ゆくまで楽しみました。


 満足して車に戻り、帰宅しました。

 そして運転をしながら、Dちゃんから返信がなかったことに気づきました。


 休みの日のDちゃんは、速攻で返信が着ました。

 写真つきの場合は、ほぼ100%です。


 そういう日もあるだろうと思いながら、家に帰りました。



**



 それからしばらくして、Dちゃんに会うことがありました。

 一緒に昼食を食べ、楽しくおしゃべりをしていました。


 そして、桜の写真を送ったことを思い出し、

「河津桜が綺麗な公園を見つけたから、こんどDちゃんも行こうよ」と言いました。


 こちらはそれまでと変わらず、ニコニコしていました。そして、写真を撮ってDちゃんに送ったことを言いました。

 何かの事故で写真が届かなかったのかもしれないと思ったからです。


 すると、それまで楽しそうだったDちゃんの表情が曇りました。


「どうしたの?」

 急に口が重くなったDちゃんに聞きました。


「あの写真、送ってくれたの何で?」

 沈んだ表情でDちゃんが言います。


「2月なのに桜が咲いてるよ。綺麗でしょってメールだよ?」

 ただの報告メールでした。


「おじさん……、写ってたのどうして?」

「は?」


 Dちゃんが何を言っているのかわかりませんでした。

 私は人物はあまり撮りません。


「おじさんが写ってたよ」

 Dちゃんはそう言いました。


「そんな写真、送ってないよ」

 私は確認のため、メールを探しました。間違えて桜ではない写真を送ってしまったのかと思いました。


 でも「おじさん」なんて撮った覚えがありません。

 そしてDちゃんに送ったメールに添付されていた写真を見つけました。


 桜だけでした。


「ほら、これだよ」

 後ろとかを歩いていたおじさんが写り込んでしまったのかと思いましたが、桜だけの写真でした。


「写ってないね、おじさん……」

 写真を見て、暗い表情のままDちゃんは言いました。


「作業着のおじさんが写ってたよ」

「え? どこに? 後ろの辺り?」


 写真を見ました。

 でも、桜だけです。


「いや、いない。その写真。前にいた」

 Dちゃんが、片言カタコトでした。


「前?」

 桜だけの写真でした。


「私が送った写真、見せてくれる?」

 Dちゃんが言っていることを疑っているわけではありませんが、見せてもらうのが一番早いと思いました。


「消しちゃった」

 探してくれましたが、なかったようです。


「気持ち悪いね……」

 私がそう言っていると、


「でも、ニコニコしたおじさんだったから、悪い写真じゃないと思うよ」

 急にDちゃんが笑顔になり、フォローを入れてくれました。


「じゃ、なんで消したの?」

 ちょっと、見たかったです。


「要らない写真だったし」

 Dちゃんは断捨離が得意です。


「あれより、関ケ原の写真の方が怖かったよ」

 ボソっとDちゃんが言いました。

 関ケ原に行った時、激戦地跡の写真を送ったことがありました。


「そっちもなんか写ってた?」

 私にはただの風景写真でした。

 関ケ原に来たんだよ! ということを自慢したかっただけのメールです。


「写ってたわけじゃないんだけど、見た瞬間にゾッとしたよ」

「そういえば、返信なかったね」


「うん。怖かったから」

 今度は本当に嫌そうにDちゃんは言いました。


「……ゴメン」

「いいよ」

 Dちゃんは困ったように笑ってくれました。

 感動した時の写真は、Dちゃんに送るのをやめました。




 私が気に入って撮った写真に限って、霊感が強い人は苦笑いします。

『すごいの写ってるよ』と言われます。


 霊感が強い人同士でそれを見て盛り上がっていますが、私にはわかりません。


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