少し不思議なとあるおはなし

雪片月灯

第1話 テンプレート美女

 その女の人を視たのは、私が小学生の時でした。

 何年生かは分かりません。

 ただ、確かにその女性を視たのは確かだったのだと言えるでしょう。

 何せ、私以外にもその女性を視たことがある人間が居るのですから。


 少し、私の家系の話をしましょう。

 私の父方の家系は所謂『そういうモノ』が視える家系でした。

 そういうモノが何なのか。

 呼び名はたくさんあるのかも知れませんが、有り体に言ってしまえば『幽霊』です。死者の魂とでもいうのでしょうか?

 それを少しだけ視やすく感じやすい家系でした。

 後から知ったところによると、私の祖母は弱い幽霊ならば祓える女性です。

 それを知ったのは、この話が続けば何れ明かされるやもしれません。


 話を戻して。


 あるところに荒れたお墓がありました。

 いつも母親の運転で通るたびに「なんだか嫌だなぁ」と思うほど、荒れ果てたお墓でした。

 そんなに嫌なら駄々を捏ねてそこを通らなければいいのに、と思われたかも知れませんが、どう頑張ってもそこを通らないと家には帰れない場所にそのお墓はあったのです。


 そんな日々が続いたある日、私はついに視ました。その女性を。


 荒れ果てたお墓の前。少し角になっている場所に立つ、真白いワンピースを着て黒い傘を持った女性。時がゆっくりと進んでいきます。まるで静止画を見ているようでした。

 けれどもゆっくり、ゆっくりとその光景は動いていきます。

 女性は緩慢な動きで伏せていた顔をあげました。

 私の視界に映ったのは、真っ赤な口紅を裂けるほどに広げた女性の口元でした。


「Y?」


 ハッと、母親に名前を呼ばれて、その時ようやく私の時は戻りました。

 あの時視た女性はなんだったのか。

 少しだけ考えて、幻だったのではないのかと思いました。

 けれども数日後に会った祖母にポロリとその話をしたところ、こう言われました。


「Yも見たんだね」


 話を聞くと私の二つ下の従姉妹と祖母が私の家から帰るその時に、同じ女性を視たそうなのです。

 驚きました。私は生まれてこの方、そういう……有り体に言ってしまえば『幽霊』という存在に会ったことがなかったからです。

 恐怖と興奮。

 その時はまだ、その程度の感情で済んでいました。

 何せ、本当に怖い思いをし始めたのは、もっと大人になってからでしたから。


 余談ですが。そのお墓。今は綺麗に整地されています。

 なんでもそこで『女性の幽霊を視る人が増加したから』だとか、なんだとか。

 真偽のほどは、今も分かりませんが。


 何はともあれ、これがはじまり。

 私の少し不思議な体験が幕を切ったのです。

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