第238話 パッション

「ダメージを出すにしても、場所が場所だし……魔法を使う方が良いかもね」

「そうっすね。鉄屑さん達は凄いパワーっすけど、貝を殴るには向いてないかもっす」


 もちろん、テツさん達でも貝は叩けるだろうけど、低い位置を叩くよりは少しでも高い位置を叩いた方が効果がありそう。

 中は空洞だろうし、その方が響くよね?


「でしたら鉄屑さん達には、ヤドカリの動きを止めて頂くのが良いかもしれませんね」

「あの鋏も放ってはおけないですから」


 スミスさんだけじゃなく、オリオンさんやレニーさんも同意見のようだ。

 実際、重量級の武器だから、脚が地面についてる方がいいだろうし?


「でも、魔法でってなると……どうなんだろ? 狙えそうな魔法ってあるの?」

「水魔法の〔愛を象る乙女の涙ティア・ドロップ〕や、土魔法の〔堅硬なる破城の石槌バーテリング・ラム〕などが可能かと」

「火魔法にも、〔情熱の指し示す先パッション・ヒート〕ってのがあるっす。炎の矢を飛ばす魔法っすよ」

「へぇー。パッション……」


 いや、何も悪く無いんだけど……パッション……。

 ちなみに、ティア・ドロップは水の玉を飛ばす魔法で、バーテリング・ラムは瓦礫を落とす魔法だ。

 前者はカナエさん、後者はリアさんがよく使う魔法でもある。


「ただ、これらの魔法でヤドカリに危機感を煽れるかどうか……」

「ダメージだけだったら、最初の攻撃の方が強いですしねぇ……」

「遠距離で狙える魔法になると、どうしても威力は落ちるっすよ。距離が遠くなればなるほど、消費する魔力は多くなるっすから」

「そうなんだ。そうなると、結構厳しいかも?」

「そうなんすよねぇ……」


 でも、それ以外に方法も特にないし、一応アルさんに伝えに行ってくるかなぁ……。

 そう思った僕はとりあえず話をそこで切って、最前線には出ず、他の前衛の人に指示を出しているアルさんへと近づいた。


「アルさん、アルさん」

「ん? アキさんか。なんだ?」

「提案……と言って良いのか分からないんですが、情報になるかも知れないことを聞きまして」

「ほう。聞こうか」


 アルさんは、指示役を隣りにいたテツさんに任せて、僕らは少しだけ後ろに下がる。

 ヤドカリの攻撃をいなしたり、防いだりするのに邪魔になるわけにもいかないしね。


 そうして下がった先になぜかいたトーマ君も交えて、さっきの話を伝えることになった。

 

「……なるほど。確かにその考えなら、次の一手になるかも知れないな」

「ただ、アキらも気付いとる通り、距離が離れりゃ魔法の威力は下がるで? そこ、どうするんや」

「そこは俺らが考えても仕方がないな。カナエさんか、リアのどちらかを呼んでこよう」

「……ま、そーやな」



「それなら、多人数での魔法行使という手もありかと」


 呼ばれてすぐにさっきの提案を聞かされたカナエさんが、たっぷりと思考した後、そう口を開いた。

 カナエさんも数回ほど攻撃を仕掛けてるからか、多少疲れが見えるけれど……これでも、他の魔法使いの人に比べると、かなり元気な方らしい。

 というか、カナエさんが魔法行使すら出来ない状態が想像出来ない……。

 大蜘蛛の時も、数発どころか数十発の魔法を放っていたにも関わらず、僕らと同じくらい動けてたわけだし……。


「多人数での魔法行使? どういうことや、それ」

「そのままの意味ですよ。ただ、同時に放つというわけではなく、魔法を行使するのは1人ですが、そのタイミングに合わせて、魔力を譲渡するような形……でしょうか? 組み上げられた術式への魔力を多人数で補う方法です」

「なるほど。距離に応じて減衰する魔力を、元々から増やして対応するというわけか」


 つまり、普通通りだとエネルギー切れになるから、普通よりいっぱいエネルギーを充填してから行うってこと……かな?

 1人だと負担が大きいから、色んな人に少しずつ力を借りる的な。


 しかし……「それなら良いかも!」と思った僕の横で、アルさんは少し悩んだようなうなり声を上げ――


「それだと、もし効かなかった場合のリスクが大きいな」


と、よく通る声で言った。

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