第332話 迷子は自らを迷子だと知らない【コミカライズ連載決定しました】

 木山さん達を見送った後、僕はシルフと一緒にイルビンの街へと戻ってきていた。

 というのも、僕以外のギルドメンバーはみんなお昼ご飯を食べにログアウトしていったからだ。

 まあ、そんな僕ももうすぐ一度ログアウトするんだけどさ。


「でも、イルビンの街もしっかり見ておかなきゃって思うんだよねぇ……」


 多少なりとは見て回ってはいるんだけど、まだまだ全然ってことを痛感したわけだし。

 ラミナさんが持ってきてくれなかったら、[中級ポーション]の存在すら知らずに試行錯誤してたはず。

 さすがにそれはマズイよね?


「まあそんなわけで、お店をメインにしつつ、散策といきますか」

「はい! 路地のなかはお任せください!」

「……うん、頼りにしてる」


 別に方向音痴じゃないんだけどね……。

 なんだかんだでシルフに助けてもらってるから、そう思われてても不思議じゃないけどさー。


◇◇


 前言撤回……これはもしかして迷った。


「あの、アキ様……」

「はい、何ですか、シルフさん」

「申し上げにくいことなのですが……先ほどから同じ場所を数回ほど……」

「……やっぱり?」


 苦笑しつつも一応と聞き返した僕の前で、シルフは困ったような顔で小さく頷く。

 いや、まあ僕もなんとなく分かってたし……シルフが気にすることでもないんだけどね。

 でも、うん仕方ない、シルフに手伝って貰うしかないか。


「じゃあ、シル……」

「あれ、アキさんじゃないっすか?」

「フ、ん?」


 シルフに手伝って貰おうと口を開いた矢先、僕の名前が耳に飛び込んできた。

 あー、そういえば彼もイルビンに来てたんだっけ?


「……スミスさん。えっと、奇遇ですね」

「っすね。それでアキさんはこんなところで何してたんですか?」

「僕? んー……これといって何かしてたってレベルじゃないんだけど、一応は散策?」


 明確な目的も無く、ただなんとなく街のお店を見て回ろーくらいの感じだっただけに、断言も出来ず、僕はシルフへと目を向ける。

 するとシルフもまた困ったように笑い、「そう、ですね」と、歯切れ悪く頷いた。


「散策っすか、良いっすね! やっぱり、新しい街ってなんかワクワクするっすよね!」

「あー、うん。そんな感じ」

「だから気持ちはよく分かるっすけど、この辺はあんまり1人で歩かない方がいいっすよ。通りからも離れてるし、人通りも少ないっすから」

「……気を付けとくよ」


 言われてよくよく周りを見回してみれば、僕ら以外に人影はなく……人の声も小さな音が遠くから響いてくるだけ。

 今更ながら、ちょっと怖いかも?


「もし通りに戻るなら、案内するっすよ?」

「あー、それは大丈夫。シルフもいるし、帰りはナビして貰えばいいから」

「……それもそうっすね」

「むしろ、スミスさんはなんでここに?」


 こんなにも人がいない路地裏だけど、僕よりは道に詳しいみたいだし、同じように迷い込んできたって訳じゃ無いよね?

 そんな思いで訊いてみれば、スミスさんは「あー、俺は鍛冶場に向かってたんすよ」と、一言。

 鍛冶場?

 こんなところに?


「あ、もちろんココじゃなくて通り過ぎた先っすけど、ガラッドさんに紹介してもらった職人さんのところで修行させてもらってて」

「へー……。でもたしか、スミスさんって生産ギルドに入ってたよね? ギルドの人とかに教えてもらえないの?」

「あー、ギルド内での技術向上は目指してるみたいなんで、それはそれで教えてもらってるんすけど……NPCに弟子入りすることで分かることもあるんで、大半の人がNPCにも弟子入りしてるって感じっすね」


 ふむ……。

 確かに、おばちゃんやジェルビンさんに教えてもらったことも結構あるし、<戦闘採取術>だって、兵士のおじさんから教えてもらわなかったら、まだ存在すること自体分かってなかったかも?


「まあ、NPCしか知らないことがあるってことで弟子入りする人が増えたのは最近になってからなんすけど、ブームが来る前からNPCと友好的な関係を結んでた人は、なんとなく知ってたって感じっすね」

「へー……」

「他人事っぽいっすけど、このブームの原因はアキさんとトーマ辺りっすよ?」

「……え、なんで?」


 トーマ君は結構自由に動いてるから、何かのブームになるのは分かるけど……僕?

 なんにもしてないけど?


「だって、イベントのMVPと拠点指揮官っすよ? そんな目立ち方したプレイヤーの真似をする人が増えるのは当たり前じゃないっすか」

「えー……」

「まあ、"アキさんが雑貨屋アルジェに入り浸って作業してること"が広く知られたのがイベント後だったんで、今になって弟子入りブームが起きてるって感じっす。ちなみに、トーマはイベント開始前からイベントの情報を得てたって話がどこかから漏れたのが原因みたいっすね」

「あー、アレは僕らからしても結構衝撃的だったよねー」

「っすねぇ」


 なるほど……。

 そういうことなら仕方ない……のかなぁ?





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【お知らせ】

 自作『採取はゲームの基本です!!(以下略』が、コミカライズ連載決定しました!

 漫画は、劇場版ドットハックの現実キャラクターデザインを担当された『拓』先生です。

 連載は12/28配信の電子雑誌『どこでもヤングチャンピオン1月号』からスタート予定!

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