第341話 やれることをやれるだけ
「よし、一通りのことは訊けたな……これで大丈夫でい!」
昼を過ぎ、日が傾き始めた頃。
ぐるっと家の中を一周して外へと出てきたところで、木山さんはそういって僕らに頭を下げた。
「いえ、こちらこそ気を遣っていただいて、ありがとうございます。作って貰えるだけでもありがたいのに……」
「ん、ありがとう」
「そんなこと、やって当たり前じゃねえか。何かを作るってのが、俺らにとっての戦場なんだからよ! ……そうだろ、アキさん?」
「……そうですね。その通りだと思います」
本当にその通りだとしか言えない。
アルさん達の戦場が、魔物との戦いの場だとするならば……僕達の戦場は、物作りの現場だ。
少しでも良い物を作り上げるために、僕らは試行錯誤を繰り返していくんだ。
「でも、感謝の気持ちは伝えさせてください。……木山さん、本当にありがとうございます」
「……お、おう。どういたしまして、でい」
面と向かってのお礼になれていないのか、木山さんは照れたように顔を染めて頬を搔く。
そんな彼の姿が少し面白くて僕が少し笑うと、そんな僕が不思議だったのか、隣のラミナさんは首を傾げていた。
「じゃあ、街にもどりましょうか。ここにいても作業の邪魔になっちゃいますし」
「おう! 俺がいちゃ、気になって作業に集中できねぇだろうしな!」
わざとらしく大きな声で言ったソレに、少し離れた位置で作業していた人達が一斉に顔を逸らす。
僕らが見物してるときには、極力姿を見せないようにしてくれてた彼らだけど、もしかすると本音は"作業してるところを木山さんに見られたくなかった"とかなのかもしれない。
真実は闇の中、だけども。
◇◇◇
「うーむ……」
『アキ様、どうでしょうか?』
「うーむ……全然ダメっぽいねぇ……」
木山さんと別れて少し経った頃。
僕はシルフと二人で、大通りに並ぶ露店を見て回っていた。
そう、中級ポーションの材料を探すために、だ。
ちなみに他のメンバーはというと――――
ハスタさんとラミナさんは二人で対人戦をしに街の外へ。
なんでも、ラミナさんの盾技術とハスタさんの槍技術を同時に練習するのにちょうど良いからだとか。
正直、僕からすれば今でも充分扱えてると思うんだけどね。
そしてフェンさんは、ログアウトしてリュンさんの相手をするとかなんとか。
詳しく聞いて分かったけど、どうやら今日のリュンさんは大体月一で訪れる"とっても機嫌が悪い日"らしく、フェンさん以外だとボロ雑巾みたいにけちょんけちょんにされちゃうらしい。
なので被害が広がらないように、極力フェンさんが相手をしてあげてるんだとか。
……どっちも大変そうだなー、どっちも僕には分からないけど。
そんな訳で、残った僕とシルフは二人で露店巡りをしていたのだ。
『私も鑑定が行えれば良かったのですが……』
「こればっかりは仕方ないよ。それに正直……どれを見ても材料になりそうな気がして、どうしようもないし……」
『それは、えぇと……ご愁傷様です?』
それは違うと思うけど。
等々思いつつ、このまま続けてても進展はしなさそうな状況に、僕は溜息を一つ吐いて意識を切り替える。
――――もっと別のアプローチを考えよう、と。
「一番手軽で確実なのは、作れる人に話を訊くことだけど、手軽で確実だからこそ最後の手段にしたいよね」
『……えっと、』
「ああうん、大丈夫。"ちょっとしたプライド?"みたいなものだから。確実性を取らずに不確実で確実に手間がかかる手段を取ろうとしてるなんて、普通はやらないだろうし」
僕の感情的なことなだけに、分かるけれど完全に納得はできてないみたいな顔で言い淀んだシルフに、僕は先手打って言葉を挟む。
シルフが気にすることじゃないよ、と言わんばかりに。
「昼にさ、木山さんとギルドハウスを見て回ったじゃん? あのとき、最後に木山さんに言われた言葉が、なんだかズンッて頭に残っちゃってるんだよね。ほら、"何かを作るのが僕らの戦場"ってやつ」
『えっと、はい。でもアキ様も、それはちゃんと思われていたことでしたよね?』
「うん、思ってた。思ってたんだけどね……」
改めてそういうことを意識したとき、僕はどれだけその戦場に自分の足で立てているのか。
いや、"立とうとしている"のかが、すごく気になったんだ。
だからこそ僕は――――
「誰かを頼るよりも前に、やれることをやれるだけやってみて。少しでも自分を、強くしていきたいんだ」
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