第207話 複合スキル
「私を止めるとは……大きく出ましたね。姫」
風に揺られる腕を、身体に寄せ、安定させるように保持しながら、シンシさんはそう応える。
つまり……棄権する意思は、お互いに無いってことだろう。
「ですが、先ほども申し上げました通り、多少風に動きが妨害されようとも、あなたの攻撃で止まる私ではないのです。……ですが、ここからは少し本気を出させていただきましょう、あなたが棄権すると言うまで!」
「だから、それはしません! 絶対に!」
僕の言葉を締めに、互いの間に響く応酬が、風と剣戟の音に変わる。
鋭く突かれた剣を弾き、即座に返す鎌はまた剣で弾かれ、時折風に巻かれる腕を無理矢理戻しながら、またお互いの立ち位置も入れ替えながら。
「――ハァッ!」
「まだまだー!」
突き、払い、薙ぎ、払い、また突き……互いに決定的な隙を見せることも、また突くことも出来ず、数度目のインターバルを迎える。
正直、ここまで僕が耐えられるとは、僕自身はおろか、相手のシンシさんだって……ましてや、この決闘を見ている他のプレイヤーだって、誰も想像してなかったと思う。
もちろん、僕だけの力で耐えられてるわけじゃない。
シルフの風があればこそ、なんとか耐えられてるんだ。
「――、はぁ……」
「息が、上がり……始めましたね……」
「それは、姫も、同じ……でしょう……」
肩で息をするように、僕らは武器を下ろすこと無く、そんなことを言い合う。
戦い慣れているシンシさんと、慣れていない僕では、戦闘に使える体力に差があるものだけど、その差も、この不規則に吹く風のおかげか、そこまで意識せずに済みそうだ。
でもなんで……僕にはあんまり影響がないんだろう……?
(シルフ、ホントになにもしてない?)
(ええ、もちろんです。アキ様も、そういったことは望んでないみたいでしたので……)
(うーん……。だったらなんでこんなに動けるんだろう……)
考えてもわからないことは、ひとまず置いておこう。
また、そう結論を先延ばしにしつつ、僕は目の前のシンシさんに集中した。
――スキル<集中>、この効果は非常にわかりやすい。
色々と
今に関して言えば、シンシさんの動きの細部や、息づかいの音なんかが。
だから、タイミングも取りやすくなるし、動きに対して対処がしやすくなる。
きっと調合の時に使えば、細かな変化なんかも分かったりするんじゃないかな?
だから――
「ハァッ!」
「ふ……ッ!」
こうして相手に集中さえしていれば……対処はできる!
……対処は、ね。
「どうしたのですか、姫。私を止めるのでしょう?」
「も、もちろんそうですよ」
「では、そちらから攻めてきてはいかがですか? 先ほどから、反撃の形でしか攻撃されていないようですが。あぁ、もしかすると……攻めることはできないのでしょうか?」
「……うぐ」
まさしく図星だ。
言いよどんだ僕を見て、それを確信したのか、シンシさんは剣を向けたまま口元を歪める。
「もし図星のようでしたら、どうやって止めるおつもりなのでしょうか? 姫?」
「それは、その……」
「勝って止める。そう言いたいのでしょう? ですが、それは無茶な夢というものでしょう。同じ生産メインとは言え、私と違い……複合スキルに目覚めていないあなたに、私を止める術はない。やはり能力の違いが、大人と子供の差。それと等しいのです」
「複合スキル……?」
なにそれ。
いや、詳しく聞かなくても、なんとなくは分かる。
何種類かのスキルを……合体させる的な……そんな感じの事だと、思う。
でも、そんなことって出来るの?
確かにそれが可能なら……シンシさんの戦い方にも納得がいく。
森で見た、針と糸を使った戦い方……あれが複合スキルによるものなら……。
「……姫。そろそろ終わらせましょう」
「そう簡単に、終わると……思わないでくださいね!」
瞬きの後、飛び込んで来る……!
僕の目が、彼女の姿をそう捉えたことに反応して、足を動かそうとした僕は、一瞬だけ何かに足を取られた。
――まるで、糸に足を取られたみたいに。
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