無題
いとあはれ
始まりの終わり
私はある日、恋に落ちた。心の内から湧いてくる熱いもののは、決して容易に体験できるものでは無いだろう。そう今までに経験したことのない想い。私はこんな想い速く無くしてしまいたかった。でも、心の何処かでは、忘れたくなかった。
私の学校は今、夏休み。そして今日は夏祭り。恋とは無縁の私は一緒に行く人がいないので、仕方なく一人で行った。夏祭りに行くと、ネオンで装飾された屋台が星の様に輝いていた。そして、カップルや家族等と邪魔臭いぐらい人がたくさんいた。私は、人目を気にしながら、浴衣を着たことに後悔した。
「着てくるんじゃ無かった。」
私は俯きながら境内を歩いて行った。途中、お店の人や子供達のうるさい声が聞こえ、もう嫌になっていた。私は、もう帰ろうかなと思ったら、後ろから、「ねぇ、待って!」男の子の声が聞こえた。そこには、見覚えのない少年が立っていた。見た目は、私と同じぐらいの歳そうだ。すると、少年は、
「僕は
そう言って、彼は私の手をとり走りだした。私は何故だか躊躇はしなかった。むしろ、焔と一緒にいたいと思えた。私達はまるで、ずっと前から知っていたかのように、仲が良く、たくさんの場所へ回った。私は嬉しかった。まるで、恋人のように思えた。遂に私は、
「ねぇ、焔。手、繋いでも良い…?」
すると彼は、私の手を優しく包むように握った。私は、瞳から、一筋の涙を流した。それは、嬉しいからではない。私の存在価値を示してくれるような温かさだった。私は、涙が止まらなかった。
「ねぇ、どうしてそんなに優しくするの?」
すると彼は、私の唇に静かにキスを交わした。私は瞳を閉じ、この瞬間が一生続けば良いと本気で思った。焔は、
「僕は、あの時の恩を返したいだけだよ。」
すると焔の体から毛がどんどん生えていき、遂には体を毛が覆った。焔は人ではなかった。
「驚いた?…僕のこの姿。」
私は、驚いているはずなのに、何故か微笑んでしまった。まるで、こうなることを知っていたかのように。私がまだ純粋で小さかった頃、道路に横たわっている狐を見つけた。私は、すぐに駆け寄り横たわっている狐を抱きかかえた。幸い交通量が少なかった為、狐は軽症だった。
私は、親に黙ってその狐を看病した。そして、狐が治ろうとしていた矢先に親に見つかってしまった。親は、また家に戻ってくることを嫌い、その狐を近くの山ではなく、隣県の山にまで行き狐を捨てた。私は、ずっと泣いていた。それからというもの親に口を聞かず、友達とも接するのを控えた。それをみた親がちゃんと世話をするという条件付きで、飼わせるということが決まり、私は飛び跳ねて喜んだ。そして、私は狐を捨てた山に戻り、必死になって探そうとした。だが、その必要はなかった。狐は捨てた所で死んでいた。狐はきっと私の事を待っていて餓死してしまったと思い、私は後悔した。
「ごめんね、ごめんね、ごめんね…。」
私はその場で崩れ、泣き叫んだ。私はその時から、心を棄てた。もしかしたら、あの狐に恋をしていたのかもしれない。人を超えた動物との恋…。
「私、ずっと待ってた…。君のこと。」
「会える保証もないのに?」
「あったよ、ずっと願ってた。この神社で。」
「そっか」彼はそう言い、私を強く抱きしめた。
「僕も前から、会いたかった…!」
「私も…!」
「でも、もう時間なんだ…。もう少しで僕はこの世をいなくなる。」
私は悲しくはなかった。そんなような気がしていた。私は最後に今までのよりより強く握りしめた。
「痛いよ」
彼はそう言い、私に微笑んだ。
無題 いとあはれ @2002_sky
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