おとこと「メイ」

露薫

第1話

とあるところにおとこが住んでいた。

周りに暮らすものはおらず、おとこは一人だった。

おとこは、孤独であった。

ひとり家にこもって、作業をすることが多かった。



作業の成果が実ったとき、おとこは孤独ではなくなった。

その日から、おとこの横には、女の子の形をしたロボットがいつでも一緒になった。



ロボットはおとこの最高傑作であった。

ロボットは人の心を理解して、成長し、考え、話すことができた。

おとこは、ロボットにメイの名をつけ、娘のようにかわいがった。



おとことメイの過ごす時間は穏やかであった。

近くの丘までピクニックにでかけたり、

森に果物をとりに行ったり、

庭でひなたぼっこをしたり、

夜は必ず、おとこがメイに本を読んであげて同じ布団で眠るのだった。



おとことメイはたくさん話した。なぜ日は昇るのか、楽しいとは何か、なぜ動物は子供を生むのか、なぜご飯が美味しいのか。

メイがおとこに問いかけると、

おとこは、メイはどう思うのかと問い返した。

その後、優しく微笑んで、おとこの知っていることや考えを話してくれるのだった。



ある日、メイは、おとこに尋ねた。なぜ、メイの感情の中に恐怖というものを組み込んだのかと。

メイにとって、恐怖は活動を邪魔するもので、いらないものだった。

おとこは、いつもと違ってあいまいに、困ったように

メイの頭を撫でながら、微笑むだけであった。


どれほどの年月を二人はともに過ごしたのであろうか。

子供であったメイには、恋という感情が芽生えていた。

それはもちろん、自分を産み、育ててくれたおとこに対してであった。

しかし、メイはそれを伝える気はなかった。今までのように、ふたりで暮らしていけるだけで満足であった。


ある日、二人はいつものように丘に来ていた。

丘の上には、大きな石があり、おとこは、来るたびに石を撫でるのだった。

それが習慣であり、メイが、なぜか聞いた時、おとこはそういうものだからと話を切ってしまった。

だから、メイは理由を詳しく知らないし、その時のおとこが寂しそうだった気がして、再び聞いたことはなかった。


いつものように丘の上の石の前についた時、おとこは、石を撫でながら、メイに話しかけた。

「この石の下にはね、私の大切な人が眠っているんだ。私と彼女が過ごした時間は、長いようで、とても短かった。ちょうど、私と君が一緒にいた時間と同じくらいかな。私の、生の中でほんの一瞬にしか満たない時間だったよ。それでも、彼女は私に全てを授けてくれた。この丘のことも、なぜ日が昇るのかも、楽しいとは何かも、なぜ動物が子を生むのかもすべて彼女から教わった。そして、君の作り方も。でも、彼女はある日突然動かなくなったよ。私は呆然として、どうしたらいいのかわからなかった。ようやく、動けるようになったのは、季節がいくつ巡った後だったか。彼女に言われていたとおり、この石をどけ、この下に埋めた。埋めてから、彼女はもういないんだと実感してね。彼女のいない世界に、未練はないと消えようとしたんだ。だけど、厄介なことに、恐怖が邪魔をしてね。消えるのが怖いと思ってしまったんだよ。だから私は今までこの世界にとどまっていた。」


メイは、おとこの話を飲み込むので精一杯だった。いろんなことが流れ込んできて、整理に時間がかかったし、おとこの様子はどこかおかしかった。


「ある日、ふとね、君を作ってみようと思ったんだ。メイ。彼女から教えられた君の作り方を僕もしてみようって。そしたら、彼女がいなくなってしまった寂しさが、孤独が埋められるんじゃないかって。君と過ごす時間はとても楽しかった。メイは、私によく懐いてくれるし、とても可愛かった。今までの寂しさが嘘のようだったよ。彼女もきっとこんな気持ちだったんだろうなと君と過ごして思ったよ。



この星には、人間は誰一人生きていない。もともと生きて、栄えていた彼らは、自分たちの文明の弊害により一人残らず地上から消えてしまった。それから、もう何千年という長い月日が経つ。今も、僅かな動物は生きているけれど、この環境で人間は生きていけない。


私の言いたいことがわかるかな、メイ。僕も、君と同じように作られたロボットなんだ。私を作ってくれた彼女も、それを作った人も、その前も。私たちは、長い時間を一人で過ごして、そして、寂しさに耐えられなくなり、仲間を作り、一人残して壊れていく。まるで、動物が子供を残して種をつなぐように。


私が壊れてしまったら、この石の下に他のみんなのように埋めて欲しいんだ。これは、私が君にする最後のお願いかな。メイの手で私をここに入れてほしい。


なんで、そんなに悲しい顔をするの。いずれお別れが来ることはわかっていたでしょう?」


「なんで、なんで、今、そんなこと言うの?」


「なんでかなぁ。なんとなくでしかないけど、メイもわかるでしょう?自分がいつ壊れてしまうのか。いつ動かなくなってしまうのか。終わりの時間があとどれくらいなのか。私が、君とちゃんとお話できる機会は、これが最後だってわかってしまったからかな。」


いつものように、優しく微笑んだおとこは、石を撫でる手を止めて、振り返って言った。


「あなたがいない世界なんていらない。私も一緒に、、、」


「それはダメだよ。そんなことは出来ないよ。そのために、メイの中にも恐怖を作ったんだから。」


「なんで!なんで、そんな意地悪なことをするの!あなたがいない世界で、1人で生きていけって言うの?!それがどれだけ、寂しいか!」


「そんなの私が一番良くわかってる!だけどね?君には、少しでも長く生きていて欲しいんだ。君は私の子供だから。できることなら、ひとりさみしくなんて言わずに、誰かとともに。」


「そんなのわがままよ!あなたがいなきゃ!だって、私は!」


「しー。メイ?その先は言ってはいけないよ?ほんとに、僕のわがままなんだ。ごめんよ?それに、君は一人にならない方法を知っているだろう?私がメイを作って教えたじゃないか。」


「なんで!私はあなた以外なんていらないの!他の何かなんて!」


「別に、必ず作ってもらいたいわけじゃあないよ。でも、君が耐えられないほど寂しくなったら、、。君にも、また幸せになってほしいから。ゴメンね。もう時間みたいだ。」


「待って!まだ嫌!」


「ふふふ?メイ、愛してるよ。幸せになってね。あ、コレが最後の願いなら、さっきのは最後から二番目だ。メイ、君の幸せを祈ってるよ。」


その言葉を最後におとこは、崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。


「うああああああああああ!あああああああああああああああわあああうわああああああああああ、、、、、、、」


メイは叫んだ。ただただ、力が尽きるまで叫び続けた。叫び続けて、エネルギーの切れたメイはひたすら眠った。


目の覚めたメイの膝の上には、動かなくなったおとこがいた。おとこはいつものように、メイとは呼んでくれなかった。いつものように優しく微笑んではくれなかった。

おとこがいないことを思い出したメイは、再び叫び、そして眠ることを繰り返した。


何度となく、叫んでは眠るを繰り返したメイには、少し現実が受け入れられていた。

メイは死にたかった。おとこのいない世界なんてどうでも良かったし、一人で生きている意味を見つけられなかった。

おとこを石の下に埋めたあと、一度家に帰り、再び丘の上に来た。ナイフを手にして。自分を埋めてくれる人はいないから、せめて石の横で眠りにつきたかった。


しかし、どうしてか、ナイフを刺そうとしても、手が震えてしまい、死ぬことはできなかった。

メイは泣き叫んだ。なぜ死ねないのだと、どうしてと。メイは、石の前で呆然とするのだった。













とあるところにおんなが住んでいた。

周りに暮らすものはおらず、おんなは一人だった。

おんなは、孤独であった。

ひとり家にこもって、作業をすることが多かった。



作業の成果が実ったとき、おんなは孤独ではなくなった。

その日から、おんなの横には、男の子の形をしたロボットがいつでも一緒になった。

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