2)海村 雄吉

続きまして、もう一人の主人公をお呼びしてます。なんと、天国からわざわざやってきてくれました。

海村かいむら雄吉ゆうきちくんです。


それではどんどんインタビューしていきましょう!


Q「では、始めに簡単な自己紹介をどうぞ!」

雄吉「はい。自分は、大日本帝国陸軍、第六航空隊隷下、特別攻撃隊、第165振武隊しんぶたい、海村雄吉少尉であります! 生まれは1923年の大正12年、5月10日で、現在22歳であります。」

Q「えっと、特別攻撃隊ということは、所謂特攻隊に所属して、つまり、敵の艦隊に飛行機で体当たりした、ということですか?」

雄吉「そういうことになります。」

Q「怖くなかったですか?」

雄吉「え? ま、まぁ・・・。でも、そんなこと、敵の艦隊を前にしたら考える間も無かったと思います。」

Q「そうですか。いやいや、さすがです。でも、やはり敵艦に体当たりしたということは、その時に、・・・つまり、その、戦死、されたんですか?」

雄吉「そういうことです。僕の人生は、そこで終わったことになっています。でも、そのあと、なんか大きなお寺のようなところに連れて行かれて、観音様みたいな方から、“あなたの俗世での行いは、感服するものがあります。あなたの望みを一つ、見せて差し上げましょう”と、そうおっしゃられて。気が付いたら、70年後の実家の前に居て、そこから9日間、2015年の日本で過ごさせてもらいました。」

Q「実に不思議な体験ですよね?」

雄吉「僕自身、どうしてこんなことが起こったのかよくわかりません。でも、もしも自分が死んだあとの日本がどうなっていくのかわかっていたら、もっと気持ちよく、逝くことが出来るかもしれないとは、生前思っていたことはありました。」

Q「それはどうして?」

雄吉「やっぱり、日本の行く末がどうなってしまうのか、昭和20年の6月の時点では全く分からなかったことでしたし、もう日本が負けてしまうだろうことは、仲間内でこっそりと話していましたから、敗戦国となった日本で生きていくことになる僕の家族や友達が、いったいどうなってしまうのか、気が気じゃなかったからです。」

Q「そしたら、その願いが叶って、70年後の横浜に帰ってきた。そして、その時代を生きる一族の子孫たちと生活を共にしていくわけですね。」

雄吉「はい。」

Q「22歳と言っておりましたが、大学生だったんですか?」

雄吉「はい。2年前、あっ! 生前で二年前ってことですよ。だから、昭和18年か。それまでは大学生でした。」

Q「どちらの大学で、どんなことを学ばれたんですか?」

雄吉「えっと、大学は明治大学で、経済学を専攻してました。これからの日本を支えるのは、物の動きだと感じて、流通や物流について研究したいと考えて、入学を志した次第です。」

Q「それは、なかなか素晴らしい志をお持ちだったんですね。戦争さえなければ、発展途上だった日本にどれだけ貢献することができたのでしょうね。」

雄吉「まぁ・・・。それは、考えても栓の無いことです。結局、僕は学徒出陣で修業年数を削減された上で卒業させられて、そのまま陸軍に入営してしまいましたから。」

Q「陸軍に入営することについて、何か不安や不遇を感じることはなかったんですか? ほとんどの人が中学校にも行かない時代でせっかく大学まで出て、それでいて軍隊へ入らされる。これほど悔しいことは無いんじゃないかと思いますが?」

雄吉「全く惑いが無かったかと言われたら、それは嘘になりますけど。でも、それ以上に日本の情勢が危機に直面している、このまま外国の連中に日本の誇りを踏みにじられて、この大地を土足で闊歩されてしまうと思うと、やはり立ち上がらなければならないと強く思うようになったんです。もし日本が負けてしまったら、家族が辛い思いをする。苦しい状況に晒されて、はずかしめを受けてしまうかもしれない。それを防ぐ盾になれるのなら、僕はこの身を捧げてでも守って見せる。そう考えていました。」

Q「そうだったんですね。やはり、日本が好きですか?」

雄吉「はい。この国の子として生まれたこと、誇りに思います。」

Q「わかりました。あなたがどんな覚悟を以って陸軍へ入営して、特攻隊へ往ったのか、わかったような気がします。」


Q「それでは続いての質問です。あなたは犬派ですか? それとも猫派ですか? 理由も添えて教えてください。」

雄吉「はい。僕は、犬ですね。」

Q「それはどうして?」

雄吉「実家で飼ってた犬が、僕によく懐いてくれていて。柴犬だったんですけど、本当にかわいかったんです。僕が学校から家に帰ると、いつも尻尾を振りながら近寄ってきて、“おかえり”って言ってくれてるみたいで。(ニコニコ)」

Q「そうなんですね。昔から犬がお好きで?」

雄吉「はい。」

Q「なるほど。」


Q「次の質問ですが、これはあなたには答えが決まっていそうですね。」

雄吉「どういうことでしょう?」

Q「ずばり、今あなたに大切な人はいますか? いたとしたら、なぜその人が大切なのですか?」

雄吉「あぁ、そういうことですか。もちろん、家族です。」

Q「どうして、家族なのですか?」

雄吉「僕のこと、ここまで育ててくださったのは、母であり、父であり、姉であり、妹や弟たちがあってこそだからです。だから、そんな家族のことが、すごく大切なんです。敵が攻めてきて家族に危害が加えられるようなことになったら、何が何でも守り抜きたいと思います。」

Q「本当に、家族のことが大切なんですね。でも、既に雄吉くんはご家族のためにあの戦争を闘い抜いたのではないでしょうか?」

雄吉「はい。70年後の日本へやってくることができて、それを知ることが出来たので、本当に安心しました。僕の姉弟たちの子孫が、この時代にもしっかりと生きていてくれている。繋いでいてくれている。それを知ることが出来て、本当に良かったです。」

Q「ちなみに、何人弟妹だったんですか?」

雄吉「7人です。」

Q「さすが、大人数ですね。」

雄吉「僕の感覚からしたら、普通くらいな気もするんですけどね。でも、70年後の日本だと、3人兄弟でも多い方だと聞いて、ちょっと驚いてます。」

Q「雄吉くんは何番目なんですか?」

雄吉「僕は二番目です。上に姉がいますよ。」

Q「そしたら、長男だったんですね。」

雄吉「はい。」

Q「下には5人の弟や妹がいたんですね。」

雄吉「妹が3人、その下に弟が2人いました。上の方の弟の孫が、雄大や雄翔ゆうとくんになりますね。」

Q「長男でも出征して、特攻隊に往ってしまうことなんてあるんですね。」

雄吉「僕の場合は学徒出陣だったんで。当時大学の文系学部に在籍してた者は、みんな入営してしまいました。」

Q「特攻隊には、強制的に配属させられたとか?」

雄吉「いや、自分から申し出ました。陸軍に入営して、より日本の戦況が芳しくないことがわかって、このままだと本当に連合軍に日本を侵されると思って、なんとかしないといけないと感じたからです。何より、家族を守るためだと、強く思いました。」

Q「そうだったんですね。特攻隊に配属する決心がついたのも、やはり家族が大切だったからということですね?」

雄吉「はい。その通りです。けど、僕と同じ隊には、唯一の男子として生まれた人も居ました。僕には弟が2人も居てくれて、アイツらがしっかりと子孫残して、海村の家を繋いでくれたことを知れて、まだ良い方かなって、そう思います。」


Q「さて、もし10億円あったら、何をしますか?」

雄吉「えええええ!!!!! 10憶円?!」

Q「あ、もちろん、2015年のときの相場でですよ。」

雄吉「はい・・・。あ、でも、だめです。僕、この時代の相場、あんまり詳しく把握できてなくて。」

Q「そうすると、困りましたね・・・。」

雄吉「とりあえず、家族のために使いたいと思います。何に使うかは、すぐに出てきませんけど。そうですねぇ、もし可能でしたら、遠くへ旅行に行ってみたいですね。」

Q「旅行?」

雄吉「はい。家族みんなで列車に乗って、九州とか四国、もしくは東北や北海道。なかなか足を伸ばすのが難しいところへ旅をして回りたいですね。」

Q「それはいいですね。」

雄吉「でももう、さすがにできませんけどね。」

Q「え? なんで?」

雄吉「だって、僕はもう死んでしまっている訳ですし。僕の家族だって、末の弟と二番目の妹以外は天国へ行ってしまってますからね。(笑)」

Q「あぁ、そういえば、そうでしたね。(汗)」

雄吉「もう少し待って、家族全員が天国で揃ったら、そのときみんなで日本全国を回る旅をすることを企画してみますよ。」

Q「もう、どこにでも行けますからね。」

雄吉「はい。(笑)」


Q「ここ最近で一番楽しかったことや面白かったことはありますか?」

雄吉「それはもう、2015年の横浜へやってきた9日間です!」

Q「どうしてそのように思いますか?」

雄吉「なんだろう。何かに迫られるような思いをしないで、うんと羽を伸ばして、純粋に目新しいことを体感することができたからじゃないでしょうか。生前は、やっぱりいろいろやることがたくさんあって、なかなか落ち着いて楽しむことって出来なかったような気がしますね。」

Q「やはり、常に戦争を意識しながら生きてきたからですかね?」

雄吉「そうだと思います。2015年の日本では、もう戦争が無くなっていて、どんなことをするにも自由みたいでしたし、こんな時代が訪れるなんて素晴らしいと思いましたしね。だからちょっとだけ、この時代を自由に生きられる雄大や雄翔くんのことが羨ましく思ったりしてます。(苦笑)でも、そんな素晴らしい時代を、9日間も体験させてもらえて、本当に嬉しかったし、すごく楽しい思いを最期の最期にさせてくれたと思っていますよ。」

Q「いろいろ2015年の日本で体験したことがあったことと思いますが、特に印象に残っていることは何ですか?」

雄吉「そうですねぇ。やっぱり、横浜の街が大きく変わっていたことですね。特に桜木町周辺の様子が。何でしたっけ、すごく高い建物、ラン・・・」

Q「ランドマークタワー?」

雄吉「そうです。ランドマークタワーみたいな、とても高い建物とかも出来ていて、驚きました。高い建物は、東京へ行ったときにもたくさん見ましたけど、日本の技術力がすごく発達したのだと実感しました。あと、スカイツリー。これはもう驚きましたね! もう雲にまで続いてるんじゃないかって。スカイツリーを真下から見上げたときは、本当に興奮しましたね。」

Q「スカイツリーは、現代の日本人でも圧倒させられますから、きっと戦前の時代を生きてきた雄吉くんが見たら、我々以上に感動的だったんでしょうね。」

雄吉「それはもう、はい!」


Q「それでは逆に、悲しかったことはありますか? こんなこと、戦争にまで行って過酷な時代を生き抜いた方に聞くのは、本当に心苦しいのですが・・・。」

雄吉「う~ん。やっぱり、もう、僕の人生が終わってしまったこと、ですね。」

Q「やっぱり、特攻出撃するにあたって、思い残すこととかも多かったんですか?」

雄吉「まぁ、それなりには。2015年の日本で過ごさせてもらった今だから思いますけど、いろいろやってみたいことがたくさん残ってしまっているんだと、感じてしまいました。雄大みたいに、これから先の時間を思う存分やりたいことに挑戦するために使えるなら、あれもできる、これもできるって、あれこれ考えてしまって。特攻隊に配属したときに、もうそういうこと考えるのはやめようって、きっぱりと諦めて、心に蓋をしてきたつもりだったんですけどね。」

Q「平和な日本で過ごしてみて、あのとき蓋した気持ちが再び暴れ出してしまったみたいですね?」

雄吉「はい。だから、刻々と迫る最期のその時が近付くにつれて、すごく悲しくなって、悔しく感じて、あの戦争を恨めしく思ったりもしました。最期の日の前日は、もう押しつぶされそうなくらいでした。まだ死にたくないって思いで。」

Q「そうだったんですね。」

雄吉「この無念は、来世で思う存分果たそうと思います。」

Q「そうですね。次の雄吉くんの人生が長く充実することを、心からお祈りしてますね。」

雄吉「ありがとうございます。」


Q「ここからはもしもの話を聞いていきますよ。」

雄吉「はい。」

Q「もし、目の前に傷ついた子供がいるとします。雄吉くんならどうしますか?」

雄吉「傷付いた子供ですか。もし陸軍の任務中にそういう場面に出会でくわしたら、所持しているヨーチンとかの薬で手当てしたりしますかね。その後で、子供が落ち着いてきたら、いったい何があったのか聞いてみようと思います。僕で力になれることがあったら、一緒に協力してあげたいと思いますし。」

Q「なるほど。」

雄吉「もしも友達とかに虐められてしまったなら、一緒に仕返ししに行ってあげてもいいかもしれないですね。もちろん、手は出しませんよ。(笑)ちょっと脅かしてやって、仲直りしてくれるように話をしてやろうと思います。」

Q「なんだか、頼れるお兄ちゃんって感じですね。」

雄吉「そうですか? でも、まぁ、そうかもしれませんね。実際、妹や弟たちが喧嘩したときとかは、兄として仲裁に入ったりして仲を取り持ってきたりしてましたから。」

Q「なるほど、弟妹との思い出が活きてる訳ですね。」

雄吉「はい。」


Q「さて、次は見覚えがない異性が声をかけてきたとします。どうしますか?」

雄吉「見覚えがない異性から、ですか・・・。」

Q「どうでしょう。もしそういう場面になったら、どういう行動を取りますか?」

雄吉「う~ん、あんまり、そういう経験が無いんで、どういう行動に出るのか、すぐにはわかりません。」

Q「例えば、同じくらいの年の女性が好意的に話し掛けてきてくれたら?」

雄吉「え? 好意的って、つまり、好きだと感じてってことですよね?(紅潮)」

Q「はい。」

雄吉「う~ん。それは、嬉しいですけど。そうですねぇ。とりあえず、ちょっと話をしてみようかな。喫茶店とかで、いろいろと話してみて、どんな人なのか知ろうと思いますよ。」

Q「なかなか純情ですね。(ニコニコ)」

雄吉「そ、そうですか? あんまりこういった経験が無いんで、どんなことするのが良いのかよくわからなくて。」

Q「学生時代とかに女性と交際するような機会は?」

雄吉「なかったです。中学校以降は、あんまり女の人が同級生にいなかったんで、なかなか交際に発展するようなきっかけが無くて。」

Q「なるほど、そうだったんですね。」

雄吉「雄大から聞きましたけど、この時代は女の人も大学まで行くようになっているんですよね?」

Q「そうですね。」

雄吉「恋愛に至るお付き合いをしてる学生もそれなりに居るとも聞いて、時代が変わったなぁと思いました。僕もこの時代に生まれてたら、学生時代にお付き合いする方とも出会えたりしたのかなって、ちょっと雄大たちが羨ましく感じましたよ。(笑)」

Q「学生時代に恋愛してみたかったと?」

雄吉「そういう機会があったら、そりゃ是非やってみたかったと思いますよ。」

Q「そういう機会のときは、異性から声を掛けられるのと、自分から声を掛けるのか、どっちが雄吉くんにとって理想だと思いますか?」

雄吉「そうですね。もちろん、声を掛けられたらすごく嬉しいですよ。(微笑)けど、やっぱり男らしく、僕の方から声を掛けてやりたいって、思いますね。」

Q「そうですか。次の人生では、学生のうちに好きな女性と出会えて、告白して、見事お付き合いが出来たら良いですね。」

雄吉「がんばりますよ。(笑)」


Q「現代の海村家の人に伝えたいことはありますか?」

雄吉「いっぱいありますよ。2015年の海村家の皆さんには、本当にお世話になりましたから。突然現れた僕のことを、とても親切に受け入れて下さったこと、本当に嬉しく思ってます。改めて、御礼申し上げたいと思います。」

Q「雄大くんには、何か個別に言いたいことはありますか?」

雄吉「はい。ずっと僕に2015年の横浜の街や文化とか、いろいろ紹介してくれて本当にありがとう! キミに会えて、良かった。こんな素晴らしい時代を生きていけるキミが、ちょっと羨ましく感じました。この戦争のない、平和で自由な日本が永遠に続くように、僕たちのことを教訓にして、生きていって下さい。今度のお彼岸のときに、キミたちの家に遊びに行くからね~。そのときは、ちょっとだけでも仏壇に手を合わせて、偲んでくれよなぁ。(笑)」


Q「最後に、このインタビューを読んでいる人にメッセージをどうぞ。」

雄吉「あ、はい。えっと、最後まで読んで下さいまして、本当にありがとうございました。お気付きのように、僕は大東亜戦争のときに特攻隊として出撃して、敵艦隊に飛行機と共に体当たりして、人生を終えました。僕たちのような特攻隊に往って命を落とした仲間たちのこと、どうか忘れないでやって下さい。もう、こんなことで血を流す人が増えないようにしてほしい。それが、僕の願いです。」

Q「今日は天国からわざわざご足労頂きまして、ありがとうございました。」

雄吉「こちらこそ、どうもありがとうございました。皆様に、よろしくお伝え下さい。」








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