第174話 悪趣味
「ごきげん、いかがですかー?」
時を待つように集中していた僕の耳へ、突然男の人の声が入ってくる。
顔を上げて時間を確認すれば、まだ夕方にもならない時間。
攻撃を仕掛けるとしても早すぎる……それに、この声。
聞き覚えがあるような、ないような……。
最近会った人が多いからなぁ。
「……誰だ、貴様は」
「おー、怖いねえ。まぁ、名乗ったところでお前らにはわからねぇよ」
「なんだと……?」
「そもそも我ら、名乗ってはいないでござる。故に、お主らでは我らが誰かすらわからぬでござるよ」
ござる……ござる?
ござるってどこかで……どこだっけ……?
「あっ! 森の人だ!」
「……なぜバレているのでござるか?」
「お前のせいだろ、エセ忍者」
「え、エセとは酷いでござる! これは、ジャパンの伝統的暗殺スタイル! 拙者、酷く傷ついたでござる! 決闘でござる! 正々堂々暗殺で勝負でござる!」
「……」
なんなんだろう、この人達。
扉についた小窓からは、微妙に見えない位置に立たれているからか、声しか聞こえないけれど、それが余計に頭を困惑させてくる。
……なんなんだろう、この人達。
「姫……お知り合いですか?」
「知らないけど知ってる。前に僕を狙って攻撃してきた人達だよ」
「なっ……!」
僕の言葉に驚いてか、シンシさんは息を飲む。
そして、怒気をはらませたまま怒鳴ろうとして……なんとか思いとどまった。
「……それで、何の用?」
「あぁ、そうだったな。あん時お前に逃げられてさー、俺らの信用がた落ちなわけよ。それだけならまだしも、クソみたいな雑魚にまで舐められる始末でよー」
「……自業自得じゃない」
「そ、自業自得なんだけどさー。さすがに温厚な俺も苛立ってるわけ。本当はお前をココでグチャグチャになるくらい殺したい……が、それじゃ捕らえた意味が無いんだわ」
「殺してしまうと、あっちの拠点に
弓を使ってた人までいるのか……ということは、声は3人しか聞こえないけど、あの時いた4人が全員揃ってると思った方が良さそうだ。
あの時は僕1人に加え、身を隠しやすい森だったから多少は避けられたけど、今回はシンシさんもいるし、ここは彼らの方が慣れてる……。
つまり……この4人がこのままここにいると、僕らの脱出がかなり厳しくなるってことだ……。
「そこで、俺らの屈辱を、身をもって知ってもらおうと思ってなー」
「なにを、させる気……?」
「なーに、簡単なことさ。壊滅した拠点にお前を引きずって連れていき、
「なっ……!」
「そ、そんなことしても、誰も信じない!」
「そりゃ信じないだろうなぁ……お前を知ってる奴は。でも、今回のイベントは新規も多いわけ。そいつらからしたら、とんだ迷惑だよなぁ。
……言い返す言葉も出ない。
せっかくシンシさんが言い返してくれたのに、確かにそうだって思ってしまった僕がいる。
僕があの時大人しく捕まっていれば、こんなことにはならなかったかもしれないから……。
「あー、それと、あの時いた他の女共……1人は男か……? は、お前の前で殺してやるよ。身動き取れないようにしてから、ゆっくりな」
「あんた、相変わらず悪趣味っすね」
「お前にも1人やるよ。ほら確か、槍持ってたやつだろ?」
「あぁー、いいですね。張り付けて、一本ずつ矢を射るのも楽しそうですし」
「だろ?」
槍を持ってたって……ハスタさん?
え、なんでハスタさんまで……?
僕を助けに来たから……?
4人って、ハスタさんだけじゃなくて、妹のラミナさんや、リュンさん、フェンさんにまで、危害を加えるってこと……?
そんなの……。
「そんなの……そんなのって!」
「ひ、姫!? 落ち着いてください!」
「僕なら! 僕だけなら構わない! けど、みんなには!」
「残念でしたー。言葉だけでその反応なら、実際の時が楽しみだ」
「ホント、悪趣味っすね……」
扉を開けて飛びだそうにも、
もはや自分でも何を叫んでいるのか分からないほどに叫びながらも、扉を叩き続ける。
しかし、そんな僕をあざ笑うかのように、彼らは力を抜いたまま、扉の前で殺し方を吟味していた。
「お願いだから……ラミナさん達には、手を……。僕だったら、なんでもするから……」
「お? なんでもするって言ったか? でも、残念。お前に出来ることはねーよ。精々そこで、お仲間が殺される所を想像して待ってな」
全くもって、取り付く島もない……。
やつらは万が一扉が壊れて、僕が飛び出したとしても関係がないんだろう……。
僕にだってわかるくらい、あいつらの方が強いから。
だからあんな風に、余裕そうに僕を嘲られる……!
そんなこと、分かってはいるんだけど……!
「だからって、諦められるわけじゃない……!」
「ったく、しつけぇなぁ……」
繰り返すように何度も扉を叩き続ける。
そんな僕に少し苛立ってきたのか、小窓から見える場所に姿を見せ……おもむろに武器を抜いた。
「少し黙ってろ!」
「姫! 危ない!」
抜かれた剣の刃が光ると同時に、僕の腰に強く衝撃が走る。
そして、シンシさんに押し倒されるようにして地面についた僕が見たのは、小窓から突き入れられた剣の刃。
……シンシさんが助けてくれなかったら、死ぬかもしれなかった……?
「おいおい、殺さないでくださいよ?」
「心配すんな、峰打ちだ」
「突きに峰もなにもないと思いますが……」
そんな僕らを馬鹿にするように、彼らは軽い声でそんなことを話す。
……どうすればいいんだ……僕は……。
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