第132話 合流しよう

 ガサガサと葉の擦れる音が聞こえる。

 人が少なく、静かだったオリオンさんのお店の中から転移して、気付けば僕は鬱蒼とした森の中にいた。


「急に転移させられると、ちと焦るもんがあるな」

「あ、トーマ君。近くに出たんだ」

「せやで、そこは説明通りってやつやな」

「それなら、他のメンバーも近くにいそうかな……」

「んじゃ、ちと探すわ。ちょい静かに頼む」

「あ、はーい」


 僕の返事を受けて、トーマ君は目を閉じ、耳に手を当てる。

 なるほど……音か……。

 トーマ君ってホント多才というか……、ちょっと変わってるというか……。

 でも、こうして見ると風に揺れる金の髪が、木漏れ日に当たってすごく綺麗……。

 普段は結構やんちゃなところもあるけど、こうやって集中してると結構かっこい……。


「全員分かったで……ってアキ、なんやジロジロ見てからに」

「っ! ご、ごめん、なんでもない!」

「なんや、変なやつやな……。とりあえずスミスがこの少し先におる。ただ、カナエの姉さんが反対方向やし、オリオンさんも姉さん側やし、俺がそっちいくわ」

「ん、じゃあここでとりあえず待ち合わせだね。アルさん達は……?」

「あいつらはすでに固まってるみたいやな。たまたま俺らよりも全員近かったんやろ」

「なるほど、じゃあとりあえずパーティー全員集合してから、そっちとも合流、だね」


  りょーかい、と軽く返事をしてからトーマ君は一気に駆け出していく。

 あっという間に見えなくなったんだけど……、相変わらず速いなぁ……。


「そういえばシルフは……?」


 普段はすぐ近くに感じるはずの気配が感じられない。

 イベント……参加出来なかったのかなぁ……。


「でもなんだろ……。なんだか薄く繋がってるような感じもある……?」


 断言できるほどの感覚ではないけれど、なんだか少しだけ……。

 袖の端を軽く糸が引っかかってるくらい軽くだけど、感じられる気がする。


「大丈夫。……僕らは繋がってる」


 わざと口に出して、その妙な感覚に想いを乗せる。

 それだけで不思議と、彼女に伝わった気がした。




 さてと、僕の方も急がないと……。


「……たしか、トーマ君はこっちの方にいるって……」


 所々邪魔な枝を鎌で払いつつ、木々の間を抜けていく。

 それを繰り返すこと数分、どうやら目的の場所にたどり着けたみたいだ。


「ん? 誰っすか?」

「あ、あのスミスさん。私です、アキです」


 声をかけながらゆっくり茂みから体を出し、片手を上げる。

 それに安心したのか、スミスさんは手に持ったハンマーらしきものを腰裏へと戻した。


「スミスさんの武器って、それなんですか?」

「そうですね。そういえばアキさんに見せたことなかったでしたっけ」


 スミスさんはそう言いながら、腰裏に戻した獲物を、もう一度前に出してくれる。

 僕に見せてくれたそれは、木槌を大きくしたような形で、左右に叩くための口がある鉄の槌。


「でも、これ重そう……」

「そうっすね。でも、いっつも振ってるやつと重心似せてあるんで、まだ楽なんすよ」

「へぇ、なるほど……」

「アキさん、こいつはこれだけじゃないんですよ! 驚くのはそれを見てからにして欲しいっす! こいつの秘密は、コレだ!」


 近づいて見ていた僕から、スミスさんは槌を手に、後ろに下がるように距離を取る。

 そして、右手で槌を振り上げ……、頭の上で左手を添えると、まっすぐに勢いよく振り下ろした。

 ゴウッと鳴る音とともに、柄の部分が伸び、前方にあった樹の枝へと落ちていく。


「フンッ!」


 太い枝に槌が当たった瞬間、酷く鈍い音が響く。

 そして、アルさんの大剣でも斬るのが大変そうな枝が……、その根元から折れ落ちていった。


「うっわ、豪快……」


 僕の目の前で、樹に荒々しい折れ目を作ったスミスさんは、特に何事もなかったかのように武器を腰裏にしまい、折った枝を脇に担ぐ。

 そして、僕の目の前で得意げな顔で胸を張った。


「どっすか! すごいでしょう!」

「う、うん……」

「あ、一応この樹は持って行って、材料か燃料にするっす。ただパフォーマンスで折っただけじゃ可愛そうですから」

「あ、そうだね。それ、持つの手伝おうか?」

「全然、いいっすよ。普段持ってる鉄より軽いんで」


 そう言って、自分の身体より少し細いくらいの枝を、スミスさんは片手で軽々と持ち上げる。

 ……スミスさんって現実の僕と同じくらいの体格なだけに、違和感がすごい……。

 いや、ゲームだからおかしくないんだろうけど、違和感がすごい……。


「それでアキさん……。他のメンバーは?」

「あ、そうだった! 僕とトーマ君がいた場所に、トーマ君が集めてくれてるから! 急がないと! 走るよ!」

「了解っす!」


 言うが早いか、反転するように来た方へと駆け抜け出していく。

 後ろを少し振り返って見れば、太い枝を抱えて走ってくるスミスさんが見えて、なんだか妙におかしかった。


「ぉ、やっと来たか……って、スミス何持ってん……」

「折った枝だよ」

「いや、そんなん見りゃわかるて……」

「いや、置いてくるのも悪いか……ってな」

「……もうええわ」


 来た道を戻る事、数分。

 トーマ君達はすでに合流して待っていてくれたみたいだ。

 まぁ、結構時間経っちゃってたしね……。


「カナエさん、オリオンさん。すみません、お待たせしました」

「いえいえ、気にしないでください。私の方こそトーマさんに迎えに来て貰ったわけですし……」

「それよりも、急ぎアルさんと合流した方が良いでしょうね。戦えると言っても、このメンバーの半分は戦闘を主体にはしていない訳ですので」


 小さく微笑むカナエさんの横で、オリオンさんが手袋をはめながら、そう案を出してくれる。

 その言葉に僕も頷いて、トーマ君達の方へと声をかけた。


「トーマ君、ちょっと頼める?」

「りょーかい。アルらを呼んできたらええか?」

「こっちもアルさん達の方に向かうから、方向を教えて。あと、忘れてたけど念話もあるし、連絡しとこうと思うんだけど……」

「あいよ。念話やったら、キャロの姉さんなら対応できんじゃねーかな。仮に戦闘しとっても、あの人なら戦闘にはあんま参加せんやろうし」

「ん。それじゃ先にしとくから、方向の確認お願いできる?」


 僕のお願いにトーマ君は右手だけ上げて、目を閉じる。

 多分また音で探すんだろう。

 そう思って、僕はみんなに静かにするようにジェスチャーで伝えて、キャロさんへ念話を飛ばした。


『はい、キャロラインです』

(あ、キャロさん。すいません、遅くなりましたが全員揃ったので、そちらのパーティーと合流しようかと思います)

『わかりました。アルに伝えておくね』

(お願いします。トーマ君が先行してそっちに行くと思うので、道案内はトーマ君に任せてくれれば大丈夫だと思います)


 トーマ君に手で合図を出しながら、キャロさんにトーマ君の事を伝えて念話を終わらせる。

 彼が駆けていった方を確認しながら、僕は腰から草刈鎌を取り外した。


「戦闘があるかもしれないので、みんな一応すぐに戦えるようにはしておいてください」

「わかりました。アキさんとカナエさんを真ん中に、私とスミスさんが前後を見ましょうか」

「了解っす」


 とりあえずの形で隊列を組んで、トーマ君が向かった方へと歩き出す。

 彼が抜けていったところだけ枝や草があんまりない……。

 たぶん、あの速度で抜けていきながらも、僕らのために枝払いをしてくれていたのかもしれない。


「……そんなに気を使わなくてもいいのに……」

「アキさん? なんか言いました?」

「んーん、なんでもないよ」

「そっすか?」


 僕の前……最前列を行くスミスさんにそう返しながら、小さく息を吐く。

 トーマ君はなんでも出来るから、なんでも気を使ってくれるんだろうけど……。

 できることなら……そんなことも気にせずに、イベントを楽しんで欲しいな……。


「……僕も、がんばろう」


 草刈鎌を持つ右手を少しだけ強く握って、僕は前へとしっかりと足を踏み出した。

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