第137話 活性化

 あれから何分か経って少し落ち着いた僕は、タンスの中からTシャツとジーパンを取り出して、着替えていく。

 なんだか微妙にジーパンが長い気がするけど、こんなもんだったかな?


「でも出かけるにしてもドコに行こう……」


 正直な気持ちを言えば、暑いから出たくないんだけど。

 母さんに言われたからには、少しは散歩でもしておかないとダメだよねぇ……。


「あ、そうだ。正直こっちは参考になるかわかんないけど」


 行くだけ行ってみて、調べてみれば分かるかなぁ……。

 あそこならクーラーも効いてるし、外を当てもなく散歩するよりは良いはず。


「そうと決まれば、善は急げだ!」


 ささっと鞄に筆記用具や携帯なんかを入れて、僕は飛び出すように家を出た。

 ……この時に、もう少し自分の変化に気を付けていれば、これからの事が多少は変わったのかもしれないけど、この時の僕はそんなことを思いもしなかったんだ。




「あー……、涼しいー……」


 クーラーで冷やされた木の机へ、脱力したように上半身を投げだす。

 太陽の熱で熱くなった頬に、冷たい机が気持ちいい……。


「あー……」


 このまま動けなくなりそう……。

 なんて、そんなことを考えつつも、数分でぬるくなってくる机から、仕方なく顔を上げる。

 そうして見えた窓の外は、相変わらずとても暑そうに揺らめいて見えた。


「あんな中せっかく来たんだし、やるかぁ……」


 ぼーっとしていた間に、汗で張り付いていた髪も乾いてくれていたみたいだ。

 仕方なくゆっくりと体を起こして、僕はすぐ近くの案内板へと足を向けた。


「んー……。あるとしたらこの辺かなぁ」


 目的の案内板――『市立茜ヶ原あかねがはら図書館・館内図』は貸出カウンターの横の柱に掲示されていた。

 あんまり来たことがなくて知らなかったんだけど、どうやらこの図書館……地上地下合わせて5階層もあるみたい……。

 僕の目的は、もちろん調薬関係。

 とは言っても、そんなに詳しいものはなさそうだけど……。


「とりあえず、2階……かな?」


 何ヵ所かの目星を付けて、歩いて階段を昇っていく。

 コンクリートの建物だからか、歩くたびに足音が響いて、なんだか少し不思議な感じがした。

 そんな音を楽しみながら、とりあえず目星を付けて来てみたのは、医学関係のエリア。

 ここに、昔のことを書いてる本があればいいんだけど……。


「……おっ」


 のんびり背表紙を眺めていた僕の目に、少し気になる本が見えた。

 茶色いハードカバーの本……結構古そうに見えるけど……。


「医学治療の進歩……か。これならなんだか書いてありそう……」


 とりあえず……と表紙を捲ってみれば、結構びっしりと文字が書いてある……。

 これはだいぶ頑張って読まないとダメな感じかなぁ……。


「ん? 異なる治療法の考え方……?」


 パラパラと中身を適当に眺めていると、そんな言葉がよく出てくる。

 異なる……?

 怪我とか病気とかは治すってだけじゃないの?

 不思議に思った僕は、すぐ近くの椅子に腰を下ろしてそのページを開いた。


「えーっと、病気に対しての治療法には、大きく2つの考え方があって……」


 ひとつは『病気自体にダメージを当てて消す』方法。

 もうひとつは『身体を活性化させて、免疫力で対抗する』方法……か。

 ゲームのポーションってどっちになるんだろう?


「怪我を早く治すってことは、活性化させてるって事なのかな……?」


 そういえば、ジェルビンさんがそんな感じの事を言ってたような……。

 確か、休んでたら直る『軽微な毒』には[解毒ポーション(微)]だったっけ?


「でも、猛毒や特殊な毒には、それ用にもっと強力な解毒ポーションを使って対抗する……」


 つまり、軽微なものに関しては身体を活性化させる方法を取って……重大なものには、それ専用に作った薬で直接ダメージを与えて消すって事かな。

 なるほど、なるほど……。


「ん……? 待ってよ?」


 つまり、ポーションが身体の活性化を促す……ってこと、だよね?


「ってことは、解毒の素材をポーションで煮詰めるだけで解毒ポーションが作れたりしないかな……?」


 ポーションを素材として使うっていうのは、なんとなく思いついてたけど……。

 もしかすると、すごく単純な考え方で作れたりするんじゃないだろうか?


「確かジェルビンさんが、解毒はカンネリを使うって言ってたね」


 これは、試してみる価値があるかもしれない!

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