第58話 3人パーティー?

 リアさんと買い物に行った日から、1日が経って……今日は森に向かう当日。

 僕はシルフと一緒に、おばちゃんの作業場を借りて、持っていく荷物のチェックをしていた。

 今まではインベントリで良かったんだけど、ウエストポーチに入れる道具を考えないといけないしね。


「えーっと、たしかリアさんが言ってたのは……」


 ウエストポーチには、咄嗟のときに使えるものを入れておく、だったっけ?

 となると、戦闘中とかに使わないといけないものになるから……。


「ポーションと粉末と、あと粉末用の水と……錠剤は小さいから入りそうだし、これも入れておこう」

「思ったよりも入りますね」

「だね。ただ、ポーションも粉末用の水も見た目以上に重いから、入れる量には気を付けないとダメみたいだけど」


 そうして、シルフと一緒に数の調整や、入れ方の確認をしていく。

 なんだかんだで最終的には、<下級ポーション(良)>、<薬草(粉末)>、<回復錠>に加え、即効性を作るための水を入れた瓶も入れておいた。


「ひとまずこれでいいとして、問題は……雨が降るかどうか、かな」

「そうですね」

「まぁでも、降ることを信じて、おばちゃんのお店で雨具を買っていこうか」

「はい!」


 作業場の窓から見える空は、いつもより多少暗く感じる程度。

 トーマ君のスキルを疑ってるわけじゃないけど、こればっかりはちょっとね。

 そんなことを思いながら、シルフに服装を含め全ての最終チェックをお願いする。

 キャロさんのお店みたいに、全身鏡があるわけじゃないから、もしかすると僕には気付かないところで変なところがあるかもしれないし。


「アキ様、大丈夫だと思います」

「そっか。ありがとう」


 初めて着たわけじゃないけど、この新しい装備を着て探索に行くのは初めてだ。

 そんな日が雨っていうのはなんとも言えない気持ちになるけど、こればっかりは元々予定されてたことだし、仕方ないよね。


「よし、それじゃ行こうか!」

「はい!」


 僕の言葉に頷いたシルフを確認してから、僕はおばちゃんのお店へ続く扉を開いた。



「お、アルさん発見」


 待ち合わせ場所に来てみれば、先に到着していたアルさんの姿が目に入る。

 背も高いし、肌も色黒でわかりやすいし、それに大きな武器を背負ってるから、探す方としてはありがたい限り。

 1人で頷きながらも、声をかけようと右手を挙げて、口を開いた。

 その瞬間――


「アルのやつ、よう目立ってわかりやすいな」

「うわっ!? トーマ君!?」

「おはよーさん。少し前からずっとおったで?」

「そ、そうなの!?」


 シルフの方へと視線を向ければ、シルフも気付いてなかったみたいで、驚いた顔を見せていた。

 相変わらずトーマ君は……よくわからないなぁ……。

 こうやって隣りにいると、存在感もあるし、結構目立つ印象もあるんだけど、少し目を離すだけでその存在が消えてしまう。

 まるで……そこにあるのに掴めない、霧みたいな存在。


「しかし、新しい装備やんか。似合ってるで」

「あ、ありがとう」


 僕の装備を見たトーマ君が、照れを全く顔に出すこともなく、そう言ってのける。

 顔色ひとつも変えないなんて、ホント手慣れてるというか……。


「そういえば、トーマ君」

「ん? なんや」

「今日雨が降るって言ってたけど、降りそう?」

「あー……」


 唸るような声を上げつつ、彼は目を細め空を見上げる。

 そして数秒ほど、その姿勢を続けた後、「2時間弱」と呟いた。


「なんでわかるの?」


 何か空が違うのかと思って、僕も見上げてみるけど……少し暗い気がする程度で、時間まではわからない。


「まぁ、対応するスキルと、あとはコツやな」

「コツ?」

「その辺は、まぁ企業秘密や」


 聞き返した僕に対して、彼はおどけるように両手を肩の高さにあげて首を振る。

 それから少しだけ、彼が普段やっていることを教えてくれたけど、やっぱり少し変わってるみたいだ。

 例えば、情報収集の名目で屋根の上にいたりとか、戦うのが面倒でダガーを投げてたら、それなりに投げられるようになったとか。


「うん。やっぱりトーマ君って……少し変?」


 ぼそりと呟いた言葉が聞こえたのか、トーマ君は呆気にとられたような顔を僕に晒した後、口を大きく開いて笑い始めた。

 「そうか、変か! そうやな……!」なんて、ツボに入ったのか、なかなか笑いがおさまらない。

 中々見ることが出来ない姿だけど……僕、そんなに変なこと言ったっけ?


「……来たか。なにやら楽しそうだな」

「アルさん! これは……その、」

「いや、なんでもない。俺とアキの秘密やで。な?」


 笑いすぎて涙が出てきたのか、目尻の涙を指で取りつつ、彼は僕にそう訊いてくる。

 それになんて答えれば良いのか分からなくて、僕はわざとらしく咳をして、話を進めた。


「時間なくなるかもしれないし、パーティー組みましょう!」

「あ、ああ」

「りょーかい」


 無理矢理話を進めた僕に、2人は頷いてくれる。

 その流れを止めないように、僕はすぐさまパーティーの申請を送った。

 ……そういえば何気に初めて僕からパーティーに誘った気がするなぁ。

 いつもはアルさんが申請を出してくれるし。


「そんじゃ、遅くなる前に行こか」

「うん。出来れば降り出す前に森にはついてたいしね」


 言いながら2人にポーションなんかのセットを渡していく。

 アルさんにはそのついでに、さっきトーマ君から聞いた、雨の降り出す予想時間も伝えておいたので、問題はないだろう。

 そうして準備のできた僕らは、3人揃って門をくぐった。

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