第172話 協力者がいれば
「ぅ……ここは……?」
眠りから醒めるように、ゆっくりと瞼を開く。
肌に伝わるひんやりとした感触と、動く度にズレる粒の痛み。
背中が少し痛い……そうか、殴られたんだっけ?
「姫! 大丈夫ですか!?」
そうして僕が現状を把握しようとしていると、頭上から聞いた事のある声が聞こえた。
凜とした、芯のある声。
そう思って、顔を上へと向ければ、視界に飛び込んで来る顔。
「……シンシさん。無事だったんですね」
「えぇ、この通り。ご連絡も出来ず、申し訳ございません。連絡をしようにも、なぜか念話が使えず、
「なるほど。でも、こうしてまたお会い出来て、良かったです」
「姫……! ありがとうございます……!」
なぜか感動したみたいに、シンシさんは瞳を潤ませその身を震えさせる。
一度しか話したことはないけど……シンシさんは相変わらずだなぁ……。
「それでここは……?」
「姫。ひとまずこちらへどうぞ。ご説明いたします」
「あ、うん。ありがとう」
シンシさんに支えられるようにして、部屋の中央から端へと移動し、壁に背を当てる。
そんな僕を見て、ひどく痛ましそうな表情を浮かべてから、シンシさんは口を開いた。
「ここはどうやらPK共の拠点のようです。このように小さく仕切られた部屋がいくつかあるのでしょう。私と共に出た仲間は別のところに入れられているのを横目で確認しましたので」
「なるほど……。全部で何人いるかわかります?」
「私が来てからであれば……私を含めパーティーが4人。それから数はわかりませんが周りが騒がしかった時もあるので、その時にも増えていれば……姫をいれて10人足らずかと」
思ったよりも多いなぁ……。
それに、この部屋も、もし作ったとすれば、出来が良すぎる気がする。
それこそ、本職の仕事みたいに。
ここと同じような部屋が他にもたくさんあるとすれば……ここにいるのはPK専門の人だけじゃない。
きっと、生産メインのプレイヤーも少なからず協力してる……。
もしかすると、PKの人の仲間が、僕らの拠点に潜入してるってパターンもあるかも?
「ひとまず、ここを出ないと……」
「ですが、どうにも交代制で見張りをしているらしく、抜けられる隙が……。私が所用でログアウトしている時間もありましたが、確認しただけでも、2人から4人体制で見張りがいます」
「あー……そうなると脱出するのも難しいね……」
「悔しいですが……」と、苦虫を噛み潰したような表情を見せ、シンシさんは口を噤む。
さて、そうなると、自力での脱出は厳しいってことだ。
試しに念話をしてみたけど、ノイズが激しすぎて、これじゃ繋がってるのかどうかすらわからない。
なるほど、確かにどうしようもない。
「せめて外に協力者がいれば……」
「私にもPK共に知り合いは……」
「だよねぇ……」
こんな時、シルフがいてくれれば……姿を消して助けを呼びに行って貰うことも出来るのに……。
「もしかして、あの時の1人になるなって……このことだったのかな……」
「姫?」
「うぅん、なんでもない」
今の状況に、あの普通すぎる露店の店員さんを思い出したけど、あの言葉は多分……森でPKの人と戦った時のことを指してたんだろう。
まぁ、あんなことがあったのに、またこうして危険な状態になってるっていうのは……僕も勉強してないなって思うけど……。
と、とりあえず現状はわかった。
けど、それを打破する方法は全く思いつかない……。
一応、と思ってインベントリの中を見れば、こっちは手を付けられてないのか、アイテムはちゃんと残っていた。
「ポーションとかも残ってる、か」
「私の方も、アイテム類は全て残っております。ただ、役には立ちそうもないものばかりです」
「いや大丈夫。もし脱出できるようなアイテムがあったとしても、2人だけじゃどうしようもないし」
実際戦闘になってしまったら、生産メインの僕らだとPKには勝てないだろう。
あっちは、対人戦闘をメインにしてるんだから。
「そうなりますと……」
「今は待つしかない、かな。……たぶん、このまま何も起きないってことは無いだろうし」
「と、言いますと……?」
「僕らを攫ったってことは、何かしらの意味があるからだと思う。シンシさんはもしかすると成り行きかもしれないけど、僕に関しては確実に狙われて、だろうし」
「なるほど……。確かに姫であれば、いなくなると士気に関わるところが出てくるでしょう。……まさか」
シンシさんの言葉と共に、僕にもひとつの考えが浮かぶ。
というか、それ以外考えられない。
「拠点を襲うつもり、だと思う」
「あそこには初心者も大勢いるというのに……そんなこと、やつらには関係がないと言うことか……!」
「シンシさん落ち着いて。確かに最悪なことだけど、それは僕らにだって好都合な状態を生むかもしれない」
「……そうか、手薄に。PKをやってるくらいだ。その時は攻める方に人数が偏るはず」
「うん。多少は残るかもしれないけど、その時が一番の
ただ問題は……いつそれが起きるかわからない。
だから今は、とにかくちゃんと休む事と、逃げる時のために準備をしておかないと。
「シンシさん、布ってありますか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます