千切れた!
境界の女神ボルダナが幸福ポイント付与時に見せた映像は、垣沢漠土が歩むはずだった三日間の未来だった。
その顛末は二体の改老達が「カルナギ地雷株式会社」を襲撃し、彼等の暴走を止める為、垣沢漠土が自爆死するというものだった。
しかし垣沢は幸か不幸か婆の車に轢かれて死んでしまった。
当然、彼が不在の三日後のカルナギ株式会社は改造老人、九十九二体の襲撃により従業員全員が死亡、更に言うと日本中に設置された地雷マップがテロ組織「老害協会」へと渡り、二大対抗力の片翼を失い、国そのものが危険に曝される事となる事が容易に想像出来る。
当然、垣沢漠土は悩んでいた。三日後の襲撃を知る彼がその場に駆け付ければ問題解決だが、無視出来ない致命的な要因が二つ存在する。
一つは、彼が自爆以外の方法で勝つ手段。これは実は転生者となった時点でクリアーしているも同然だった。最悪死んでも、再び蘇生させる事が可能だからである。
だが、もう一つの懸念材料がどうにもならないのだ。何故なら、垣沢漠土が元の世界への転生を選んだ場合、制約により、彼は受精卵から生をやり直す事となる。
記憶と能力値、技能、幸福ポイントを引き継いだ上でだが、三日後、受精卵の彼にカルナギ会社襲撃事件を止める事は不可能である。
その二点を頭の中で何度もシミュレートしながら、垣沢漠土は虹色の女神により完全な状態で肉体の再生を終えた。
虹色の吐瀉物の中から丸裸の姿で。目覚めた彼の傍ら、嘔吐に喘ぎ、涙ぐむ虹色に光り輝く女神、カルミナ。彼女は彼を轢き殺した元婆である。
その彼女が裸の彼の手を優しく包み、目と目を合わせると聖母の様に微笑みかけた。
その時、彼はこう考えていた。爆死が無駄では無い様に、きっと彼自身が高齢運転手により轢き殺された事にも意味があるに違いないと感じていた。
彼の思考は論理だけで動いていない。未知の物に対する抵抗感を捨て、自分の想像の及ば無い事象を想定し、考えに含む柔軟性も持ち合わせていた。それがあの地獄を体現したような現世で生きる人間の渡世術の一つでもある。
「良かった!目覚めてくれて……」
虹を纏う女神の顔は青白く、力無く、握っていた手を解き、亜空間の床に両手を着けた。
「あら? 何だか柔らかいものが……」
垣沢は目の前の女神に運命めいたものを感じつつ、下腹部の違和感に首を傾げた。彼の股間辺りから、何かが引きちぎれる音と共に、何かが潰れたからだ。
ジワジワと拡がっていく血溜まりの中、彼の股間にあるべきはずのものが消えていた。
血溜まりの中から掬い上げられたソレを女神が視認すると、その青白い頬が朱を帯びる。対する彼の顔からは血の気が失せ、その激痛に言葉すら発する事が出来ず、股間を抑えながら血の海に沈んで果てた。
脆弱な初心者転生者と脳筋女神、その圧倒的能力値の差の前に、彼の一部はもぎ取られた。
女神カルミナの筋力460から繰り出される所作は、体力28、装備品無しの彼の防御力は28であり、HP150の彼のダメージメーターは99999を指していた。
<OVER KILL>のダメージエフェクトが虚しく空中に浮かび上がる。
薄れゆく意識の中、彼が倒れこんだのは虹の女神のお膝元。死ぬには悪くない場所だと彼は途絶えゆく意識の中でそう感じていた。
彼の異世界冒険譚は……まだ始まらない。
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