第5話 とんとん老婆?

それは俺がとある厚木の介護施設で働いていた時の話し。


その施設の食堂は無駄に広かった。


なので仕切りを作り会議室を作った。


そしてその会議室の一番奥に夜勤者が仮眠する簡易ベッドを置いた。


ベッドの後ろはガラスの出入り口。外の森が良く見える。


昼間はいいが夜は恐い。なので仮眠中でも小さな明かりはつけて寝る。


男の俺でも恐いのに、同僚のP子は明かりを全部消して寝る。


可愛い顔してめちゃめちゃ度胸がある。


「恐くなんかないですよ。ビビりですね」と彼女は俺を笑う。


くそ。だったら闇に乗じてP子の仮眠中、ベッドに全裸で忍び込んでやろうか。


悪魔の妄想に俺はとりつかれる。だが本当にそれをやっちゃったら俺の首が飛ぶ。


それこそホラーだ。


話しが脱線した。


で、そこにベッドを置いてからというもの、不思議な現象が多発した。


その1


ある日そのベッドがびしょ濡れになった。


ベッドマットが水を含み、床にまで水たまりができるほどだった。


「なんだP子、お前おねしょしたのか」


夜勤明けのP子を俺はからかった。


「してません!!たとえしたとしてもこんなに出ません!!!」



つまりバケツで何杯も水をこぼさない限り、その濡れ方は不自然なのだ。


あり得ないことが起きた。


その2


看護師のL君が仮眠中、老婆をみた。


介護施設なので老婆はいっぱいいる。


そのなかのKさんは首をうなだれて歩くくせがある。


昼間は問題ないが、夜、闇の中を背中を丸め首をうなだれたまま徘徊する姿を


後から見かけると首のないゾンビがフラフラ歩いているようにみえてマジでびびる。


だが、それは居室ゾーンでの話し。


食堂やベッドのある会議室に行くには鍵の掛かったドアを3つ通り過ぎなければならない。つまり職員以外は立ち入れないのだ。


L君が見た老婆はこの世のものではない。



その3


そのベッドに俺が仮眠していた時の事。


その夜は疲れからか熟睡してしまったのだが突然


「何か来る!!!」と俺は半覚醒した。


すると次の瞬間、俺の頭は指でトントンと誰かに突かれた。


「!!!!!!!」


すぐには目を開けられなかった。


寝坊した俺を別のスタッフが起こしに来たのか?と思ったが

ドアを開けた音がしていない。


「・・・・・・」


俺はゆっくり目を開けた。


周囲には誰もいない。


「・・・・・・・」


ドアも閉まったままだ。


「・・・・・・・・」


L君が老婆の幽霊を見たのは昨晩のことだ。


「・・・・・・・」



その後、俺が夜勤中、仮眠をとらなくなったのは言うまでもない。

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