第110話 珍妙な2人

 街の喧騒から少し離れて、のんびりと道を歩いて行く。

 待ち合わせの時間まではまだまだ全然時間があるし、のんびり歩いても大丈夫だよね。


「んー、この辺りは……、風が気持ちいいなぁ……」


 日差しが暖かくて、通り抜けていく風も優しく感じる。

 時間までこの辺りで、少し休憩しちゃおうかなっ!


「それなら、どこか座れるところがないかなーっと」


 少し辺りを見まわしてみれば、ぽつんと置かれたベンチが見えた。

 周りには何もないけど、この辺りに来る人の休憩用なのかもしれない。

 歩いてベンチに近づくと、腰掛ける前にシルフが風で土を払ってくれる。

 そうして綺麗になったベンチへゆっくりと腰を落とせば、日差しで暖かくなったベンチが気持ちいい。


「あー……」


 今僕のいる街の東側は、いつも通りというべきか……、相変わらず人が全くいない。

 特に最近は、みんなイベントや第2生産組に向けての準備をしているからか、この辺りには誰も来ないみたいだ。

 さらに街の中心部に近いからか、静かさが余計に際立って感じる。

 けど、なんだか……そのおかげでゆっくりできる気もする……ん、だ……。




「だから何度も言っておったじゃろう!? 儂ははようカタを付けろと!」

「んーでもぉー。こーゆーのってミーには合わないからぁ」

「えぇい、その喋りが余計苛立たしい!」

「そんなこといわれても、こまるわぁ」


 ん、ん……?

 気付いたら寝ちゃってたみたいだけど……、この声なんだろ……?

 女の子と男性みたいなんだけど……、妙な感じっていうか……。


「……なんだろ、あれ……」


 声のする方へ顔を向ければ、真っ黒な髪をまっすぐ腰まで伸ばした和服の少女と、金と黒の髪をした細身の男性がそこにいた。

 男性の方は、なんだかすごい身体をクネクネさせてるけど……。


「あん? なんじゃワレ? 儂らになんか用か?」

「ふぇ!?」


 見た目に合わない言葉を使いながら、黒髪の少女が僕の方を向き、大股で歩いてくる。

 そのたびに、履いている下駄からカランコロンと軽快な音が鳴り、僕の視線を彼女だけに釘付けにした。


「さっきからじろじろじろじろと、こっちの方見おってからに。バレとらんとでも思うてか!?」

「ぁ、え!? あの……ごご、ごめんなさい!」

「謝って済むんなら、この世に警察ポリなんざいら「はーい、ストップ」ぞ!?」


 詰め寄られ慌てる僕の正面から、軽い声が聞こえた。

 その声が一緒にいた男性のものと思い当たる前に、少女の頭の上にまっすぐ手刀が落とされる。


「あだっ!?」

「ほーら、あんまり怖がらせちゃだめよぉ? お嬢ちゃん、ごめんなさいねぇ」


 片手で少女の頭を後ろから鷲掴みしながら、男性は僕にのんびりとした声で謝る。

 しかし、その頬には空いた手が添えられてるし、動きもしなやかでなんだかすごい女性らしさを感じる……。

 でも声も低かったし……一応男性で良いんだよね……?


「お嬢ちゃん、ミーは一応オトコよ」

「は、はひっ!?」

「ふふふ、大体みんな思うことは同じだもの。いいの、慣れてるから」


 そう言って、笑う男性。

 すごい穏やかなんだけど……、片手で少女の頭を鷲掴みしてるからか、なんだかすごい妙な感じ……。


「ええい、フェン! ええ加減離さんか!」

「あらあら、すっかり忘れてたわぁ。でも、リュン……、あなた離したらまた彼女に詰めよったりするんじゃなくて?」

「せん! せんから離せ!」


 しょうがないわねぇ、と言いながら男性は掴んでいた手を離す。

 すると、タイミングがいきなりだったからか、リュンと呼ばれた少女はバランスを崩し……。


「――ッ!」


 倒れ込んでくるっ! と思った矢先、少女は右足を大きく地面に叩きつけ、むりやりその場所でバランスを持ち直した。


「ふんっ! 儂の手助けなんぞ、百年早いわ!」

「もぅ、リュンったら……」


 いや、何事もなかったなら良いんだけど……。

 受け止めようと広げた腕がなんだか恥ずかしいけれど、とりあえずそれは忘れよう、うん。

 そう思って、意識を切り替えるため横目で時間を確認すれば、すでに約束の時間に近くなっていた。


「あ、そろそろ私は行かないと……」

「あらあら、そうだったのね」

「ふん、ならば行けば良かろう」


 柔らかく微笑む男性とは反対に、腕を組み、不機嫌そうに言い放つ少女。

 なんだかこの二人、あらためて見てもすごい変な組み合わせだ……。


「う、うん。あ、でもじろじろ見ちゃってごめんね。それじゃ!」

「気にしないでちょうだいねぇ」

「……待て」


 ベンチ前に立つ二人の横をすり抜けて行こうとした瞬間、少女が僕の手を取り引き留める。


「ん?」

「おんし、名は?」

「え? あっと……、アキって言いますけど……」

「……ほぅ」


 一瞬だけ間を空けて、少女は小さく呟く。

 そして、掴んでいた手を離し、僕の方へと向き直った。


「申し遅れたの。儂はリュン。そしてこっちが……」

「ミーはフェンよぉ。よろしくねぇ」


 そう言って、彼女たちは笑う。

 でもなんだろ……、笑ってる……んだよね?

 顔は笑顔なのに、笑ってないみたいに見えるような……?


「なんじゃ? また儂らをじろじろと見おって」

「あっ、ごめんね!」

「ふん。フェンくぞ」

「あらあら、はいはい。それじゃぁねぇ」


 僕の向かう方向と逆の方へ、2人は歩いて行く。

 それを見て首を傾げつつ、僕も約束の場所へと急ぐことにした。

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