第343話 イルビン地下古水路

「(かくかくじかじか、しましまうまうま)……と言うわけでして、フェンさんは何かしらの心当たりとかありませんか?」

「そうねぇ。森とか林みたいなところは思い当たらないけど、面白そうなところなら心当たりがあるわぁ」

「ふむ? 面白そうなところ、ですか?」

「ええ、少しドキドキちゃうところよぉ? 興味があるなら教えてあげるわぁ」


◇◇◇


 というわけで、僕は今フェンさんに教えてもらった場所……イルビン地下古水路に来ていた。

 古水路とは言うものの、目の前に続いている道はどうみても自然の洞窟で、フェンさんの話によればイルビンの街が出来る前からある地下水路って設定らしい。

 地盤沈下とか大丈夫なんだろうか。


『アキ様。とても暗いので、足下にはお気を付けください』

「うん、大丈夫。しかし、灯りがいるって言われたからランタンを買ってきたけど、ずっと手に持ってるのって結構しんどいね。でも、下ろすと先が見えないし」

『でしたら私が持ちましょうか? 浮いていれば重さはあまり関係ありませんし』

「そう? ならお願い」

『はい!』


 手に持っていたランタンをシルフに渡し、軽く手首を振って息を吐く。

 重さ自体はそこまで無いんだけど、ずーっと持ってると怠くなってくるんだよねぇ……。

 まあ、それも続けてればそのうちデータ上の筋肉がついて、多少マシにはなるんだろうけど。


「……そんなことより」


 シルフがランタンを持ってくれたことだし、僕は僕の仕事を……っと、ん?


「ここの壁、何か取れそう?」


 一見、少し赤みがあるだけの洞窟の壁。

 手で叩いてみても、コッコッと硬い音が響くだけで、向こうに空洞があるような感じでも無し。

 となると……掘ってみるかな。


「よっ、と」


 インベントリからツルハシを取り出して、壁に狙いを定める。

 そういえばこのツルハシって、使うのいつぶりだっけ?

 多分イベントの時に、アルさん達とカエルを倒した時が最後?

 結構重たいから、なかなか使う機会が無いんだよねー。


「でも、あの頃の僕とは違う! ……はずっ!」


 言いながら振りかぶって、ツルハシの先端を壁に叩きつける。

 前よりもブレることなく叩きつけられたツルハシは、先端を壁に突き刺し、小さな穴と共に周辺にヒビを作り上げた。

 この感じなら、そこまで苦労せずに掘れるかも?


 そんなことを思いながら何度も叩きつけて気付く。


「あ、もしかして前よりも身体がブレなくなってる?」

『どうでしょう……?』

「いや僕もちゃんと分かってるわけじゃないんだけど、足……というか下半身がね? どうもツルハシの重さに引っ張られてない感じがする」


 なんて説明すれば良いのか分かんないけど、前は身体が引っ張られるのを止めきれずに流れちゃうって感じだったけど、今はツルハシの重さをちゃんと制御出来てる。

 ……なんでだろ?

 イベントの途中から結構斧を使ってたから?


「……お?」


 そこまで考えたところで、壁の中からなにやら色の青い石が出てきた。

 〈鑑定〉してみればっと……[水硬石すいこうせき]?


 [水硬石:長い年月を掛けて、魔力を持つ水が結晶化したもの]


 ……魔力を持つ水、の結晶?

 水が固体化したら氷になる……よね?

 それが氷にならずに結晶化したものが、これ?


「つまり、どういうこと? 魔力を持つ水だから、そういうことになるってこと?」

『ええっと……それは、どうなのでしょう?』


 魔力を持つ水に一番近いのは、精霊の泉の水。

 それはイベントのラストに作った[精霊の魔薬]、それの元になった[精霊の秘薬]の材料の内の一つだ。

 他にも[風化薬]の材料にもなるんだけど、どちらもその水の持つ特殊な力――――魔力を込めることが出来る、という点が必要だからだ。


 ただ、精霊の泉の水は魔力を"込めることが可能な水"なのであって、魔力を"持つ水"ではない。

 同じ魔力に関係する水だけど、その一点が全然違う。


「……この[水硬石]、割ったり熱したりするとどうなるんだろう」

『あ、アキ様?』

「中から水が出てくるとか、硬い石じゃなくて柔らかくなるとか……消えて無くなるとかもありそう? そうなってくるとさすがに1個だけじゃ試すには心許ないし……。じゃあ他にないか探してみる方が良いか」


 そう思って周囲を見てみても、〈採取〉にひっかかるものは無し。

 長い年月を掛けて~ってことだし、結構レアものなのかも?

 いや、まだ古水路に入ったばっかりだし、もっと奥に行けば眠ってる可能性も。


「そうと決まれば、」

『アキ様!』

「ッ!?」


『とりあえず、その[水硬石]を、掘り出してから次に行きましょう!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る