人の忠告は聞くのが正しい
王座に呼ばれた
蓮と共に、アルフエを含める戦闘部隊十番隊の精鋭数名を派遣し、王国軍に加担して反乱軍を鎮圧せよとのことだった。
豊国よりやってきた使者は、反乱軍の追跡を受けたらしく重傷を負った状態でやってきて、数日後に息絶えた。背中に受けた矢に塗られていた猛毒が死因らしい。
それを受けて、王は真正面から侵入したところで使者の二の舞を演じてしまうと、彼の犠牲を無駄にしないためにも空中からの侵入を提案。アルフエ率いる十番隊には、そのための手段があった。
「これが私の部隊が保有する飛空艇です。
~大きいね~
「最大八〇人。王国の戦闘部隊一つの小隊が、四つ分入るよう設計されてますから。それでも操縦桿二つで操縦が可能なまでに、扱いは複雑ではありません」
倉敷
世界でも伝説となっている
その技術の応用が、アルフエの部隊が持つ飛空艇ということらしいが、応用するにしてもかなりの技術を要するはずだ。王国には、それを為せる人物がいるということらしい。
「では蓮さん、すぐに向かうことになりますので、本当ならもっと落ち着いたところでご紹介したかったのですが、少し急ぎでご紹介させて頂きます」
と、アルフエの呼びかけに応じて入って来た年も性別も違う五人。戦闘部隊は隊長もそうだが、隊員にも特別指定している服装はない。だが隊員の証として、それぞれ所属する隊の番号が刻まれたバッジを体のどこかにつけていた。
「まずは私の補佐で、十番隊副隊長のラチェット・ランナ」
「初めましてだな。十番隊副隊長、ラチェット・ランナだ。よろしく」
蓮より十個ほど年上か。大人の雰囲気を漂わせる静かな男だった。
彼は笑顔を称えて握手を求め、応じられた手を強く握る。
「身内が随分と世話になってるのに、まともに礼も言えずにすまなかったな」
「ラチェットさんは私の従兄弟に当たるお方なのです。遠征に行っていて何もできなかった間、私達を助けてくれた蓮さんに是非お礼を言いたいと、ずっと言っておられました」
「そういうわけだ。この国を護ってくれたこと、さらには俺の妹同然のアルフエを救ってくれたこと、改めて礼を言わせてもらう。にしても……」
ラチェットは蓮のことを舐めるように見回す。
敵意はなく、好奇心で見つめられることに慣れていない蓮は首を傾げるばかりで、彼が自分の何を見たいのかわからなかった。
と、ラチェットはニンマリと笑って蓮の肩を叩く。
「アルフエ! おまえよくこんなイケメン捕まえたな! 昔から恋愛には奥手だったのに!」
「ちょ、ラチェットさん! からかわないでください! 蓮さんが困ってるじゃないですか!」
「照れるな照れるな! 君、アルフエを嫁に貰いたいのなら真っ先に俺に言え! すぐさま式場を押さえてやる!」
「もう! 他の方の自己紹介がまだですので少し下がっててください!」
「了解了解。じゃあ続けてください、隊長」
恥ずかしさのあまり赤面するアルフエは、咳払いしてなんとか場を整えようとする。
だが蓮から見ても、他の隊員はラチェット同様にニヤニヤしながらアルフエのことを見つめていた。隊長の恥ずかしがる姿が見てて微笑ましいのか、それとも弱みを見られて嬉しいのか、腹のうちまではわからないが、そこまで険悪な雰囲気は感じられない。
「えぇ……次は今紹介しましたラチェット副隊長の補佐をしています。ティルエティ・ベルベットさんです」
「よろしくね、蓮くん」
ラチェットと同い年くらいの女性だ。
女性的で、少し蠱惑的ですらある。隣にいるラチェットとの雰囲気を察するに、良い仲なのだろうことは察することができた。
が、微笑と共に唇を滑った舌を蓮は見逃さなかった。敵意は無いにしても、何かしら狙われている気がして、わずかばかりの警戒心を抱いたまま、握手に応じた。
「続いては索敵班より、ジジ・パンネストロフ。同じく索敵班、メリル・トット」
「よろしくでぇす」
「でぇす」
いつだったか、三番隊隊長のフェイラン・シファーランドが教えてくれた。
一三に分かれる王国の戦闘部隊だが、その中でもさらにいくつかの班があって、隊の特色によってそれらの役職も変わって来るのだと。
十番隊は奇襲や特攻がメインなので、確かに索敵は必要な能力だろう。
となると、もう一人の大太刀を持っている青年は――
「最後になりましたが、特攻班のランダル・ジランドールくんです」
「なんで俺だけくん付けなんすか……まぁこの中じゃ確かに最年少っすけど」
腕に覚えがあるのか、隊長副隊長がいるにも関わらず自信満々かつ、高圧的だ。精鋭として選ばれるだけの実力はあるのだろうが、少々怖い。
先ほどから、蓮のことも敵意を孕んだ眼光で睨んでいる。こういう手合いは、どう接しても反抗的なので扱いに困るのだが。
アルフエもラチェットも、その部分は懸念材料のようだ。それでも彼を出すと言うことは、それだけの実力を兼ね備えているという面で、頼ってはいいのだろうが。
~ダメだよ、ピノー~
背後のピノーがランダルに向かって行きそうなのを、蓮は抑えていた。
ずっと蓮を睨みつけ、唾さえ吐き掛けない彼の威圧的な態度は、ピノーにとって我慢ならなかったが、主たる蓮が止まれと言っているのに動けば、それこそ御し切れなかった蓮の恥になってしまう。
人形ながら、流れていないはずの血潮が沸騰しそうになるほどの怒りを抑え込み、ピノーは耐えていた。
「以上私達十番隊の六人と、蓮さん、ピノーさんの八人で――」
「いえ、今回ピノーはお留守番です」
「え――」
アルフエは戸惑った。
確かにピノーがついて来るとは聞いていなかったが、ここに来ている時点で来るものだと思い込んでいたから、驚いたのだ。
何より自分の人形という特性を利用して、わざわざ帝国から侵入して来た彼女が、蓮と離れるとは考えられなかったのだ。
「先日の帝国襲来の際、ピノーは蓮様の力を一部開放するために力を使いました。アルフエ様にはお話ししましたが、私には蓮様の力の大半が封印されており、現在残った力が噴き出さんとしている状態。ピノーはこれを抑えるため、尽力しなければなりません」
「そう、なのですか……」
「ですがその分、蓮様の御要望で力を三割ほど解放しております。蓮様一人で、充分制圧可能でしょう」
「あ、あの……つかぬ事をお伺いするのですが、前回帝国が襲撃して来た際、蓮さんが解放した力はどの程度……」
「えぇっと……一割くらいですよね?」
蓮は頷く。
三女ルンウィスフェルノを打倒した力で一割とすると、もしも完全に開放した場合どうなってしまうというのだろうか。
実際に戦いの一部を見ていたアルフエは、戦慄さえした。
途中から眠っていたので知らないが、蓮が作った防壁の凹みの大きさは今でも憶えている。
ただでさえ強いのに、さらに一割だけ解放してあれとなれば、脅威を感じても仕方ないだろう。
「ともかくそんなわけなので、残念ながら同行はできません。ご武運をお祈りしております、蓮様」
と、彼女が武運を祈るのは蓮だけだった。
まぁ当然と言えば当然だろう。アルフエは友達だが、他の隊員らに関しては初対面で、ピノーからしてみればなんら気に掛けるほどの相手でもない。
それこそピノーが敬愛の証として蓮の手の甲に口づけしたときには、隊員らからはさすが皇族ですねと言わんばかりの、なんとも言えない空気が漂ってきた。
「では皆さん、搭乗を。蓮さんもお願いします」
このままではいけないと、アルフエは皆に飛行艇に乗るよう促す。
蓮も乗り、最後に自分が乗ろうとしたとき、アルフエはピノーに呼び止められた。
「アルフエ様……」
「大丈夫ですよ、ピノーさん。蓮さんの強さはピノーさんが一番信じてられるじゃないですか」
「はい、そこは心配していません。ただ……一つ心配事が」
「心配事?」
ピノーの頭の耳が、シュンと垂れ下がる。
彼女ともそれなりに付き合って来たアルフエは、彼女の耳が垂れ下がったときは落ち込んでいる時か心配事があるときだと最近知っていた。
「蓮様は、とてもお優しい方です。例え敵でも、慈悲を以て命までは奪わない。そうしないように、あの方は力と共に感情をもセーブしておられます。しかしあの方も人の子です。時には我慢ならないときもある。どうぞ気を付けてください。お優しい方ほど、怒りに身を委ねたときに恐ろしいですから」
「……わかりました。蓮さんは必ず無事に帰還させます」
「ご武運を」
以上の経緯があって、アルフエ率いる十番隊五人と、蓮を含める七人は豊国に空から飛び込んで侵入した。
本当は王宮のある都に直接降りたかったのだが、反乱軍の存在もあるため都に住む一般市民を巻き込まないためにも直接の侵入を避け、七人は森に降り立った。
都まではそう遠くないが、蓮が能力を使い、さらには王国の飛空艇が飛んで来たことも見られているだろうから、反乱軍は襲撃のため、国王軍は迎えるために着地地点を割り出して向かってきていることだろう。
「皆さん、いらっしゃいますか」
「ラチェットとティルエティはいるぜ」
「ジジ・パンネストロフもいまぁす」
「メリル・トットもいまぁす」
茂みを掻き分けて、蓮も姿を現す。
だが一人、大太刀を持っていたランダル・ジランドールだけが見当たらなかった。
「ランダルくんがいませんね」
「どっかで気絶でもしてるんじゃないですかぁ?」
「ね、船の中でずっとビビッてて喋ってなかったものね」
「失禁でもしてて前に出れないんじゃない?」
「はは、ウケるぅ」
ジジとメリルは冗談を言い合って笑う。
ティルエティに彼の探知を急かされてようやく探知を始めた二人だったが、次の瞬間、笑い合っていた二人の顔が一挙に青ざめた。
「な、なにこれ……」
「あり得ない。あり得ない……!!!」
「ジジ、メリル。落ち着いてください。落ち着いて状況報告を」
アルフエが促すが、二人は狼狽えるばかりで落ち着くどころではない。
さっきまで冗談を言い合っていたことが嘘のように慌てふためき、メリルに関しては恐怖のあまりその場に座り込んで泣き始めてしまった。
「あ、アルフエ隊長! すぐにここから離脱を! とんでもない
ジジは咄嗟にメリルを突き飛ばし、自身もまた彼女に覆いかぶさる形で伏せる。
直後に二人の上を通過したそれは奥の大木に突き刺さって、力なく落ちる。
見ると、ランダルが持っていた大太刀がランダルの腕に握られた状態で飛んできていた。だがその先にランダル自身はなく、腕が千切られていた。
それを見てすぐさまアルフエは拳銃を抜き、ラチェットもティルエティも構える。
ゆっくりと茂みを掻き分けて来たそれは、一四〇程度しか身長のない小さな女の子。てっきり筋骨隆々の大男か巨大な怪物が出てくると思っていたために拍子抜けしたのは最初だけ。
茂みの影から出てきた少女の全身が血に濡れて、片手に息絶えたランダルを引きずっているのを見たとき、彼らの少女に対する印象は一瞬で引っ繰り返った。
「あ、
「いや、いやぁ!」
「待って、メリル!」
ジジの制止も聞かずにメリルは走り出してしまう。
相手の
ジジの探知能力は彼女とは少し違うが、それでも少女が物凄い力を持っていることは肌でわかるし、逃げ出したくなる気持ちもわかる。
だがそれでも、敵に背を向けるなどしてはいけなかった。
次の瞬間、メリルの胴体に風穴が空く。
少女の手によって投げられ、メリルの胴体を貫いて命を奪ったそれは、少女が引き千切ったランダルの頭だった。
ジジの悲鳴が響く。
「敵前逃亡なんて、するものじゃないと思います。ましてや敵から目を逸らすなんて言語道断です。って、私の団長は言ってました。せっかく探知能力をお持ちなのに、宝の持ち腐れですよ?」
笑顔で言う少女は首も片腕もなくなったランダルの遺骸を捨てる。
到着早々二人の部下を失い、怒りに燃えるアルフエが引き金に指をかけたとき、先に動いたのは蓮だった。
何より天音がそれより先に動いており、蓮はそれに応じた形だ。
「蓮様、お手合わせお願いします!」
蓮と天音の拳がぶつかる。
凄まじい
自身より一回り大きな蓮を相手に、天音はまったく力負けしていない。それだけでも脅威的なのに、天音はもう片方の拳で追撃を試みようとしていた。
が、ここで天音は違和感に気付く。
自分から飛び掛かったものの、蓮から体が離れない。蓮に向かって行く力がまったく削がれず、まるで蓮に向けて落ち続けているかのようだ。
(これってまさか、蓮様の引力……!)
――敵から絶対目を離さないこと
団長からの助言を思い出して見上げたとき、斥力をまとった蓮の拳が振りかぶられて、直後に自分に叩きこまれた。
渾身の“
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます