第319話 情報と作戦と、再挑戦と

「それでアキちゃん、どうするのぉ?」

「うーん……」


 正直、僕らだけでどうにかするのは難しい。

 だから人手が欲しいけど、ギルドとしての最初の試練だとも思えるから、ギルドメンバー以外の人に手伝って貰うのはやっぱりなんだか悔しい。

 そうなると……。


「僕らでどうにかする……しかないか」

「ミー達だけでって、策でもあるのかしらぁ?」


 悩む僕のそばに立つフェンさんが、そう言って僕へと視線を向ける。

 その視線に、なんだか試しているような色が見えた気がして、僕らの間に少しだけピリッとした空気が生まれた。

 ……フェンさんにも何か思惑があるみたいだけど、この場は僕に任せるってことなんだろうか?


「ひとまず分からないことが多すぎるので、情報が欲しいです。フェンさん、良いですか?」

「ええ、ミーに分かることなら。何かしらぁ?」

「とりあえず、あそこにいた魔物の詳しい情報が欲しいです。トレントは分かりますけど、スライムとクレイジーラットは見た事が無いので」


 僕の言葉にフェンさんはふふっと笑って、「ええ、良いわよぉ」と短剣を取り出すと、地面へと絵を描き始めた。

 「まず、これがトレントのサイズだと思ってねぇ」と、地面に描いた枯れ木に顔を描きいれると、その隣りに下側が潰れた不格好な円を描く。

 そしてさらにその隣へ、デフォルメされたような鼠を1匹。

 ……つまり、スライムとクレイジーラットの大きさはそれほど変わらないってことだろうか。


「大きさとしてはこれくらいねぇ。描きにくくて失敗しちゃった部分もあるから補足しておくと、スライムの方が鼠より少し大きいって所かしらぁ」

「ふむ……。世界樹で見たトレントは、アルさんよりも少し大きいくらいでしたし……スライムが僕の膝程度ってこといいですか?」

「えぇ、そうねぇ。単体の強さとしては、トレントが一番強いと思うわぁ。特にミー達3人でやると、アキちゃんの斧が一番効果的な武器だろうし」


 あー……そうか、武器相性とかもあるんだよね……。

 でも、武器の相性って考えると、僕の使ってるスキル<戦闘採取術>は、かなり幅広く対応出来るんだよね。

 まぁ、元々戦うための道具じゃないから、戦いにくさが目立っちゃうんだけどさ。


「でも、単体の強さってことは、そうじゃないのがいるってことでいいですか?」

「ええ、その通りよぉ。クレイジーラットは最低3匹……今回みたいに、近い場所に大量湧きしてるときは、最悪全部が同時に襲いかかってくるわぁ」

「えっと、それってつまり……30匹が同時にってことですか?」

「最悪の場合、ねぇ。1匹当たりは全然強くないけど、同時に多数を相手取るのは非常に難しいわぁ」


 そう言って、フェンさんは小さくため息を吐く。

 まるで経験したことがあるみたいな雰囲気を醸し出すフェンさんに、僕は「そうなんですね」と相づちをつくことしか出来ず、頭を悩ませた。


 そもそも数が多すぎる。

 30体を1人で相手しないとしても、平均で考えれば1人頭10体。

 それに加えて、トレントとスライムか……。


「どうしようもないムードが漂ってる気がしますけど、一応スライムのことも教えてもらってもいいですか?」

「もちろんよぉ。スライムはアキちゃんのイメージ通りの姿形をしてると思うわぁ。水分の集合体みたいな魔物で、打撃攻撃に対して非常に耐性が高いわ」

「なるほど……。僕の木槌みたいな叩く武器は相性が悪い、と。ちなみに、どうやって倒すんですか?」

「体の中に魔力で出来たコアがあるわぁ。それを切ったり、潰したりして壊すと倒せるの。剣や槍なら簡単に倒せる魔物よぉ」


 フェンさんの言葉に「ふむふむ」と頷いて、僕は脳内で情報を整理していく。

 トレントが20体、スライムとクレイジーラットが30体以上で……トレントを相手しやすいのが僕。

 スライムは誰でも相手できるけど、クレイジーラットが集団で押し寄せる可能性があるってことか。


 この中で、問題になるのはクレイジーラットの動きが読めないってことだろうか。

 僕らの動き次第で、トレントとスライムはある程度調整ができる。

 ただ、クレイジーラットだけは、僕らの動きを無視して、1人に片寄る可能性があるってことだ。


「……ならいっそ、その習性を利用する?」

「アキちゃん、なにか思い付いたかしらぁ?」

「思い付いたといえば思い付いたんですが……1人に負担がかかりすぎるのがちょっと」


 内容が内容なだけに歯切れが悪くなってしまった僕を見て、フェンさんは微笑むと「3人でやるなら、それしか手はないと思うわぁ」と、すでに感づいているかのような言葉を口にした。

 まぁ、僕よりもいろんなことを知ってるフェンさんだし……僕が思い付くことは、大体思い付いているんだろう。


「その、フェンさんはクレイジーラット相手に、どれくらい耐えられますか?」

「そうねぇ、30体相手ならすぐ溶けちゃうけど、戦わなくてもいいんでしょう? なら、15分くらいは大丈夫だと思うわぁ」

「15分、そうですか。……15分あればギリギリなんとかなる、かな?」


 ラミナさんなら大丈夫だろうけど、問題は僕。

 正直、<選定者の魔眼>が使えない状態で、トレントと戦えるかどうか……。

 でも、やってみなきゃわからない、か。


「よし、それじゃやってみましょう。ギリギリの戦いを!」

「ええ、そうねぇ」

「……ってそういえばラミナさんは?」


 返ってきた反応がひとつだけだったことに違和感を覚え、辺りを見まわして見ても……彼女の姿がなかった。

 というか、そもそもさっきまでの話し合いの時点でいなかったような……。


「もしかして、ひとりで戦いに行ったとか……?」


 いや、それは多分ないはず。

 むしろ彼女のことだから、こういうときにしそうなことは……。


 と、そんなことを考えていた僕の視界に、急にラミナさんが現れる。

 瞬間移動とかそういった類いの物じゃなくて……たぶん、これは一度ログアウトしてた、かな?


「まとまった?」

「うん。ラミナさんも大丈夫?」

「大丈夫」

「そっか。それじゃ作戦は行きながら話すよ。それでいい?」


 「大丈夫」と短く答えた彼女に頷いて、僕はまたフェンさんに先行して向かってもらうようお願いしてから、歩き出す。

 さて、上手く行くかなぁ……。

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