BLOOD Day’S

俺だよ

プロローグ

 ~長き眠りからの目覚め~


 一人のシスターが教会から一つの禁書を持ち出し都会から大きく離れた湖で儀式を行っていた。

 満月の夜にシスターは湖の周囲を鎖で囲い、手首を軽く切り湖に血を流し、禁書に書かれた呪文を読み上げる。

「…この世を聖なる光で照らし、この世の邪気を取り除き、穢れなき我の血で、我の願いを聞き入れよ」

 シスターは一呼吸すると力強く言った。

「この世を生ける者全てに女神の加護・幸福・平等を与えよ!」

 湖から眩しい光が発しシスターは思わず目を瞑ってしまう。

 光が収まると湖には水が一滴もなく、湖のあった所には一人の男性が空に浮いていた。

 黒い短髪、黒いロングコート、黒い革の様な物で出来たズボン…黒しか身に纏いたくないといわんばかりの格好だったが何よりも背中に生えた黒い翼が不気味だった。

 女神への願いを申す儀式だったはずなのにそこにいた男はどう見ても悪魔だった。

「そんな…女神様を呼び出すつもりだったのに…どうして…!」

 シスターは恐怖で身体が硬直し黒い悪魔に禁書をあっさりと取られてしまった。

 しかし悪魔は私を殺そうとしないどころか禁書を黙読し始めたかと思うと、急に小さく笑いながら言った。

「…お前、儀式するの初めてだろ?タイトルに騙されたのかもしれんが、

 この本の中身…お前のやろうとしていた事と真逆の事しか書いてないぞ。」

「…えっ?」

 …こいつは何を言っているのだろうか?その本の表紙には「女神への祈り」と書かれているし。

 内容も女神への願いを届けるという内容で儀式の準備法も載っている。

 これのどこがおかしいのか私にはさっぱりわからない。

「お前のやりたい儀式なんてこの世に存在しないだろうな。天使も神様も女神様もお前の願いなんざ聞いちゃくれないだろうしな。

 まあ、儀式をする前に魔術の勉強でもしてるんだな。」

 きょとんとしてると禁書を返され男は過ぎ去ろうとしたが、私はその男を見放す訳にはいかないと感じた。

「待ってください!私はあなたから聞きたい事があります!あなたはいったい何者なのですか?」

「俺の事を知りたいか?寝起きだが覚えてる範囲で包み隠さず教えてやるが、俺も聞きたいことがある。」

 私は男の圧倒的な迫力により息を呑んだ。

「俺はセブン。十人の純血種の内の一人。第七の純血種だ。それ以外に自分の事は覚えていない。今度はこっちが質問するが今何年だ?」

「純血種…!?まさか本当に吸血鬼が存在するなんて…」

 純血種と聞いて私は彼が吸血鬼であることがすぐに分かったが、実在することに驚きを隠せなかった。

「おい聞いてるのか?何年眠ってたか分らんから今が何年か教えてくれって言ってるんだが。」

「今は2020年です…。」

 吸血鬼という存在を目の当たりにして混乱しつつも無意識に答え、男は手を顎に当てぼそぼそと呟いていた。

 警戒はしつつも少しずつ落ち着きを取り戻し、修道着の中に隠し持っているナイフを掴んだ。

 すると、セブンは私が武器を持っていることに気付いたのか私の方を見る

「そんなに警戒しなくてもいい。寝起きで戦うつもりはないし、まず今の世界の状況を知ってから飯を食いたい。」

 吸血鬼の食事が人の生き血を啜る事、つまり私をここで殺す事だと察した私は恐る恐る聞いた。

「聞きたい事を聞き終えたら私の血を吸うつもりですか…?」

「飯は飯だ。血を飲むのは気が向いた時か心の腐った人間を殺す時だけだが…」

 私が瞬きをすると目の前にいたセブンはいなくなっていた。

 そして私は首に鋭い痛みが走り、痛みの感じる所を触れてみると血が流れていた。

 首には傷口があり、私は血を吸われたのだと思った。

 戸惑っていると、後ろからセブンの声が聞こえる

「安心しろ。俺はお前を殺すつもりはない。ただ、お前がこの血とどれだけ相性が良いか見てみたくなったから吸血鬼の血を体に流し込んだだけだ…」

 意識が朦朧とし視界が狭く暗くなっていく。

「相性が良ければ生きるのには問題はない。むしろ…」

 セブンが喋っている途中で私は意識を失った。

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