第161話 ウッディーマウンテン

 とりあえず窓のそばにお皿を置いて、薬草を干していく。

 ラミナさんが言うには、現実だと1週間とかかかるみたいなんだよね……。

 さすがに、そこに関してはゲームっぽく短くなってくれたら嬉しいけど。


「さてと……それじゃ、ささっとお薬を作ってしまおうかな!」

「手伝う」

「ん? 手伝ってくれる? それだったら、このお鍋に水を入れてもらえる?」


 僕のお願いに小さく頷いてから、彼女はお鍋を持って水を入れにいく。

 あー……こういう作業も、シルフがいてくれたら気を利かしてくれてたんだよねぇ……。

 知らない間に、結構依存しちゃってるかも。


「アキ、なんだか寂しそう」

「え? そう?」

「今も、昨日も」


 あー……そういえば、昨日もシルフのことを考えてた時に、声をかけられたんだっけ?

 ラミナさん、よく見てるなぁ……。

 本人はほとんど表情変わらないのに。


「ちょっとね。ライフを始めて、ずっと一緒だった友達がいたんだけど、イベントには参加できなかったみたいで」

「そう」

「うん。だから、少し寂しいのは寂しいかな。こうして、お薬を作るときも手伝ってくれてたからね」


 そう言いながらも、少し恥ずかしくて……つい笑いながら頬を指で掻いてしまう。

 シルフも寂しがってくれてるかな……。

 街で帰りを待ってくれてるかな?

 むしろ、彼女のことだから、繋がってる契約のパスを辿ってこっちに来たりして……。


「それはないか」

「……?」

「なんでもないよ。お水、ありがとうね」


 ラミナさんからお鍋を受け取り、火にかける。

 さっきお水を入れてもらってる間に薬草は切ったし、とりあえず沸くまで待つかな。

 そういえば、ハスタさんがいないけど……?


「ラミナさん。ハスタさんは? 一緒じゃないの?」

「姉さんは森」

「森……? あぁ、先に伐採場所に行ってるってこと?」

「そう」


 まぁ、ハスタさんの性格的に、お薬作ってるところとか見ても楽しくないだろうしね。

 それだったら、森にいって魔物倒したり、体動かしてる方が良いってなるかな……。


「あ」

「……?」

「そういえば今日……アルさん達も行ってるんだった」


 まぁ、オリオンさんがいるし、大丈夫だよね……?

 僕の方に念話も来てないし、きっと大丈夫。

 ……たぶん。


「っと、そろそろ薬草を入れないと……」


 切っておいた薬草を、ドバドバとお湯が跳ねない程度に入れていく。

 少ししたら灰汁が出るだろうし、お玉の準備をしてっと……。


「アキ」

「ん?」


 僕の隣で、ラミナさんが両手を差し出してくる。

 なにかを渡せってことかな……?

 でも、何を……?


「えっと?」

「まな板と包丁」

「あぁ、洗ってくれるの?」

「そう」


 小さく頷きながらも、変わらず両手を差し出してくるラミナさんに、まな板を渡し、包丁は作業台の上へと置いた。

 直接渡すのは危険だしね!

 たぶん彼女もそれはわかってるみたいで、特に異も唱えず包丁を掴み、水場へと持っていった。


「すごい手伝ってくれるけど……なんでだろ……」


 手伝ったところで、ラミナさんには特に利点もないはずなんだけど……。

 ただ待ってるのが悪い気がするのかな?

 まぁ、いいや。


「ほいほいっと」


 浮いてきた灰汁をお玉で集めて、空瓶の中に入れていく。

 おばちゃんの作業場みたいに、水場が近ければそのままぽいっと捨てちゃうんだけど……。

 さすがに、まだそこまで水も引けてないからね……。


「っと、そろそろ大丈夫かな」


 鍋の中身が、ほどよく緑色になったところで、火を切り、冷ましていく。

 この冷ます作業も、シルフがいれば風で冷ましてくれるんだけど……。

 今回は仕方ない、自然に冷めるのを待つしかないか。


「アキ」

「ん? あぁ、おかえり。洗ってくれてありがとう」

「大丈夫」


 洗ってきたものを作業台の上に置き、ラミナさんは1歩下がる。

 多分、さっき僕が包丁を渡したときと同じで、危険だから置いたってことなんだろうな。


「アキさーん! お待たせしましたー!」


 まな板と包丁をインベントリにしまって、空瓶を取り出していると、遠くから声が聞こえた。

 まぁ、多分さっき言ってた拠点の施設設営の件についてかな。

 作業的にも待たないといけないところだし、ちょうどいいタイミング。


「アキさん! 作業お疲れさまです! 先程お話しした、拠点の施設設営のリーダーを連れて来ました!」

「あ、ありがとうございます。えっと、ご存じ……ですかね? 私はアキです」

「おう! 噂は聞いてるぜい! 俺はウッディーマウンテン! 人呼んで、大工の木山きやまよ!」


 そう言って、作業服みたいな青一色の服を着たおじさんが、大きな声で笑った。

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