厚木怪談

白いカラス

第1話 膝を抱える女

神奈川県厚木某所。

そこには不思議な名前の場所が多い。

俺が一番奇妙に感じたのが「座頭転×し」という場所。(なぜか地図にはない)

その名前を刻んだ石碑を見た時は昼間ではあったが、寒いものを感じた。


不自然な三叉路。住宅街に取り残された盛り上がった土地とそこにある祠。

時間に取り残されたような不自然な非日常がそこにあった。


なんでもそこは昔、目の見えない人を突き落として殺した場所だという。


何の目的でどんな人がどれだけ殺されたのか。

そこをよく通らなければならない俺は調べる勇気がない。


今は崖もなければ人が死ぬほどの坂もない。


いったい何があったのだろうか。


 そこから少し歩いた場所に「一×尼寺」という石碑が建つ場所がある。

(これも地図に無い)

そこは大手書店やパチンコ店、某工場が立ち並ぶ交差点で、尼寺などどこにもない。


で、その近くの工場での話し。


 その工場の裏手が見える場所にスナックがあった。

そこでアルバイトしていた俺の知り合いは、夜12時過ぎに工場の敷地をフラフラ歩く女をよく見たそうだ。


霊感のある彼女は、その歩き方からこの世のものではないと思い、見かけても無視を決め込んでいた。


ある夜、客として店に来たその工場の従業員にその話をしたところ、その従業員はその女は確かに工場にいると言ったそうだ。


「なんだ。本当にいるのか。だったらなんであんな変な歩き方するのかな。

私、幽霊だと思っちゃった」


彼女がそう笑うと従業員は水割りを飲み干し「違うんだよ」と言った。


「違う?違うって何が?」


「深夜に自分のロッカーを開けたらあいつがいるんだよ」


「いる・・・って?」


「ロッカーの中に。膝を抱えて。必ず」



深夜そのロッカーを使うようになった工員は必ず出会うので、今では開かずのロッカーとなり封印されているそうだ。



奇妙な地名、奇妙な女の幽霊。なにがどう関係しているのか無関係なのか。


その辺を通らなければならない俺は調べる勇気がない。

今日も足早に通り過ぎるだけだった・・・・。



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