Re;vival
世界と世界の狭間、その境界線上で白い片乳を隠す狭間の巨女神ボルダナ。血塗れになった錫杖を異空間に仕舞い、消失させると、気不味そうに眼下の二人を見下ろす。
血と肉塊、虹色の吐瀉物が混じる汚物へと変わり果てた青年、垣沢漠土。その残骸の上に漂う朱色の八面体。それは転生者の魂を固定させる核である。
肉片を掻き分け、細く白い手を赤く染め、朱色に輝くそれをそっと虹色の少女は抱き抱えた。母が子をあやす様に。
「私の所為で……この青年は二回死んだ事になる。させない、もう、そんな事はさせないよっ!」
彼女は震える手を必死に堪え、八面体の結晶に自らの力を注ぎ込む。そうする事が正しいと本能的に理解していたかの様に。
理から外れた転生者は例外無く、「
垣沢漠土の肉体を潰した巨女神ボルダナ自身で彼の蘇生はこの境界に於いては即時再生可能だが、それを止める虹色の女神。
「これは私のせいなのです。だから私が責任を持って蘇生させます。お願いっ! 黄泉還って、私の被害者さん!」
彼女は祈る様に心臓ほどの大きさの虚亞を手で包み、必死に祈りを捧げる。
「君はあたしの所為で二度死んだ。最期の最期でどうして若いもんの命を奪わにゃならんのですか神様!」
彼女の願いが届いたのか、その呼びかけに応え、辺りに浮遊する白い光が色を変え、虹色の輝きを帯びると、彼女の手と青年の虚亞を中心にグルグルと周り始める。
「あら?……協力してくれるの?」
彼女は一度目を閉じると、虹の輝きは消え、彼女を中心に闇に包まれる。
そして、彼女の小さな唇から玉を転がす様な声色が力強く、響き渡った。
『New Roading……目覚めなさい、垣沢漠土。貴方は、貴方の使命を全うする為、再び産まれるのです。貴方にはまだやり残した事があるでしょ? あの世界に! 女神魔法……Re;vival!!』
声と共に明滅する虹の光。
圧縮された虹色の光が四方へ飛び散り、七色に強く照らす。虚亞の周囲に幾重もの虹が折重なり、色相が渦巻きながら亜空間を震わせた。
渦の中心、彼の血で染まった彼女の手は光り輝き、その先にある灼熱色の結晶が胎動し産声を上げているようにも見えた。
「さぁ、産まれなさい。何度でも……」
膨大な光の奔流が一瞬止まると、今度はまるで時間が逆行する様に虹の光が赤熱色に輝く虚亞へと集約されていく。
その結晶体を中心に彼の肉体が次々と構築されていく。
虚亞を心臓が包み、枝葉が分かれるように血脈が延び、人体を内側から構築していく……内臓、骨格、筋肉……頭蓋骨に眼球……瞼の無いその目が向きを変え、彼女を覗いた。
短い悲鳴が亜空間に響く。
「む、無理……こんなグロテスク! 耐えられな……ぃ、うぼろろろろ……!」
虹色の眩い光に包まれた刹那の時間、彼女はまた吐いた。
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