第42話 パーティー

「――だから俺が守るよ。アキさんに危険がいかないように」


 アルさんの真剣な目が、僕の目を真っ直ぐに貫く。

 本当に、アルさんの目には不思議な力でもあるんだろうか?

 動けないだけじゃない……なんだか周りから音も消えたみたいに感じた。


「あ……アル、さん?」

「心配しなくてもいい。俺だけじゃない、ジンやリア、ティキだっているんだからな」


 なんて、彼は目を閉じて、小さく息を吐く。

 その表情は少し笑ってるようで、どこか誇らしげにも見えた。


「おう、任せとけ! っても、守るのはアルに任せるけどな!」

「私もできる限りサポートします……!」


 アルさんの言葉を引き継ぐように、ジンさんは自分の胸を叩いてニッと口を歪める。

 そんな彼に続いたティキさんも、両手を前で握りしめ、強く頷いた。


 そして――


「アキちゃんは心配しなくても大丈夫だからね!」

「ちょ、ちょっとリアさん!? 急に抱きつかないでください!」

「敵の攻撃はアルに任せれば良いし、倒すのは私がやるから。あと、ジンも」

「俺おまけかよ!?」


 ジンさんのツッコミも無視して、リアさんは僕をより強く抱きしめる。

 魔法使いのはずなのに、全然振りほどけない!?

 それに、なんだかシルフの時とは違う柔らかさが……ってそうじゃない!


「り、リアさん!」

「んー、仕方ないなぁ」


 僕の抗議に、リアさんはしぶしぶといった動きで体を離す。

 それにホッと胸をなで下ろしつつ……僕は同時に、リアさんの身体の柔らかさも思い出さないことにした。


「その、皆さん……ありがとうございます」


 気を取り直しての一言、同時に頭を下げる。

 せめて僕は……僕に出来る事をやろう。

 顔を上げて見えたみんなの笑顔に、僕は強くそう思った。



「しっかしアル、さすがにイケメン様は言うことも格好いいな」

「……なんの話だ?」


 ボスに挑む日時やそれまでにしておくこと、準備物などの話がまとまった後、ジンさんが唐突にそんなことを言い出した。

 落ち着いた後だったからか、みんなの視線がジンさんに集まる。

 そんな中、彼はいきなり立ち上がり――


「だから俺が守るよ。アキさんに危険がいかないように」


 なんて、少し顔をキリッとして、アルさんの真似をした。

 うん、なんだろう……大変申し訳ないんだけど、ジンさんだと似合わないなぁ。


「ジンじゃダメね」

「なんでだよ!?」

「あんたは見た目から口調まで全体的にチャラいイメージじゃない」

「ひっでぇ!」


 ティキさんも半笑いで頷いてる辺り、同じ事を思ったんだろうなぁ……。

 でも誰も止めないあたり、きっとこんな会話がこのパーティーでのおなじみの光景なんだろう。

 そんなことを思っていれば、ふとアルさんと目が合った……ような気がした。


「ほほぅ……」

「あ? リア、どうした?」

「あー、ちょっと私用事があるんだったー。ジン、ティキ、一緒に来てくれないかなー?」

「お、おお、わかったぜー!」


 そういって急にリアさんが立ち上がり、2人を連れて部屋を出て行く。

 ものすごく棒読みだった気がするんだけど……まさか、変な勘違いとかじゃないよね?

 そう聞こうと思ったが……時、すでに遅し。

 すでに逃げるように3人は作業場からいなくなっていた。


「あいつら……っ!」

「あ、あはは……」


 微妙に顔を赤らめつつも、強く手を握るアルさん。

 やっぱり露骨すぎだよね。

 愛想笑いを浮かべる僕の前で、彼は数瞬だけ百面相を晒しつつ、最終的に眉間に皺を寄せ、深く溜息を吐いた。


「すまない。うちのメンバーが……」

「いえいえ、優しい人ばかりで安心しました」

「……そう言ってもらえると、俺も助かる」


 言いながら眉間の皺を指でほぐし、柔らかくなった表情で少し笑みを見せる。

 そんなアルさんに、僕はちょっとだけ悪戯したくなった。

 きっと、さっきまでの賑やかさに……少し当てられたんだろう。

 そう、そういうことにしておこう。


「あの、アルさん」

「なんだ」

「本当に、私を守ってくれるんですよね?」

「あ、ああ……勿論だ」


 僕の言葉に、さっきの宣言を思い出したのか、アルさんは少し照れたみたいに目を逸らし、頬を掻く。

 そんな彼の反応がちょっと面白くなって――


「その、よろしくお願い、します……」


 追撃しようとした。

 したはずの僕自身も、なぜか恥ずかしくなってきてしまって、自然と視線が落ちていく。

 不思議と声のボリュームも比例して。


「……あ、ああ。任せろ」


 声と共に、ポスっと手が頭に置かれた。

 この人は頭を撫でるのが好きなんだろうか?

 そう思って少し顔を上げれば、相変わらずアルさんの顔は僕からは逸らされたまま。

 でも、不思議と……距離は近くに感じられた。

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