スカイ・アッシュ 

葵流星

彼の生涯

 子供の頃宇宙飛行士になるのが夢だった。

 勿論、本気だとも信用してはくれないのかい?。

 まあ、それも無理もないだろう。

 そえじゃあ、聞くけどなんで君は目指さないんだ?。

 人類にとって進む以外の選択肢は存在しない。

 確かに君の言う平行世界というのは存在するかもしれない。

 しかし、根本的な事が違っているのだよ。

 あくまでも理論として作り出された考え方なんだよ。

 つまり、認識の差というものだ。

 研究者たちは公式を求めるもので、研究対象であった電子でさえもそれに当てはまると信じていたそうなんだ。

 しかし、とうとうその正体はわからなかった。

 そのため、複数の結果を参照できる目安として平行世界は誕生した。

 さて、それでは話を戻して私のことを語るとしよう。

 私が産まれたのは君が住んでいる町よりもずっと遠い田舎町だった。

 その町には、子どもが少なかったが、それでも親友といえる友人はできた。

 そして、いつも一週間の決まった日には教会で祈りを捧げたものだ。

 今では、それすらままならなくなってしまった。

 悲しい限りだよ。

 やはり、健康というものは素晴らしい。

 そして、もちろん私は成長し無事に大学までたどりつけることができた。

 代償と共になのが苛立つ。

 そして、私は恋をして、失恋して、また恋をしてついに私は妻を手に入れることができた。

 幸せだったよ。

 残念に思う。

 それじゃあ、私はこれで終わりだ。


 親父の手紙には、ただそう書かれていた。

 私はその手紙を折りたたみ、母にばれないように学校の鞄に入れて持ち歩いていた。

 当時の私にはこれが遺書だとはわからなかった。

 そして、私はそれ以降その手紙を親父が死ぬまで誰にも見せなかった。

 そして、その父も今年亡くなった。


「さあて、これでもう済んだわね。」


「ああ、そうだね、母さん。」


「まったく、本当に無茶ばかりする人だったわよ。」


「そうだね。でも、俺にとっては最高のいかしたオヤジだったよ。最後まで髪の毛が白くなかったからね。」


「まったく、あんたもそうなるわよ。」


「ははっ、そいつはいいや。ハゲなくて済むからね。」


「ええ、そうね、あとはあの人の遺言を叶えてあげるだけね。」


「そうだね。」


 私には、年の離れた兄さんがいる。

 子どもの頃から世話にはなっている。

 私と彼は共に違う母を持つ。


 私の兄は親父の連れ子だった。


 そして、私の母は親父の再婚相手である。


 前妻はというとすでにこの世にはいない。

 また、その親族もすでにいなくなっている。


 私には、そのことが気掛かりだったので親父の生前何度もそのことを問いた。

 けど、返ってきた言葉はどれも的を得ていなかった。


 そして、私は親父が消える前に彼のことを調べることにした。

 親父がどう産まれ、どう育って行ったのかを。


 羽田から飛行機に乗り、私はヨーロッパへと向かった。

 そこには、親父の友人が居るからという理由だけでそこに向かった。


 幸い私は英語には長けていたし、なんら不備はなかった。

 電話先の親父の知り合いとも無事に連絡が取れたし、家に泊まらせて頂けるということだった。

 それで、私は母と兄に内緒でヨーロッパへと向かった。


 飛行機の長いフライト時間私は売店で買った本を読んでいた。

 これじゃあ、まるで観光客だな。

 っと、そう思った。


 大学は休むことになるが取材の練習ということにしてもらい欠席扱いではなく、短期留学という扱いにしてもらつた。

 もともとそんな長い間行くつもりではないと言ったのに教授は世界を見てこいとばかりに許可を申請した。

 まあ、その結果時間の確保ができて良かった。


 だが、やはりエコノミークラスでは足腰が痛くなりやすい。

 そのため、私は二時間おきに足を動かす必要があった。


 ドイツのフランクフルトに着くとそこでは親父の友人達が私を歓迎してくれた。

 聞いたところ親父は故郷を離れたあともSNSを介して友人とやり取りをしていたそうだ。

 そのため、彼らのデータフォルダーの中に亡き父と私が遊んでいる写真があった。

私はその写真がとても懐かしくて思えた。

その画像の中の私は12歳くらいで親父も元気そうな顔をしていた。


その日、彼らとパーティーに参加した。

すでに葬儀はすんでいるから、言い方は悪いが同窓会みたいなものだろう。

家では口数が少なかった親父がこんなに社交的だったとは思いもしなかった。

そして、私はこのドイツのフランクフルト郊外にある親父の友人の家を拠点として、

彼が何者であるのかを調べることになっていた。


そして、ささやかなパーティーも終わり、親父の知り合いはそれぞれ帰って行った。

私はシャワーを浴びて、紹介された部屋に行き、今日のことをレポートに書いた。

これは、大学から言い渡された条件の一つであるため疲れていたが、やるしかなかった。

やっとのことで、レポートを書き終えた私は部屋のベッドに腰を下ろしてスマートフォンをいじっていた。

すると、扉がノックされ、私は慌てて返事をした。

扉が開くと親父の友人がそこにはいた。

彼は部屋に入ってくると親父との思い出話をしてくれた。

そして、私はその話を静かに聞いていた。

その話が終わると、彼は私にあることを教えてくれた。

私の兄の母、親父の前妻についてだった。

彼女は親父とは不釣り合いなくらい美人だったが、引っ込み思案だったそうだ。

そして、彼と彼女の結婚式には自分を含む彼らの友人と、黒い服の男しかいなかったそうだ。

彼が言うには親父の親族が親兄弟を含めみんな死んでいることは知っていたが彼女の親族については知らなかったという。

そして、彼女の葬儀も疑問に思ったそうだ。

なぜなら彼女の墓には彼女がいない。

っと、親父の友人はそういった。

私は思わずどういうことなのかを聞き返した。

すると、彼はこう私に話した。


「行ってみないか、彼女の墓へ。


もうあいつはそこには行けないだろ。」


そして、私は親父が愛した女性のもとへ向かった。


ヨーロッパの国は一見そう遠くに離れていないように見えるかもしれない。

けど、距離はあるものだ。

私は彼に彼女の墓のある場所を教えてもらいそこへ向かった。

場所は、フランスのパリにあるという。

ドイツのフランクフルトからは、電車を使っても四時間弱の場所だった。


そして、とある墓地の片隅に彼女の墓はあった。

だいぶ時間が経っているのだろう。

ところどころ墓石の文字がかすれていて読めなかった。

しかし、私と同じ名前の一部があるため、ここが彼女の墓なのだとわかった。

私はここに来る途中で買った花をそこへ手向けた。


彼が言うにはこの墓には彼女の遺髪しか入っていないという。


そして、私はその墓に父と兄のことを話した。

何も返事はなかった。

しかし、私は奇妙な視線を感じ振り返ってたが、誰もいなかった。

ただ、風が私を撫でただけであった。


私は墓を後にすると、親父の故郷シオンヌという町を目指した。

その町までは遠いため、トロアという町の宿に宿泊した。

それから、また私は親父が産まれた町へ向かった。


特にこれといった目的は無い、ただ親父が産まれた町を見てみたかっただけだった。


親父の生家は、祖父母の死後、売りに出されて今は他の家族が住んでいた。

外観も昔とは違うそうだが、私はそこをゆっくりと通り過ぎるだけで満足だった。


そして、私はドイツのフランクフルトに一度戻った。

すると、「今度はイギリスに行ってみないか。」っと、

言われたため私はオックスフォード大学に行くことになった。

理由は、その大学の教授がどうやら息子の私に会いたいということだった。

私は二つ返事でそこへ行くことを決意した。


私は道中何事もなく、大学へとたどり着いた。

教授は快く私を歓迎してくれた。

また、父との話を私に語った。

主に研究についてなのだが私には何もわからなかった。

さらに、話を聞くと父はインドへ留学したことがあったそうだ。

そのことを、私は知らなかった。

また、父の前妻とも面識があったようでそのことも話してくれた。

そして、私からは父がどういう理由で死んだのかを話し、

遺言を果たすことも伝えた。

そして、私はずっと隠し持っていた手紙のことを教授に伝え、

それを見せた。


一通り見終えると教授は、笑っていた。


「まったく、彼らしいな。」


っと、だけ教授は言った。

私の父は変わった人のようだった。

常に先を見据えていて、時折未来に起きるかもしれないという予測を口にすることが、多かったという。

しかし、そのほとんどが当たらなかったそうだ。

唯一当たったという事が、告白が成功するということだけであったそうだ。

そして、父の結婚式にも教授その場で見ていた。

とてもほほえましい光景だったという。

そして、彼女の死後、彼はアメリカへ兄を連れていったそうだ。

その後の事は、私の知っている通り私の母に出会い結婚したということだった。


私は、日時が迫っていたため日本に戻らなければならなかった。

最後に、ささいなお別れ会が開かれ私は彼らから献花台に置いといて欲しいと言われた物を持って、ヨーロッパを後にした。


日本へ戻った私は、最後の仕事とばかりに遺品整理などに駆り立てられた。

普段、忙しい兄も手伝ってくれて本当に助かった。


ちょうどその時だった、会社から電話がかかってきたのは。


そして、ついにその日がやって来た。

たくさんのヒトを載せたロケットは、種子島から打ち上げられた。


そして、父は宇宙へと旅立って行った。


あの時の電話は、運良く父の遺骨が探査機に載せることができるというものだった。

そのため、いつか地球へ流星となり帰ってくるはずだった父は、

探査機と共に永遠に地球に帰って来ることは無い。


私はロケットが見えなくなるまで父を見送った。


彼は最後になって、ようやく宇宙飛行士に成れた。

っと、私は歳を重ねてから私の息子に語った。


そして、私はまだ地上にいる。
















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スカイ・アッシュ  葵流星 @AoiRyusei

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