口は災いの元

逢坂一加

第1話


 くだらないことではありますが、当時は家で出来ない「話」がありました。

 でも、愚痴を言わずにはいられない精神状態でした。


 なので、家族で「話」をしたい時は、わざわざ外出していました。

 家から離れてしまえば、「話」が出来たのです。

 内容は、愚痴です。

 まったく困ったもんだね、はやくなんとかなってほしいよね、というもの。

 その頃、近所の廃屋が撤去され、住みついたネズミが我が家に入り込んでいたのです。

 しかし、ネズミについて話すことは、家では禁じられていました。


 バカバカしいかもしれませんが、何十年も前に起こった「事件」の二の舞になりたくなかったのです。

「事件」が起きたのは、母方の実家がある、養蚕が盛んな地域のことです。

 何十年も前のことですから、当たり前のようにネズミがいました。

 養蚕を営んでいるご家族は、たびたびネズミにお蚕さんを食べられていました。

 ある日のこと、堪えかねたそのご一家は、食卓でネズミについて愚痴を言い合いました。家族同士ですから、誰かの愚痴に誰かが同意し、かなり悪しざまに罵る言葉も出てきたそうです。誰がどんな風に言ったのかまでは、分かりません。

「事件」は、その夜に起き、翌朝に発見されました。

 育てていたお蚕さんの首が、すべて、綺麗に折られていたそうです。


「事件」は、今でもたまに話題になることがあります。

 だから、わたし達もネズミに関する「話」は、家の外でするように心がけました。


 ネコイラズを綺麗に食べてくれるといいね、なんて。

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口は災いの元 逢坂一加 @liddel

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