第240話 一筋の光
――僕にやらせてくれないかな?
そう言った僕に、アルさんは何も言わず頷いた。
それを受けて、驚いていたトーマ君は面白そうに笑い、カナエさんは面白いくらいに困惑していた。
「え、っと……アキさんって、風魔法スキル持ってました……?」
「持ってないよ」
「え、えぇ……?」
「まぁ、風魔法なら大丈夫やろ。アルもそう思ったんやろ?」
「ああ。それに、アキさんは行き詰まったとき、いつも何かを変えてくれるからな。今回もそうだと思っただけだ」
「あー……なるほど」
アルさんの言葉に、トーマ君だけじゃなく、カナエさんも思い当たる事があったのか、苦笑するような顔を見せてくれた。
……そんなに変なことしてきたっけ?
そう思って思い返してみれば、
思い出せば出すほど、大蜘蛛以外やってることがおかしい気がする……。
大蜘蛛の時も、僕は戦っているっていうよりも、脚に糸を結んだり、アルさんの糸を切ったり……うん、戦っているっていうか何かしてるって感じだ。
「でも、魔法スキルは……持っていない方がいきなり出来るようなものでも無いですよ? 魔力の放出も、慣れるまでは結構苦戦しますし」
「その辺は大丈夫……だと思う。理由は後でお話出来ればとは思うんだけど……」
「姉さんにはよーわからんと思うんやけど、まぁここは試しってやつやで。上手く行けばもうけもんやで。つーて、姉さんは魔力を消耗するし、多少負担があるんでな、そこはすまんのやけども」
「うん。それに僕だったら、失敗してもレニーさんが代わりを務められるしね」
そうなのだ。
お薬担当としての僕の代わりはレニーさんがいる。
けれど、風魔法を使えるかもしれない人の代わりは、いない気がするんだ。
だから、僕がやる……やりたいんだと思う。
「……わかりました。でも、試すのは1回だけにしましょう。いきなり連続で魔力を放出するのは危険ですから」
「うん、ありがとう。お願いします」
僕だけじゃなく、トーマ君に加えてアルさんも賛成に回っている以上、覆ることは無いと理解してくれたのか、カナエさんは渋々といった顔で頷いた。
カナエさんはこのメンバーの中で唯一、魔法を主体で戦ってきた人だから……僕ら以上に、難しさも危険も分かっているんだろうと思う。
だからこそ、簡単には頷けなかったんだって、僕でもわかる。
「……成功、させないと」
「……? アキさん、何か言いました?」
「いえ、なんでもないです。それよりトーマ君。手順はどうすればいいの?」
漏れた声が少し聞こえたのか、首を傾げたカナエさんに手を振って、トーマ君に話を振る。
そのトーマ君には、僕の呟きも聞こえていたのか、いつもよりも真面目な顔で彼は口を開いた。
◇
「アキさん。準備は良いですか?」
「うん。大丈夫。……やろうか」
2人で片手を繋ぎ、ヤドカリを視界に捕らえ、並び立つ。
大丈夫……詠唱はしっかり覚えた。
あとは魔力を繋いだ手に集める……これが出来れば発動する、はずだ。
今ヤドカリと戦ってくれている前衛の人は、雨が降り始めたら引いてもらうようにお願い済みらしいし、気兼ねなくやれってアルさんは言ってくれた。
これで失敗したら、恥ずかしいどころじゃない気がするけど……。
「では、私の詠唱に続いて風魔法の詠唱をお願いします」
「流れ移ろい行くこの身へ」――「風と遊びし無垢なる少女よ」
「穢れ無き乙女の恩寵を」――「その柔らかな風をこの身と共に」
「哀を纏いしその身を流す」――「我が前で仇なす者へ」
「数多降り注ぐ光となれ」――「鮮烈な一筋の光を」
「〔
詠唱を終えると同時に掲げた
熱い、まではいかなくて……ほのかに温かいような……不思議な感覚。
そしてそこから何かが抜け出ていくような、そんな妙な感覚が走ると、ヤドカリの貝よりも上に黒い雲が生まれた。
「……成功、みたいですね」
カナエさんが口を開いた直後、ヤドカリに向けて雨が降り始める。
でも……
「止まらない……!?」
カナエさんと繋いでいた手を離しても、僕の手から魔力の放出が止まらない。
それだけじゃなく、手だけにあった熱が腕から肩へと、少しずつ全身に広がって……!
「あつ、い……っ!」
「アキさん!? 一度魔法をキャンセルして……!」
「キャンセルって、言われても!」
止めようと思っても、止まれと念じても……止まることなく、熱は全身を覆っていく。
熱い、熱い……!
熱に揺らめくように、霞んでいく意識の中で、アラームのような甲高い音だけが妙にハッキリと聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます