第311話 土地を探そう!

「話は分かった。アンタがオレに依頼したいってのは、工房のことだな?」

「はい。ただ、少しだけ我が儘を言えるなら、工房付きの家を作って欲しいです」


 おばちゃんの手紙を読み終わったジャッカルさんが、バシッと手を叩いて言った言葉に頷いて、僕はさらにお願いも口にする。

 それに気を悪くするかと思いきや、ジャッカルさんは「家なら得意分野だ!」と、ニカッと歯を見せて笑った。


「それで、何人で住む予定だ? それによって大きさが変わる」

「とりあえずは、ギルド……ああえっと、一緒に冒険する仲間が他に4人いるので、全員で5人の予定です」

「欲しい設備は工房だけでいいのか? とりあえず設計図を作っから、欲しいものは全部言ってくれたら良い」


 彼はそう言って、また扉に背を付けて寄りかかり、僕の言葉を待った。

 必要な設備か……。

 住むというか、利用するのは僕と、ラミナさん、ハスタさん、リュンさんにフェンさんだから……暴れられるところが合った方が良いかもしれない?

 ハスタさんもリュンさんも、戦うのが好きだし。


「それだったら、庭に訓練所が欲しいです。戦うのが好きな人が居るんですけど、家の中だと周辺も壊しちゃいそうなので。あとは……キッチンなんかはあると思うので……何が必要なのかちょっと分かんないですね」

「なら、一度引いて見る。それでその設計図を元に仲間と相談してくれ!」

「分かりました。ありがとうございます!」


 頭を下げた僕に、ジャッカルさんは嬉しそうに笑うと、「オレも姐さんに恩返しが出来るのは嬉しいからよ、来てくれて良かった」と照れたように鼻を掻く。

 その姿に、この人ってもしかすると見た目が厳ついだけで、中身はただの良い人なんじゃ……と、僕は心の中で深く頷いた。


 そんなこんなで、設計図の完成日など話がある程度まとまったところで、僕はジャッカルさんの家を離れようと「それじゃ、僕はこれで」と手を挙げた。

 対応してくれた彼もまた「おう! 任せてくれ!」と手を挙げ、直後「あ、ひとつ忘れてた! 土地だけは準備しておいてくれ!」と爆弾を投げてくるのだった。


「えっと、土地……ですか?」

「ああ、姐さんの頼みってのもあるし、木材やらなにやらはオレの方で今回はサービスする。ただ、土地だけはオレには準備出来ないからな。それだけは自分の方でどうにかしてくれ」

「わかりました。けど、土地ってどうすれば」

「その辺はイルビンの長か、空き地の主に訊くしかないな。今はなんかアンタみたいに、仲間で越してくるやつがいるとかで、空き地がどんどん消えてるからな。早い方が良いと思うぞ」


 ジャッカルさんは、そう言うだけ言って「じゃあ、またな」と扉を閉めてしまう。

 ……ヒントらしいヒントも貰えなかった。

 いや、イルビンの長か空き地の主って言ってたし、その辺りから調べてみるかな。


「ねえ、シルフ。イルビンの長って誰か分かったりしない?」

(すみません。さすがにそこまでは……)

「だよねぇ……」


 さすがのシルフもその辺りは分からないらしい。

 まあ名前と違って、常に役職で呼ばれることはないだろうし、仕方ないんだけど。

 しかしそうなると……別の方向からアプローチしてみるかな。


「ちなみに空き地の主って言ってたけど、そういうのって空き地に行ったら分かったりするものなの?」

(いえ、その辺りは分からない所の方が多いかと思います。場所によっては空き地に看板が立っているところもありますが)

「ふむ……。ならその辺りの情報をまとめてる場所があると思うんだよね。僕の世界で言うところの不動産屋さんとか」

(フドウサンヤさん、というのがちょっと分からないですが……)


 それは仕方ない……かな?

 まあ不動産って言葉自体が結構新しいものだったはずだし、ファンタジーって感じのゲームにはあまり馴染みのない言葉な気はする。

 けどそうなってくるとー……。


「あっ」

(なにか思い付かれましたか?)

「そうか、そうだ。シルフ、冒険者さんの出入りが多いお店って分かる? 特に今日になっていきなり増えたところが良いんだけど」

(はい! それでしたら分かります)

「よーし、じゃあそこに行ってみよう!」


 僕が思い付いた、と言うよりも思い出したのは、ジャッカルさんの言葉だ。

 彼がイルビンの長や空き地の主の後に、言っていた言葉……“仲間で越してくるやつがいるとかで、空き地がどんどん消えてる”って言葉。

 これはつまり、ギルドを組んだ、もしくは組む予定の人が空き地を買ったってことだ。

 なら、その人達に訊けば分かるかもしれない!


 そんなわけで、僕とシルフは人通りの多いイルビンの中央通りを抜けていくのだった。


◇◇◇


「あ! アキさん!」

「お嬢!」「姫!」


 街で今一番賑わっていると言っても過言ではない建物――ギルド受付所のすぐ近くで、僕は僕を呼ぶ声に引き留められた。

 うーん、この呼び方は……誰か特定しやすくてありがたいような、恥ずかしいような。

 僕はそう思いつつ、声のした方へと振り返り、「お久しぶりです」と頭を下げた。


「アキさんこそ。オリオンさんに聞きましたけど、今週は全然ログインしてなかったって」

「うん。ちょっと現実世界の方で色々あって、ようやく落ち着いたんだ。レニーさん達は生産ギルドの?」

「はい! ギルドマスターになるのは木山さんなんですが、今日は来れないみたいで」

「なるほど……。でも2人と一緒ってことは、ギルド関係で動いてるって感じですか?」

「はい。イルビンの職人さん達に顔を繋いでいたところです!」


 そう言って笑うレニーさんに、僕は「お疲れ様です」と頭を軽く下げる。

 そんな僕に苦笑するレニーさんから視線を外し……彼女の背後に立っていた2人へと目を向けた。

 それは、相変わらずの凸凹コンビ……美男子に見える女性と、作務衣に下駄っていう大男だ。


「シンシさん、ヤカタさん。お久しぶりです。今日はどうされたんですか?」

「お久しぶりです、姫。お元気そうで何よりです」

「なに、レニーの付き添いだ。俺とシンシが参加するのはお嬢も知ってるだろう?」

「なるほど。でも、僕としてもみんなにあえて良かった」


 そう言ってふぅと息を吐いた僕に、3人は顔を見合わせて首を傾げる。

 彼らのそんな姿に苦笑しつつ、僕は「ちょっと訊きたいことがあったんです」と、土地の話を始めた。


「なるほど、土地ですか。姫もギルドを持つのでしたら、確かに必要になりますね」

「ああ。ギルドホームを建てずに、建物を借りるって奴らもいるらしいが、お嬢は借りるより建てた方が良いだろうな」

「借りることも出来るんですか?」

「はい。空き家になっている建物を借りたりすることも可能ですよ。でも、借りる形だと、自由に間取りを決めたりは出来なくなりますので……」


 なるほど、それで。

 確かに、僕のギルドはクセの強い人ばっかりだし、自由に決めれる方が向いてる気がする。

 というか、そうじゃないとリュンさんに家を壊される気がするし。


「そういえばレニー。私達の土地はどうやって手に入れたのですか?」

「あ、それはですね、木山さんが知り合いのNPC住人にお願いしたんですよ。イルビンの土地を探してるって」

「なるほど……。確かに木山さんなら、土木関係の人に顔がききそうですね」


 そういう手もあるのか。

 しかしそうなると、僕の知り合いにそういった人は……いや、待てよ?


「あの、木山さんが相談した人って、イルビンに住んでる人なんですか?」

「その辺りは詳しく知らないんですが、イルビンの人じゃないと思いますよ。イルビンに行ってギルドを作るって決まった次の日には相談したって言ってましたし」

「ありがとうございます。それだけ分かれば十分です!」


 僕はそう言って、3人に手を振ってその場からさささっと遠ざかる。

 3人は3人で、この後ギルドホームのために受付に行かないといけないみたいだったし。


 なんにせよ話して分かったのは、イルビンに顔が利く住人なら、イルビン以外にもいるってことだ。

 そういった意味での知り合いなら、僕の知り合いにも適任な人がいる!

 ただ問題があるとすれば……明日はギルド設立の処理をしないといけないから……僕は動けないんだよねぇ。


「でもなぁ……。あっ」


 いや、お願いできる人はいる?

 でも、お願いしちゃっていいのかな?


「ううーん……。一応、訊いてみよう。少しでもうーんって思われたらダメってことで、一応」


 僕は自分の悩みに一区切りつけ、フレンドリストを開く。

 その中で光っていたある人の名前をタップして、念話を飛ばすのだった。

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