第4話 マフラー少女と愉快な仲間たち?

「カ〜グラっち〜!!!」


 ソラと同時に部屋のドアを開けた謎のマフラー少女は、カグラを視界に捉えると目にも留まらぬ速さで走り去って行った。

 そのままカグラに抱き付くと、抗う彼女など御構い無しにナデナデモフモフしていた。

 どちらかというとマフラー少女の方がモフモフしがいはあるということはあえて伏せておくと少年は心に誓う。

 これがユリというものかと、初めて見るその光景を目に焼き付け、そっと手を合わせたところで口が開けっぱなしだったことに気付く。

 それにしても彼女の登場には驚いた。まさか同時にドアを開けるなんて。運命とか変な勘違いを起こすところだった。

 そういえば彼女が走り去る時、異様に空気が冷たく感じたのは気のせいだろうか。風…というより、冷蔵庫を開けた時の冷気のような。


「やぁ」


 二人のユリ展開に目を奪われ、さらにマフラー少女について詮索していた所為で、肩をポンと叩かれるまで背後の気配に全く気付かなかった。


「どぉあゃあ!!!」


 驚きとそっさの反応が入り混じって変な声が出てしまった。勢いよく振り向くと、青い髪の男が腹を抱えながら笑っていた。金色に光る瞳からは涙が溢れている。


「あはは!また驚かせちゃったね。君は案外怖がりさんのようだ。けど元気そうで何より」


 通りでさっきの挨拶、異様に気合いが入ってたわけだ。計画的犯行とは非常に恐ろしい。


「…ん?俺のこと知ってるのか?」

「あぁ。なんせみんなで毎日看病していたんだからね。あ、僕はソウマ。あっちにいるユイと同じクラスから来たんだ。よろしくな!」


 ソウマと名乗る男性は自己紹介を済ませると、握手を求めてきた。


「俺はソラ。看病ありがとな」


 ソラも自己紹介をすると、ガッチリと握手を交わす。初対面でも熱い友情。

 ふと、ソウマを見据える視線の先に何か物陰が見えた気がしたが、部屋の外には誰も居なかった。


「そういえばソラ君が外に倒れていた時、何の検査もせずにここに運ばれてきたけど、一体どんな能力を持っているんだい?」

「倒れてた?俺はてっきり…」


 そこで言葉に詰まる。ここから先は彼にとって全く確信のないただの推測。それをあまり悟られたくはなかった。

 彼の様子を見て怪訝に思うソウマ。しかし彼女の一言でこの沈黙が破られる。


「この人、何も覚えていないのよ」


 はぁーっと長い溜息とともに頭を抱えるソラ。できれば記憶の事はもう少し隠しておきたかったのだが、彼女の前では無意味なことだった。

 そして当然のことながら、一斉にこちらへの視線が集中する。


「え!?ソラっち記憶喪失なの?大丈夫?これ何本に見える?」


 ユイはソラの方へ向かって指を立てて見せる。


「えーっと、2本…じゃなくて!それ使い所間違えてるから!」


 つい真剣に答えてしまった。一方ノリツッコミされた当人はというと、素で喋っていたらしく笑って誤魔化してはいたが、顔は朱に染まっていた。

 しかし彼女のお陰でシュールな空気は避けられたようだ。


「そうか、記憶喪失ってことは能力の事についても何も覚えてないのか?」

「すまない。ってか能力ってそもそもなに?」


 あまりの爆弾発言に、ソウマは驚嘆する。


「おいカグラ!能力の事何も言ってない?」

「が…概略だけ」


 ソッポを向いて答える彼女を、ソウマはジト目で溜息を吐く。


「じゃあこの際だ。ソラに自己紹介を兼ねて能力のお披露目といこうじゃないか」


 やっと"能力"の正体を知る事ができる。しかしソラにはそれ以外に一つ気になる事があった。


「おーいいね!けどその前に一つだけ。ずーっと気になってたんだけどさ、ユイってなんで夏にマフラーなんて暑苦しいもん巻いてんだ?」

「あーこれ?これはね…」


 ユイはマフラーをヒラヒラさせて答える。が、彼女に先程までの笑みはなかった。


「これは…かけがえのない、大切なモノなんだ」


 何処か切なそうに笑みをこぼす彼女は、窓の外へ視線を移す。


 ため息混じりに吐く息は、小さく白い煙をあげた。

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