第243話 そろそろ帰るで
「……んぁ?」
ざわざわとした人の声が耳につき、ぼやけていた意識に光が灯る。
あれ……僕、いつのまにか寝てた……?
ぼんやりとした頭を起こすように、腕を伸ばせば、背筋に静電気のようなピリピリとした感覚が走った。
「ぉ、起きたか」
「アキさん、頭とか痛くないですか?」
すぐそばにいたらしいトーマ君達が、僕が起きたのに気付いて声を掛けてくれる。
頭痛は……特にないかな?
「あれ? トーマ君、ボスは?」
「終わったで。あの後、貝が壊れてな。そっからはただのイジメやったわ」
「そっか……ねぇ、トーマ君」
「あん? なんや?」
「僕は、何をしたの?」
僕の問いかけにトーマ君は、なんとも言えない表情を見せて声を詰まらせる。
そしてたっぷりと時間をかけて考えてから、再度口を開いた。
「……わからん」
「そっか、うん、そうだよね」
「逆に聞くんやけど、お前にはわかってんやないんか?」
彼の言葉を受けて驚かなかった僕から何かを感じたのか、間を詰めるように顔を近づけて、彼がそう聞いてくる。
でも僕にもなんとなくの感覚でしか分かってないし……それを伝えるべきなのかどうかもわからない。
それに、さっきの反応を見るに、トーマ君でも何も分からない状態っぽいしね。
「僕も全然。トーマ君に教えて貰った魔法を使ったら、制御が利かなくなって魔力がどんどん吸い取られたって感じ」
「それは姉さんに聞いたから分かっとるけども……まぁ、ええわ。お前が起きたんならそろそろ帰るで。準備しとき」
「あ、うん」
正直、トーマ君のことだからもっと突っ込んで聞いてくるかと思ってたんだけど……案外あっさり引いてくれた。
でも確かに、ボスは倒したみたいだから、ここにこのままとどまってる必要もないもんね。
「よし!」と気合いを入れ直して、僕はレニーさん達の方へと向かった。
◇
あの後、ボスを倒したからか一本道になっていた神殿内部を抜けて、拠点に帰ってきた僕らは、軽く打ち上げをしてから、解散することとなった。
平日だしね……明日お仕事の人もいるみたいだったし。
「それじゃ、アキさん。今日は助かった」
「いえいえ、僕の方こそ……気絶しちゃってすみません……」
「いや、アキさんのおかげでボスを倒せたようなものだからな。礼こそすれど、怒ることはないさ」
「そ、そうですか? それなら良いんですけど……」
「まぁ、またゆっくり話そう。それじゃまた」
「はい。お疲れ様でした」
その言葉を皮切りに、アルさんの他にもジンさんやリアさんもログアウトしていく。
それを見送った後、僕は拠点の中でも人目に付きにくい場所へと足を向けた。
「ここで良いかな。シルフ、ちょっと良い?」
「はい? 何かご用ですか?」
「ちょっと聞きたいことがあって。答えたくなかったら別に良いからね?」
その言葉に首を傾げつつも頷いたシルフを横に、僕は地面へ腰を下ろした。
そして……どこから話せばいいのか迷って、結局、僕が話を始めたのは数分が経過してからだった。
「あの、さ。楓って名前に、聞き覚えはある?」
「楓、ですか? いえ、全く……」
「
「そちらも全く……。その方々がどうかしましたか?」
「いや、ちょっとね。知らないなら良いよ」
シルフの態度を見るに、嘘をついているという感じはしない。
つまり、シルフは本当に
――でも、だとすればあの声達は、一体……?
やはり疑問が消えない僕は、ちょっとだけ質問の内容を変えてみることにした。
「あのさ、僕が魔法を使ってるときって、シルフになにか変化はあった?」
「えーっと……なんと言えばいいでしょうか……。少しだけ、変な感じが」
「変な感じ? どういう?」
「えっと……」
そう一度言葉を切ってから、思い出すみたいに目を閉じて、彼女はゆっくりと口を開いた。
「普段は、契約の対価としてアキ様から頂いている魔力を利用して、風を起こしたりしているのですが……。今回はなぜか、私の中にあるアキ様の魔力と、アキ様自身が魔法のために放出した魔力が融合して魔法を発動していたように感じました」
「ん、んん? どういうこと?」
「えっと、アキ様から頂いた魔力と言っても、私の中にある魔力は、すでに私の精霊としての性質が混ざった魔力になっていまして……。それが、アキ様の魔力と融合して、詠唱を通したことで変化が起きたのではないか、と」
……よく分からない。
「まってね、ちょっと整理するから、少し待ってね」
「あ、はい」
とりあえず、一度頭を整理しよう……。
えーっと、僕の中にある魔力と、シルフの中にあるシルフの力と融合した僕の魔力が……。
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