第118話 頭を踏まれました

 あの顔合わせを兼ねた、打ち合わせの次の日。

 イベントが今日を入れてあと3日に迫ったこともあって、僕はシルフと一緒に薬草の採取に来ていた。

 ちなみに、来る途中に街の中央にある広場で掲示板を確認したんだけど……特に変化はなかった。

 アルさんやトーマ君の予想では、前日か前々日には変わるんじゃないかってさ。


「でも……、やっぱりこうやってのんびり採取とか、お薬作ったりしてる方が僕には合うかも……」

「あはは……。会議、お疲れさまでした」

「会議って言うほどでもないんだけどね。ちょっとした打ち合わせみたいな感じだったし」


 のんびり話しながら薬草を採っていく。

 手に持った草刈鎌は、ガラッドさん特製の新品。

 今まで使っていた草刈鎌より、少しだけ柄が細くなっている。

 どうも前の鎌は僕の手に対して、少し太く合ってなかったらしい。


 ガラッドさんにお願いしていた採取道具は、全部で3つ。

 草刈鎌と、割れてしまっていた木槌。

 そして、蛇の目に突き刺した後、手入れをしていなかったために錆が付いてしまったノミだ。

 ツルハシ以外……というか、ツルハシはまだ使ったことがないだけなんだけどね……。


「うん、ここはこれくらいにしておこう」

「はい! それにしても……人、多いですね……」

「そうだねぇ……」


ある程度刈ったことで、まばらになった薬草の群生地に腰を下ろし、少しのんびりと休憩する。

 全部採らなかったのは理由があって、現実世界の方で聞いたんだけど……、全部採ってしまうと、その場所に次から生えなくなってしまうらしい。

 こっちの世界でも同じなのかどうかはわからないけど……。


「……あ」

「ん? アキ様、どうかしました?」

「シルフ見て見て、あの2人。前にトーマ君が言ってた双子じゃない?」


 何の気なしに見まわしていた草原に、僕と同じくらいの年頃の女の子が2人、向かい合って話をしていた。

 その2人を指指さずに、顔の向きと言葉だけでシルフに説明する。


「ほら、あの青色と赤色の髪の。ちらっと見えたけど、顔がふたりともそっくり」

「……ここからだとちゃんとは見えないですけど、見える感じではよく似てますね」


 まわりに他の人がいないってことは、2人パーティーなのかな?

 ここの魔物はアクアリーフと玉兎だけみたいだし、気を付けてれば大丈夫なはず。

 ……まぁ、僕だって普通に勝てたしね!


「トーマ君に聞いた通り、赤い髪の子が槍、青い髪の子が剣みたいだねー」

「でも、剣を持たれてる方は肘の先あたりに、盾も持たれてるみたいですよ?」

「あ、ホントだ。小さめだけど、盾だねアレ」


 大きさとしては、男性の顔くらいの大きさだと思う。

 玉兎も同じくらいだから、体当たりのガードはできるのかな?


 そんなことを考えながら見ていると、2人は新しいターゲットを発見したのか、飛びだすように駆け出した。

 盾を持っている青髪の子が前に出て攻撃を受け止めつつ、赤髪の子が槍で倒す……のが、僕でもわかるセオリー。


「……なんだけどなぁ」

「……?」


 なぜか、赤髪の子が先に突っ込んで行ってるし……、案の定避けられて槍の間合いの中に入られてるし……。

 そこまで近づかれちゃうと振り回すのも難しいよねぇ……。


「あ、コケた」

「……その上、頭を踏まれましたね」


 なんていうか……、コントみたいにスムーズに踏まれたよ……?

 玉兎は人の顔くらいの大きさだから、そんなに重くはないから大丈夫だと思うけどね。


「ぉ、青髪の子は上手だね」

「そうですね。ちゃんと盾で防げてます」


 青髪の子は、玉兎を挟んで僕らと向かい合うような位置取りで戦っていた。

 といっても、剣は当たってないんだけど……。

 これは長期戦になるかなー……と思った瞬間、玉兎から槍が生えた。


「うぇ!?」


 消えていった玉兎の向こうで、赤髪の子は槍を突き刺した体勢のまま静止していた。

 ひと突きで倒したことも驚きなんだけど……。

 それよりも驚きなのは、その槍が……身体を反らした青髪の子のすぐ横を通り抜けていたこと。

 あの位置……、青髪の子には見えてない位置のはず……。


「青髪の子の口、動いてなかったはずだけど……」

「念話……でしょうか?」

「そうなの、かなぁ……?」


 2人パーティーなら、普段から念話を使って意思疎通を取るのも良いと思うけど……。

 でも、最初見たときにあの2人……、口を使って話をしてたように感じたんだけど……。


「あ、アキ様!」

「……ん?」


 シルフの声に思考を中断して顔を上げた直後、僕の視界に影がかかった。


「姉さん。この人」

「そっかー! ねぇ、君。この子が言うには、ずーっと見てたみたいだけど何か用?」

「ラミナ、ずーっととは言ってない」

「え、言ってなかったっけ!? ごめん、ずーっとじゃなかったみたい!」

「姉さん。そこを謝る必要は特に無いと思う」

「え、じゃあさっきのは取り消しで!」


 ……なんだろう、この2人。

 とりあえず……そんなことより、槍を僕の顔の前から下ろしてもらうのが先決かなぁ……。

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