豊国終戦、後日談
王妃ザァンラネークの墓は、先に亡くなった王子の隣に置かれた。
逝った先で仲良くできるかどうかはわからないが、最後まで王族のまま弔ってやりたいという先代国王グァガラナートの慈悲により、このような形となった次第だ。
本来ならば国を挙げての葬儀とすべきなのだが、王妃の重罪を加味した結果、王室のみでの弔いとなった次第である。
なので他国からの使者もないが、今回の騒動で共に戦った王国と帝国からは、それぞれ手向けの花が添えられた。
葬儀を終えると同時、帝国は速やかに撤退。
犯罪者アクアパッツァは空を駆ける天上監獄、レインボー・アークへと幽閉された。顛末は王国も見届けていたため、以後、帝国が彼を利用する事はないだろう。
豊国はラヴィリアが即位した事で王妃となり、以後は彼女の政権が始まる。
番となる王のいない異例の時代。彼女が番を見つけるのは、また後の話――なのかどうかは、彼女次第である。
「
「蓮さんは王国の英雄なので、ご遠慮頂けますか。女王陛下」
両手に花。
片手には王妃。片手には王国の戦闘部隊長。
両腕に抱き着かれ、引っ張られる蓮は筆談も出来ず困った様子。
左右から引っ張られる人形が如く、為す術もなしに左右に揺らされる蓮へと、フェイラン・シファーランドと
「アルフエ様、王国と豊国はこれからより一層の親交を深めていくので……その、そのための、えっと……えっ、と……」
ラヴィリアがここまで引き下がらないのも、珍しい事なのだろう。
ベヒドス・マントン率いる護衛騎士が、驚いて見入っている。寧ろそのまま応援し、もっとやれ、とさえ言っているようだ。
ラヴィリアもラヴィリアで、本当に出来る限りの勇気を振り絞っているのがわかる。
顔どころか体まで真っ赤で、恥ずかしさのあまり泣きそうになっている。と言うか、既に涙目だ。上目遣いで見つめられると、胸の奥底から込み上げて来る物がある。
「れ、蓮様? 私、私では不満、ですか……?」
「ら、ラヴィリア王妃! その質問は反則です! 蓮さんは王国の英雄として、これからも頑張って貰わないと! ね、蓮さん!」
アルフエも負けじと、いじらしく睨め上げる。
ラヴィリアには劣る物を腕に押し付けて対抗する姿は、従姉妹のラチェットから見ても微笑ましく、応援したくなる光景であった。
「……止めなくていいの?」
「
「……今回、私は何も出来なかった。ただあなたの隣で、無事を祈ってただけ。私には、副隊長なんて無理よ」
「なら、一緒に辞めるか。俺の補佐を続けてくれ、ティエルティ」
「そうね。それも、いいかもね」
今回の案件で、十番隊副隊長ラチェット・ランナ、副隊長補佐ティエルティ・ベルベットは引退。他三名の隊員の殉職もあり、十番隊は大きく戦力を低下させられた。
空白となった十番隊副隊長の座。
奇しくも空白を埋める様にパワーアップを遂げた、隊長であるバリスタン・
「失礼、ラヴィリア陛下。邦牙蓮は、元は帝国の人間です。今回の事態が複雑化したのは、先代王妃ザァンラネークが招いた帝国の人間と、彼らが連れて来た犯罪者アクアパッツァによるものが大きいでしょう。残念ですが、今の陛下が彼を迎えるには、世間体が良くないかと思われます」
「そう、ですね……そうです、よね……帝国との接点は、今は避けるべき、でした……ごめんなさい。ただ、その……蓮様。私があなた様を想い、お慕い申し上げております事、何卒、何卒お忘れなき様、お願い……も、申し上げます……」
表沙汰になっていたら危なかった。世界屈指と名高い、傾国の美女の告白。
今回の騒動の発端も、強国との婚姻が原因だったと言うのに。この美女は、一体どれだけの人々を動かせば気が済むのか。
本人にその気がないだけ、余計不安にさせられる。
~また何かこまったこと、あったらよんで~
「……! はい、蓮様」
翌日早朝、空船発進。
豊国での長いようで短かった戦いは終わり、豊国には平和が戻った。
これから先、王妃となったラヴィリアは変わらねばなるまい。
今までの臆病者のままでは、豊国はまた揺らぐだろう。豊国が大国の枠組みから外れる事となるか否か。それは、これからの彼女が決める事だ。
「蓮さん。これからあのように誘われても、ちゃんと断って下さいね」
~わかった~
「ちなみに、その……ラヴィリア王女の事は、どう思っているのでしょうか」
~きれいで、かわいい人~
「じゃ、じゃあさっきは、その……条件さえ良ければ、断らなかった、ですか?」
アルフエ自身、理解し切れていない感情に押し潰されそうだった。
胸の中で渦巻く感情の名前を彼女は知らず、渦巻く意味さえ理解出来ていない。
だから何故、蓮に頭を撫でられた時にその渦が無くなったのか。押し潰されそうになっていた感覚から脱せたのか。やっぱり彼女には理解出来ていなかった。
~王国が、今のおれたちのいばしょ。だから、はなれない。それにおれは、アルフエのたいのたいいん。かってに出て行かない~
「そう、ですか……そう、ですか」
感情の名は、蓮さえ知らない。
蓮がこの心、感情を知っていくのは、まだ先の話であった。
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