ハイブリットなまはげ

中野あお

その男、ナマハゲ

 時代の流れについて行かなければならない。

 誰しもがそう感じたことがあるはずだ。


 携帯電話が発売されたとき、薄型テレビが発売されたとき、スマートフォンが発表されたとき、地デジに移り変わったとき、ハイブリット車が登場したとき。


 何かしらの媒体を通じてその存在を知ってすぐに買う人、周りがある程度持ちだしてから合わせるように使う人、必要に迫られて取り入れる人。

 人それぞれ、興味に幅はあれど、完全に無視をするというのは難しい。

 それが都会であればなおさら。


 しかし、田舎であっても完全に時代から取り残された生活をしているわけでもないし、便利なものはどんどん取り入れていくという方針の町も多く存在する。


 地方の町でも観光にICTを活用をしようと観光庁が模索する中、ここ秋田に時代の流れに取り残されまいと奮闘する男が一人。 


 藤岡嘉和ふじおかよしかず、41歳、既婚、本業は男鹿市役所観光課職員。

 人呼んで『ハイブリットなまはげ』。いや、名乗らされているだけだ。


 秋田の代名詞的に語られる「なまはげ」だが、実際に行われているのは男鹿半島周辺だけであることはあまり知られていない。

 また、見た目は知っているが実際に何の意味を持って行われてきた風習なのかを知らないという者も少なくない。


 そのような誤解や認知度の低さを改善することが彼の使命である。

 そして、大人6人で真面目に会議を行い出てきた案が『ハイブリットなまはげ』であった。


 このようなアイデアに行きついてしまったのは、名前のインパクトだけが優先された結果でもあるが、もう1つには「なまはげ」だけではパンチが弱いといった意見が取り入れられたからである。


 名前は決まったはいいが、内容は決まっていない。

 見切り発車だ。


 内容を決める会議は思いのほか難航した。


 ハイブリットとエコを勘違いした佐藤が『ソーラーパネルを背負えばいい。』と提案したり、沼田は『きりたんぽでも持たせてみたらどうですか。秋田名物のハイブリットってことで。』などやっつけ案をだし、中川課長が『ハイブリットってレオポンみたいだね。』と関係のないことを言い出すなど、会議は踊る、されど進まず。


 そんな中、民間経験もある小田原係長が出した案は建設的と言ってよかった。


「今はやっぱり外国人に向けた方策を取るべきではないでしょうか。」

「何かいいアイデアでもあるのかい?」

「はい。ありきたりではありますが、なまはげの多言語対応というのが認知度を高めるための第一歩ではないでしょうか。」

「外国人認知度からあげていこうということか。」

「そうですね。それもありますが、そのことを大々的に宣伝してテレビやネットメディアが食らいついてくれたらというのが本当の狙いですが、そこまで打算的にやって上手くいくかはわかりません。」


 彼の出したアイデアは現実的であり、話題性もあるかもしれないということで採用となった。


 さて、この流れで何故藤岡がハイブリットなまはげとなったのか。

 それは彼が英語が達者であり、かつ生まれも育ちも男鹿という郷土愛を買われてのことだった。

 当人はさほど乗り気でなったのだが、仕事だと割り切って行うことにした。


 こうして藤岡は日本語と英語で話し、中国語・韓国語・ドイツ語・フランス語・ロシア語・ウルドゥー語に対応したモニターを胸元に備え、代表的な台詞として『悪い子はいねがー。』と『泣ぐ子はいねがー。』というのをあらかじめ録音しておき、いつでも流せる準備を行った。


 ここから彼のハイブリットなまはげとしての一歩が始まる。












続かない。

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ハイブリットなまはげ 中野あお @aoinakayosa

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