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「よしよし、良い子だ」


「…あんた、実は剣士じゃなくて調教士なんじゃないの?よくもまあ…そんなに懐かせれたね」



魔物を鎮めた青年を見て彼女が呆れたように零す。



「ふっ…捨てスキルと言われた指導スキルが役に立ったまでだ」



何故か青年は少し誇らしそうに胸を張って言った。



「で、こいつら呼んでどうすんの?」


「俺たちが走るよりも速いからな、乗せてもらおうと」



ついでに君の護衛も頼める、と呟いて青年は手を上から下に下げる。



その動きに従うように魔物が伏せった。



「…乗るのは良いんだけどさ、あんた目的地分かってんの?」


「あ」



彼女がため息混じりに聞くと青年が間抜けな声を出す。



「それに…どうやって魔物に目的地を教えんの?」


「それは…俺が、方向を指示すれば…」



続けるような彼女の疑問に青年はしどろもどろ答える。



「…まあ、好きにしたら?」



彼女はジト目で青年見て伏せってる魔物の背中に跨った。



「首の所を軽く掴んでおかないと、振り落とされるぞ」


「ふーん…お、意外と毛がもふもふ…」



青年のアドバイスどおりに彼女が首の所を両腕で挟むようにすると、毛の質感に驚いて呟く。



「…俺の腰を掴んで離すなよ?」


「は、はい!」



青年が指示すると女の人はガチガチに緊張しながら魔物に跨る。



「場所は?」


「あ、ミステス…跡地です」


「『跡地』か…ミステスで襲撃されたのか…?…とりあえず行ってみよう、頼む」



女の人の返答に青年は少し考え込むも直ぐに魔物に指示した。



「ウォフ!」


「う、後ろから、ついてきてくれ!」



魔物が走り出すと青年が彼女が乗ってる魔物に向かって叫ぶ。



「ウォフ!」


「うおっ!こ、これは…!」



遅れて走り出した魔物に跨っている彼女は予想外の衝撃に驚き、振り落とされないようにしがみつく。

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