これは不動産の仕事をしていた父親に聞いた話です

ちびまるフォイ

* かべのなかにいる *

「ただいまー……あれ?」


家に帰ると玄関より先に進めなくなった。

バリアというか足が動かないというか。


「今日はホテルにでも泊まるか」


家を離れてホテルに向かったがホテルでも玄関までしか入れない。


「すみませーーん!! あのぅ! 泊まりたいんですけどーー!」


受け付けはこちらをチラ見してまた業務に戻る。

くそ、こっちが玄関入れないと客扱いもしてくれないのか。

これが現代社会の冷たさというやつなのか。


家の玄関に戻って休むことにした。あぁ、みじめ。


「はぁ……いったいどうしてこんな体質になっちゃったんだ……」


明日、病院へ行こう。

病院で診てもらえればきっと良くなるはず。


その日は玄関で眠りについた。


翌日、玄関で目を覚まして病院へ行ってみる。


「ああ、ちくしょう。ここでもかっ……!」


玄関までしか入れない。

それは病院でも同じだった。


「すみませーーん!! すみませぇぇぇーーん!!」


院内に響くほどの大声で叫んでみても誰も来ない。

このパターンはホテルに続いて2回目。


「なんでだよ! そんなに医者ってのは偉いのか!

 ぼろぼろの患者が這ってでも診察室来なけりゃ、診察もできないのか!

 同じ人間だろうが!!」


毒づいても誰も来なかった。

むなしくなったのでまた自宅の玄関に戻った。


「はぁ……この生活はいつまで続くんだろう……」


いっそ、玄関から地続きの家を作ろうか。

アメリカとか海外の家みたいに土足で入るような……。



パリ――ン!!



「な、なんだぁ!?」


明るい家族計画を妄想している途中でガラスが割られた音で現実に戻った。

音は家の中から聞こえる。


「おい、大丈夫かよ。派手に音を立てて」


「安心しろよ。この家の奴はぜったいに来ない」


「でもよ、子供や嫁がいるかもしれないだろ」


「独身だよ。誰も来ないって」


空き巣集団の会話は玄関まで筒抜けだった。


「独身だって、彼女がいるかもしれないだろぉ!!」


いないけど。

いないけど反論はしたかった。


犯人たちは手際よく家の中の高そうなものを運んでいく。


「くそぅ……玄関さえ、玄関さえ抜けられればあいつらを捕まえられるのに!」


空き巣が終わると犯人たちは手際よく終わった解放感から

家の中をわざわざ破壊しはじめた。


「うぇ~~い! ぱーす!」


ガシャン。


「ここにおしっこしようぜ」

「お前ひでぇな」

「最凶の空き巣として明日のニュースにぎわそうぜ」



「やめろぉぉぉ! 俺の家を汚さないでくれ!!」



「壁壊してワンルームにしようぜ」

「天才かよ」


ゴッ。

ゴッ。


ベキッ、バキバキバキ……。


「ああ、あああ……」


大事にしてきた家がどんどん壊されていく。

どうしてこんなときに玄関から進めないんだ。


「おい、壁から変なの見つけたぜ」


「まじかよ。はがしてみようぜ」



べりっ。



 ・

 ・

 ・


翌日、少年たちはニュースで大々的に取り上げられた。


「昨夜、少年たちが交差点で不可解な死体で発見されました。


 少年たちは空き巣グループのようで、

 昨日も無人の一軒家に忍び込んで空き巣を行った後

 交差点で謎の失血死を遂げました。


 先日、この交差点では、一軒家の居住者の男性が

 事故に遭って死亡した現場であることから

 警察では因果関係を調べているようです」





不動産の父親はよく言っていました。


玄関にあるお札だけははがすな、と。

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これは不動産の仕事をしていた父親に聞いた話です ちびまるフォイ @firestorage

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