ステップ

人間

久し振り

バタン!


車のドアが閉まる音は静寂に吸い込まれ、虚しい静けさが私を包む。


車の鍵を閉め、両手一杯の花を抱えて、彼女との待ち合わせ場所に急ぐ。


尤も、彼女がそこからいなくなる事は殆ど無く、時間を細かく指定した理由でもないから急ぐ必要は無いのだが、五年ぶりの再会ともなると、足音の感覚が狭まるのも無理は無いのかも知れない。


彼女と最後に会ったのは、今日から丁度五年前。

その時の彼女は寝ていたのだが、構わず私は彼女に「離れたくない」と泣き付いた。

その事を思い出すと、今でもほおが赤くなる。

恥ずかしい事をしたものだ。

彼女が起きていたなら、私はきっと自殺でもしていただろうと思う。


彼女の両親から聞くには、最近は彼女の身の回りの事全てを、彼女の両親がしているのだそうだ。

その事を聞いて、私は急いで休暇を貰い、彼女の住む場所へと向かった、という訳である。


身体はしっかり洗っているだろうか。

御飯は毎日食べているだろうか。

そんな事を思いながら、待ち合わせ場所にじゃりじゃりと足音をたてながら向かう。


彼女は昔から、身の回りの事を両親にして貰っていた。

高校生の時なんか、父親と喧嘩し、三日三晩部屋にこもり何も食べず、栄養失調で病院へ送られたこともある。

その時は流石に私も怒って、彼女を泣かせてしまったのを憶えている。



待ち合わせ場所に着くと、彼女は矢張りそこに居た。





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