第256話 自信がないなら
「あ、アキさん? 伝えておこうかって……」
「ああ、うん。今回は特別というか……状況が状況だからね。僕のいない時に在庫が切れて調合しないといけなくなる、なんて場合もあるかもしれないし」
会議で決まった方針としては、調合メインのプレイヤーは拠点に残ってサポートを行う役割になっている。
つまり、ダメージを受けたプレイヤーの回復や、もし状態異常になってしまうことがあれば、それにも対応しないといけなくなる。
いつもの探索みたいに大体の敵が予想できればいいんだけど、今回はどこからどんな魔物がやってくるかわからない。
それ相応の覚悟と、準備をしておく必要があるよね。
「でも、ただ教えて貰うのは。在庫もそれなりにありますし、調合の必要がない場合もありますし……」
「それはそうなんだけど……」
もしもに備えて伝えておきたい僕と、普段の僕の理念に賛同しているみんなの矜持のようなものが、上手く混ざり合わない。
僕の予想では、「わー、ありがとうございます!」みたいな感じに受け取ってくれると思ってたんだけど……。
(アキ様。アキ様がおば様に「状況が状況だから作り方を教えてあげるよ!」って言われて、受け取られますか?)
(ん? 昔の僕なら受け取ってたかもだけど、今は受け取らないかな。貰ってもヒントくらいだと……あ)
(そういうことかと)
(……ありがとう)
苦笑気味に笑うシルフに、恥ずかしさかちょっとだけ顔が熱くなる。
でもまあ、そういうこと……か、よし。
「それじゃ、まだ時間は多少あるし、伝えるのはヒントだけにするよ。でも、考えて調合するのは2時間だけ。2時間経過したら、否応なくレシピを伝えることにする。それでいい?」
「2時間……」
「自信がないなら、もう1時間足すくらいは大丈夫だけど?」
僕は自分がどれだけの時間考えて[解毒ポーション(微)]を作ったのかは棚に上げて、ちょっとだけ煽るような声色で言い放つ。
その声にカチンときたのか、みんなは目の色を変えて「2時間でいい!」と返してきた。
「じゃあ、2時間ね。それじゃヒントだけど……材料のうちの1つはコレ」
僕は心の中で安堵しながら、インベントリから根だけを切り外したカンネリを取り出し、見せる。
「カンネリ……ですか?」
「そう、カンネリ。これがまず1つ。それと……水は使わない」
「え?」
「水は使わない。……はい、ヒント終わり!」
「あ、え!? アキさん!?」
「はーい、2時間だけだからがんばってねー」
呼び止める声をわざと無視して、カンネリに当たらないよう気を付けながら両手を叩く。
さて、どうなるかなー?
◇
みんなと少し離れ、なおかつ仕切りも置いて、目隠し万全にした机で僕は綺麗な空色を放つ薬剤と向き合っていた。
「さて、みんなを上手いこと誘導できたし……」
(お見事でした)
(シルフのおかげだよ、ありがとう)
シルフに再度お礼を言いつつ、僕は気合いを入れるように息を吐く。
よし、味と効き方を確かめよう――
――と思ってから、僕ははた、と気がついた。
確かめようにも、状態異常になってないじゃないか、と。
「……ならあっちも試してみるか」
誰にいうでもなく、僕はひとり呟く。
そうして、インベントリを操作してとある素材を取り出した。
――カンネリの茎。
[カンネリの茎:葉に水分を運ぶため、管状になっている細い茎
茎内部の粘液に軽度の毒素があり、触れた付近にしびれなどの軽度の神経異常を引き起こす]
茎内部ってことは、普通に茎を持っている程度なら問題はないけれど、切り口や割った後なんかは手で触らない方が良いみたいだね。
それに、これ単体で毒として完成してるってことは、
「でも、痛いやり方で試したくはないし、今日の所は触れる方でやってみよう」
まず輪切りにするみたいに、茎を細かく切り分ける。
この時点でまな板の上に多少透明な粘液が出てるから気を付けて……切った茎をすり鉢の中に投入。
すぐにまな板と包丁は洗っておいて……っと。
「棒で叩くようにぐしゃぐしゃに潰して……」
ある程度つぶれたところで棒を洗い流し、ヘラを使って茎と粘液を分ける。
茎の方はお玉を使って掬い上げたら、ゴミ溜めのカゴに捨てておいて、すり鉢の中身を粘液だけにしておいた。
「葉と違って臭いなぁ。湿布薬とかこんな
強いていえばほのかに香る芳香剤的なミントではなくて、鼻に突き刺してくる刺激的なミントの感じ。
原液のままだからだろうか……かなり臭う。
僕の予定では、これを木の板に置いた布に塗って、腕に張り付けるつもりだったんだけど……これじゃ、腕より先に鼻が麻痺しそうだ。
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