第54話 装備を調えよう
風を受け続け、完全に乾燥したらしき物を、つまむように持ち上げる。
すると、やはりまだレシピや手順に問題があるからか、木の上には少しばかり粉が落ちていた。
[回復錠:10秒かけてHP20%回復、服用から1分後に効果発動。
水なしでも飲めるよう、小さめに作られている。少し苦い]
「よし!」
「アキ様! すごいです!」
カザリ草の汁を見てからの、思いつきだったけど、ちゃんとお薬になってよかった……。
でも、粉が落ちてるところを見るに、まだまだ完璧ってわけじゃ無さそうだ。
それに考えたことがなかったけど、もしかすると[
「ま、分かんないから今のところは気にしないでおこう」
思考を切り替えるためにそう呟けば、隣りにいたシルフが首を傾げる。
そんな彼女に「気にしないで」と笑いかけてあげれば、不思議そうな顔をしながらも、頷いてくれた。
「さて、問題はコレをどうやって片付けるか、だね」
「そうですね……。なにかの箱に入れてみてはどうでしょう?」
「ふむ。ならおばちゃんのお店で、何か見繕ってくるよ」
本当に、今日は何回お店と作業場を行き来してるのやら。
そんなことを考えながら、僕はお店に続く扉を開いた。
◇
「というわけで、コレを使ってみて感想をお願いします」
「ええ、分かったわ」
隣を歩くリアさんに、木製のケースに入った[回復錠]をケースごと手渡す。
今日はリアさんと装備を買いに行く約束をした日。
お店に向かう道中、ついでにとリアさんに渡しておくことにしたのだ。
――僕が持ってるより、戦闘がメインの人に使ってもらう方が良いだろうし。
「ねぇアキちゃん。この[回復錠]って、説明には水なしでも飲めるって書いてあるけど、本当?」
「そうですね。一応飲めますけど……一緒に飲む方が楽だと思います」
完成した後、一応確認のために飲んでみたけど、飲めなくはない……って感じだった。
水と一緒に飲む方が効果が早いのかどうか、とかまでは調べられてないんだけどね。
「そう、分かったわ。次アル達と出かける時にでも話してみるわね」
「はい。お願いします」
僕の返事を最後に、リアさんはケースをインベントリにしまう。
それから5分ほど歩いたところでリアさんは足を止め、お店の扉を開いた。
ただ……お店の名前は分からない。
だって、看板が上がってなかったんだから。
◇
「いらっしゃい。リア、待ってたよ」
「遅くなってごめんね、キャロ」
リアさんの後を追うようにくぐった扉の先は、まだ商品が少なく、がらんとした店内。
「アキちゃん、ちょっとこっちに来て」
店内を見まわしていた僕は、リアさんの声に気付き、店の奥へと視線を向ける。
そこにはリアさんと一緒に、1人の女性が立っていた。
身長は今の僕より高く、リアさんよりは低く。
トーマ君とは少し輝きの違う、金の髪が腰のあたりまでまっすぐに下ろされている。
けれどその雰囲気は怖いというよりも、優しげで暖かな雰囲気を纏っていた。
「キャロ、紹介するね。この子がアキちゃん。お薬を作ってる子よ」
「あ、アキです。まだまだ作れるのは少ないですけど、調薬をメインにしてます」
「で、アキちゃん。この人がキャロ。えーっと……」
「正式にはキャロラインと申します。でも、キャロと呼んでくださって大丈夫ですから。よろしくね。アキさん」
「は、はい。よろしくお願いします」
キャロさんが差し出してきた右手に、僕も右手を差し出して握手する。
その時見せてくれた笑みは、リアさんともティキさんとも違う……少し癒やされるような笑みだった。
「それでリア。今日はアキさんの?」
「そうそう。この子、まだ戦闘用の装備が初期装備のままだから」
「なるほど。それはちょっと大変ね……」
リアさんの言葉に対し、キャロさんは苦笑気味に返す。
そして、僕へと顔を向けながら「アキさんはどんな戦い方なのかな? それによって装備の系統も変わってくるんだけど」と訊いてきた。
「戦い方……ですか? えーっと、よくわかんないので……リアさんはどう思います?」
「アキちゃんなら、動きやすさ重視にして、薬や道具を収納できるポケットとかが多い方が良いんじゃないかな?」
「ポケットですか? インベントリとかあるし、大丈夫なんじゃ……?」
「そうなんだけど……。インベントリだと取り出すのに時間が掛かるでしょう? だから、すぐ取り出したいものなんかは、最初から取り出しておくのも大事よ」
「ふむ……」
つまり、ポーションみたいな戦闘中に使うことのある物は、数本だけでも最初から出しておく方が良いってことらしい。
逆に、採取した素材なんかはインベントリに入れておくなど、使い分けるのがベストなんだってさ。
また、キャロさんの言っていた装備の系統というのは、重装備だとか軽装備だとか……そういったことのようだ。
例えば、接近して相手の攻撃を受け止める役のアルさんは、重めの籠手や肩当てを使ってるらしい。
反面、接近しつつも、速度を重視するジンさんは、軽装で動きやすさを重視してるってさ。
「だからキャロ。そんな感じの装備、あるかしら?」
「それなら確かちょうどいいものがあったような……。少々お待ちくださいねー」
リアさんからの注文に一瞬考える素振りを見せたキャロさんは、何か思い当たる物があったのか、そう言い残してお店の奥へと駆け込んでいく。
急な動きに少し驚いた僕と違い、気にした風もなくリアさんは笑う。
もしかして……いつもこんな感じなんだろうか?
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