第119話 お母さんも間違える

「……と、言うわけで」


 上から見て三角の形に座りながら、僕は事情を説明する。

 といっても、休憩してたら見えたってだけなんだけど……。

 ちなみに、僕の眼前に突きつけられていた槍は、話をする前に下ろしてもらった。


「うん、それなら別にいいかな!」

「ラミナも」

「……それならよかった」


 納得してもらえた事に一安心して、ほっと胸をなで下ろす。

 もし納得してもらえなかったら、あの槍で突かれたんだろうか……?

 そう考えると、恐ろしい……今度からは不用意に人を見ないようにしよう……。


「それで……あらためまして、私はハスタ! それでこっちが」

「ラミナ」

「よろしくねー!」


 そんな風にもう全く気にしてない、と言わんばかりの笑顔で赤髪の少女ハスタさんが笑う。

 青髪の少女ラミナさんは無表情だったけど……。

 なんというか、見た目通りの性格だなぁ……。


「あ、えっと……私はアキ」

「アキちゃん! よろしくね!」


 僕が名乗ると、ハスタさんは返事をしながら僕の手を取って上下に振る。

 どうやらハスタさんは、スキンシップが好きなタイプなのかもしれない……。

 彼女が手を離してくれるまで、僕はのんびりそんなことを思った。




「それで、ハスタさんは大丈夫?」

「ん? なにがー?」

「ほら、さっきの戦いで、その……」

「姉さん。転んで踏まれてた。……ちょっと、おもしろかった」

「ラミナ!?」

「ちがった。結構おもしろかった」

「もっとひどいよ!?」


 ハスタさんは口を大きく開け、もーもーと怒りながらラミナさんに手を伸ばす。

 ラミナさんはそれを無表情でペチンとはたいて落としていた。


「うぅー……アキちゃーん……。妹がいじめてくるよぅ……」

「あ、あはは……。そういえば、おふたりは双子さんなんですか?」

「そう。姉さんもラミナも、顔は全然いじってない」

「へー、じゃあ現実でもそっくりなんですね」


 兄弟姉妹がいるってどんな感じなんだろう……。

 僕にはいないから、それがどんな感じなのかわかんないんだけど……。


「本来は二人とも髪が真っ黒なの! 髪型が一緒だと全然見分けが付かないんだよねー!」

「お母さんも間違える」

「そ、そうなんだ……。大変だね……」

「だから、ラミナは青」

「ん? 髪色?」

「そう」


 表情は全く変わらないけれど、ラミナさんは結構しゃべってくれる。

 ハスタさんみたいに感情がわかりやすいわけじゃないけど、特に嫌がってはないって事かなぁ……?


「でも、赤と青ってなんでまた反対の色を……」

「んー……、特に好きな色って訳じゃないんだけどね。なんとなくラミナが青にしそうかなって」

「ラミナも。姉さんが赤にしそうって思った」

「打ち合わせもなにもしてないの……?」

「「うん(そう)」」


 それなのに、こうして示し合わせたみたいに真逆の色……。

 なんだろう……双子には不思議な力があるって聞いた事があるけど、そういった力なのかなぁ……?

 それが、VRにまで影響するのかどうかはわかんないけど……。


「あぁ、そうだ。ハスタさん、これ飲んで」

「なに? これ」

「[最下級ポーション(良)]だよ。さっき踏まれてたよね?」

「そうだけど……、ポーションかぁ……」


 そう言って、ハスタさんは嫌そうな顔をする。

 その顔をするってことは……すでに最下級の味は知ってるみたいだね。


「味なら大丈夫。改良してあるから飲みやすいと思うよ」

「そうなの!?」

「うん。今渡したのはアルペっていう、現実で言うところのリンゴみたいな果物の味を付けてあるんだ」

「……飲んでみる!」


 言うが早いか、ハスタさんは瓶の蓋をあけると、立ち上がり腰に手を当てて一気にあおる。

 ……なんていうか、豪快……。

 良い飲みっぷりだけど、見た目女子高生がそれでいいのだろうか……。


「ぷはぁーっ! 美味しい!」

「それならよかった」

「すごいね! こんなのもあるんだ! どこで手に入れたの? もし買えるところがあるなら買っておかないと!」

「姉さん。落ち着いて」


 瓶を持ったまま、膝立ちで僕に詰め寄ってきたハスタさんの真後ろから、彼女の頭めがけてズビシッとラミナさんが手刀を落とす。

 結構いい音がしたけど大丈夫だろうか……?


「……いたい」

「あはは……」

「アキ。これ、どこで買った?」

「ん? ポーション?」

「そう」

「これは買ってないよ。私が作ったやつ」

「……すごい」

「いや、そんな……。やろうと思ったら誰でもできるよ」


 実際、[最下級ポーション]は刻んで煮るだけだし……。

 これを失敗するってことは、それはもう……たぶん壊滅的に料理が出来ない人じゃないかな……?

 もっとも、そんな人を探す方が難しいとは思うんだけど。


「……姉さんでも出来る?」

「えっと……?」

「姉さん。料理だめ」

「だ、ダメじゃないよ!? ちょっと失敗が多いだけだよ!?」


 叩かれた場所を両手で押さえて俯いていたハスタさんが、慌てるように声を挟む。


「あれは成功じゃない」

「か、形は残った……よ?」

「姉さん。普通は形が残る。爆発しない」

「し、しし……してない! ……よ? ……そんなに」


 ラミナさんの言葉に対して、ハスタさんは顔を真っ赤にしながら反論する。

 しかし、次第に語尾が弱くなっていくのは……その……。

 爆発……、してるんだね……。


 腕を振りながら返す姉と、冷静に口撃していく妹の姿に、僕はなんとなく……この2人の力関係が見えた気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る