第162話 大きいのが良い?
ウッディーマウンテン……もとい、木山と名乗った男性は、見るからになにかの作業員だった。
昔の大工さんみたいな、黒く短い角刈りの頭。
ほどよく日焼けした顔や、僕の2~3倍の太さはありそうな腕や足。
そして、極めつけの少し汚れた青一色の作業服……。
大工かどうかはわかんないけど、確実になにかの作業員……。
いやまぁ、本人が大工って言ってるし、大工なんだろうけど。
ここまで徹底した服装や見た目ってことは、かなり本気の生産プレイヤーかな?
結構厳しそうにも見えるし……気を付けた方がいいかも。
「え、えーっと……ウッディーマウンテンさん?」
「木山でいいぜ、アキさん! 他のやつらは棟梁とか呼ぶが、アキさんには木山って呼んでもらいてぇ!」
「あ、はい」
違う……この人、そんなに厳しそうな感じじゃない……。
だって、顔を赤らめながら「名前で呼んでもらいたい」とか。
「アキ。この人、変」
「それは言ったらダメ」
「ぐぅ! そっちにも可愛らしい方が! 美少女2人と話せるなんて、俺はここで死ぬのか……!」
「……変な人」
「そうだね……」
僕とラミナさんの間で、視線をいったり来たり……。
挙げ句の果てには、地面に膝をつけてうなだれてる……。
「あ、あの……」
「しかし! ここで、朽ち果てようとも! 本望なり!」
「ひっ!?」
うなだれてる彼に声をかけようとした瞬間、唐突に頭が上を向く。
そして、その気迫のこもった声に1歩後ずさりつつ、ラミナさんを僕の後ろへと隠した。
「いいかげんに……しろっ!」
「――ッ!?」
僕と彼の間に生まれた一瞬の空白……。
そのタイミングを見計らったかのように、手刀が彼の頭めがけて、まっすぐ落とされた。
……僕が木槌で叩くのに似た、結構痛そうな音がしたけど。
「アキさん達が、怖がってるでしょ! そんなんだから、依頼が来ないんでしょうが!」
「れ、レニー……。容赦が、ないな……」
「これでも手加減はしてる方よ!」
緑色の髪の女性――レニーさんは、僕らよりも大きい胸を張って、ため息を吐いた。
というか、レニーさんって、普段は服でそんなにわからないけど、結構大き……。
「アキ?」
そんなことを考えていると、僕の真後ろからラミナさんの声がかかる。
いや、その……僕も一応、男の子ですし。
大きいのは目がつい行ってしまうというか。
「アキ、大きいのが良い?」
「え!? いや、その……」
「大丈夫。まだ成長期、大きくなる」
「……そうですね」
ならないけどね!
むしろ、なったら困るけどね!
「アキさんはそのままでも、十分可愛いですよ」
「あはは……ありがとうございます?」
レニーさんに妙なフォローを入れられ、乾いた笑いを漏らす。
悔しいとかそういうのは全然無い、いやあるわけが無い!
それにほら、ラミナさんだってそんなに……。
「……アキ?」
「な、なななんでもないです!」
「そう」
この話題はやめよう。
いろんな意味で、誰も得しない話だ……。
そう思って、気持ちを切り替えるために、一度大きく深呼吸する。
……よし!
「話を戻しましょう。木山さんが、拠点の施設設営担当ということですよね?」
「おう、その通りだ! と言っても、今はまだ測量と設計の段階だがな」
「測量と設計……?」
いや、測ったり図面を引いたりはわかるんだけど……。
僕とは全然違う分野だから、どんな段階の話なのかがわからない。
多分、まだまだ最初ってことだと思うんだけど。
「測量ってのは、測ることだ。拠点って言っても、整地もしてない場所だからな。拠点内でも、多少の高低差がある。それを確認して、図面に落としてるってことだ」
「へ、へぇ……?」
「まぁ、現実に比べると測量器具も無いんで、<測量>スキルで確認してるんだがな!」
そ、そんなスキルもあるんだ……。
習得方法が全く検討つかないけど。
「そんなに工期は取れないんで、今日明日には図面まで全部引く予定だ」
「なるほど……。僕の方は、そういったスキルがなかったので、ひとまず同盟のメンバーに設計をお願いして、僕は森に木を伐りに行ってました」
「ほぅ。良かったらその木、貰えたりは……」
「そうですね。拠点設営に使うなら、良いですよ」
それ以外の目的があるのかわかんないけど、さっきまでの木山さんを見てると……なんだか裏がありそうだよね……。
ご神体として奉りますみたいな。
「記念として一本打ち立てるのは……」
「なんの記念ですか!?」
「そりゃあ、アキさんの拠点ここにあり! って感じの」
「僕の拠点じゃないですよね!?」
「……へへっ」
この人に任せて、ホントに大丈夫かなぁ……。
でも、リーダーを任されるってことだし、腕は確かなんだろうけど……。
そんな不安を抱えながらも、僕は木山さんへ木板を譲渡した。
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