魔法少女戦録ブレイズ 討滅の桜花

鋼鉄の羽蛍

第1話 神の業火

一、その剣は日の本に仇名す悪鬼を草の如くなぎ払い、


一、その勾玉は日の本の厄災の根を尽くことごと封じ込め、


一、その鏡は潜む悪鬼を晒し、また日の本を守る盾となる。




「どうなっている!?」

「分かりません・・・!しかし・・・儀式は・・・・失敗です・・!」


 霊山の奥、人が寄り付かぬ様人払いをかけられた広大に開けた場所。

 祭壇の様な施設で儀式をとり行っていた術者達がざわめきたてる。

 陰陽道のそれに近い装束に双肩の陰陽の紋、各々の手には術式とおぼしき物が刻印された機械的な祈祷杖。

 その儀式の中心となっている祭壇は直径10m四方の陰陽紋。そしてその真ん中に少女が一人。しかし、その少女に異変が起きている。


「・・・あっっ・・・ぐぅううう・・・・熱い・・・・熱いよ・・・助けて・・・!」

「バカな・・、この霊力・・・・!?いかん、このままでは桜花様のお体が焼き尽くされるぞ・・!」


 術者達は恐らく全く想定していなかったであろう、霊力付与の基準など消し飛ぶ様な想像を絶する霊力。


「急げ!中断の術式展開!・・・間に合ってくれ・・!」


 儀式展開の中心となっている術者から配下の者へ指示が飛ぶ。


「桜花っっ・・!」


 そこへ一人の男が状況を聞き駆けつけた。そして桜花と呼んだ少女、いや正確にはそこに宿ろうとしている力の正体を見抜き戦慄した。


「なっ・・・・!・・・こんな事が・・・・まさか・・霊力の一端どころか神霊を・・・・!破壊神【ヒノカグツチ】本体を降臨させてしまったのか・・・!?」




 幾度となく滅びを迎えながらも再生してきた地球ほし。多くの生命いのちと様々な種族に満ち溢れたこの世界は、生命いのちの預かり知らぬ所で守護されてきた。数多の宗教や伝承にて語り継がれる神世の物語、それは現代に生きる生命いのちも例外なく守護されている。

 しかし、それに気付く者はそれぞれ繰り返される文明・そこで紡がれる歴史の中の一握りでしかなく、ほとんどの者が与えられた平和を何も知らないまま、ただ享受する。

 神世の時代、この地球ほしは人類や生命いのちの数を凌駕する八百万の神々によって創生され守護されていた。

 そして世界には、神々と共に文明と歴史の守護と維持と言う役割を担う者達が存在した。

 

 神々に匹敵する霊格を持ち、同等な権力及び発言権を持つ霊格存在バシャール。観測者とも言われるそれらに世界を直接的に守護する存在の調律者。


 ここ日本国は古の知られざる伝承(多くの者が存在すら否定する)太陽の帝国ラムーの一部とされた。その帝国に在りし調律者により力の行使を許され、連綿と日本を守り続けた者達は現在の日本が形作られた時代、神々の思惑により存在を消してしまったラムー帝国から引き続いて歴史の守護を担う役目を日本神族により言い渡された。


 現在守護を担う役目を負う者は様々な形態を得て、現在の歴史の表舞台と裏舞台両面より組織化された一族にて守護・維持を行う形で落ち着いた。


 その中心となる一族の一派【三神守護宗家】が宗家【草薙家】では、今非常に重要な問題を抱えていたため、事を急ぐ余り宗家存続も危ぶまれる状況となっていた。



コンコン――

「おはよう、今大丈夫かい?」

「あ、ハイ。どうぞ。」 


 【三神守護宗家】により運営される東都心郊外の総合病院の一室。開けた市外と駐車場が一望できる宗家専用個人病棟に来客が訪れた。 

 2050年代に世界をおそった、【人造魔災害バイオデビルハザード】は日本国内で起きた数々の事件が引き金となっていた事もあり、唯一世界で災害の直撃を受けたと言っても過言では無く、その時超巨大魔生命体の放った高エネルギー魔量子波によって日本列島は中央から分断され、一時的に首都機能は完全に停止していた。

 だが、その事態をあらかじめ想定していた【三神守護宗家】により被害のすくなかった関西方面に首都を移動、東京都心が完全復旧するまで日本は分かたれた列島のそれぞれに首都を持つ国として今なお歩んでいるのだ。


 「体の調子はどうだい?気分は悪くないか?」


 病室で上体を起こして、窓の外をぼんやり眺めていた少女は来訪してくれた男性に精一杯の笑顔を送って答えた。


「大丈夫ですよ。ありがとう、おじさま。」

「そうか。よかった。」


 少女の笑顔と引き換え、男性の表情の方が笑顔の中に深い後悔の念が見て取れる。


「おじさま、そんな顔しないで。私は私なりの覚悟を持って儀式に望んだんです。」

「ああ、知っている・・・。それでも君の両親には顔向けが出来ないから・・・。」


 少女に対し後悔の念を惜しまぬこの男性は、草薙宗家表門の現当主草薙炎羅くさなぎえん ら

 眼前の少女を宗家裏門の不在当主に選び儀式をとり行う役を任された者だ。だがまだ幼い少女、弟の娘にあたる草薙桜花くさなぎおう か を当主に就けるのは時期が早いと反対していたのだが、彼は本来草薙家直系の血筋ですらなく、全くの一般人から当主に就いた宗家でも異端の当主であった。

 当主としての経歴は積み重ねてきたものの、未だに直系外当主への反対派も多く、特に伝統儀式の類は反対派に押し切られてしまう弱さも残っていた。


「神霊の力は霊力として桜花を包んでいた。だから体が焼ききられる様な事は無いと、宗家お抱えの医師も言っていた・・・。けれど、今その両足・・・・動かないんだろう・・?」


 神霊の力を生身に宿す。それだけでも成人にかなりの負担を強いる儀式である。それが年場も行かぬ少女に、神霊の霊体そのものを降臨させたとなれば、普通ならその身を一瞬で食らい尽くされてもおかしくなかった。


 

 そう相手は慈愛や平和の神では無い、天津神きっての破壊神なのだから――

 

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