第25話 戦利品

 あれからシルフが離してくれるまで、広場にふたり抱き合ったまま時間を潰したおかげで、僕の身体からはかなり痛みが引いていた。

 まだ動かせば多少の痛みはあるけれど、普通に歩いたりする程度にはそこまで支障はないだろう。


「それじゃ、おばちゃんの所に行こうか」


 仕切り直すように、シルフに止められる前に伝えた行き先をもう一度口に出す。

 死ぬような目にあったのだ、すぐにすぐフィールドに出る気は起きない。

 だから今日はもう別のことに時間を使うことにした。


「アキ様、おば様のところで何を?」

「ああ、うん。トーマ君が教えてくれた<鑑定>ってスキルの習得を目指してみようかと思ってね。おばちゃんだったらアイテムとかに対しても色々詳しいだろうし、うってつけかなって」


 「でしたら向かいましょうか」と、シルフは姿を薄く透明に、周囲の景色へと溶けていく。

 ある程度薄くなったところで、僕の目からは変化が止まる……けれど、もう僕以外の人からシルフの姿は見えなくなっているらしい。

 不思議だけど、契約した人の特権ってやつかな。


 そんなことを得意げに思いながら、僕はインベントリから拾ってきた枝を取り出して、それを杖代わりにゆっくりと立ち上がる。

 こういうときは、女の子になったことで身長が低くなって良かったと、正直に思った。



「おばちゃん、こんにちはー」

「はいはい。おや、あんたどうしたんだい? 杖なんかついて」

「いやーこれは……」


 さすがに死んでしまったとも言えないし、うむむ……。

 そんな風に言いよどんだ僕を見て、おばちゃんは何か悟ったように息を吐き「ま、いいさ。とりあえず、これにでも座り」と椅子を出してくれた。


「あ、ありがとうございます」

「あんたが外からの住人だとしても、まだまだひよっこなんだから。無理はしちゃ駄目だよ」

「……気を付けます」

「街の外だけじゃないよ! 夜道とかもひとりでうろうろしたりしないようにね!」

「あ、はい……」


 僕の返事に納得はしてくれてないんだろうけれど、言っても無駄と諦めたのか、おばちゃんはちょっと雑に僕の頭を撫でる。

 この身体になってからまだ数日しか経っていないのに、頭を撫でられるのはこれで2回目。

 現実だと男なのもあってこんなことされなくなったけれど、こっちだと身長も相まってか、なんだか小さい子扱いされているような気がする。

 そんな僕の思いが伝わったのか、おばちゃんは撫でるのをやめると、何か思いついたように口を開いた。


「そうだ、あんた。この間の人に一緒に行ってもらえばいいじゃないか。採取するにも1人よりは2人の方が何かと安全だろう?」

「この間の人って……アルさん?」

「そうそう、その人だよ。その、アルさん? とやらが一緒なら、戦闘になっても安心だろうさ」


 どうだい名案だろう? とでも言わんばかりの笑みを見せるおばちゃんに、僕は少し考える。

 んー、どうなんだろう?

 確かにまた採取に行こうと思っても、近くの草原ならいざ知らず、森の中だと今回と同じことになるかもしれない。

 その点、誰かが一緒に来てくれれば、周囲の警戒とかお願いできて安心かも?


(戦闘面で考えれば、アルさんの方が安心感はあるかも? トーマ君も強いんだろうけど、なんだか軽いし)

(トーマ様……)


 いや決してトーマ君がダメってわけじゃなくて、見た目とか話し方とかから感じる安心感みたいなものが……。

 そういえばさっきおばちゃんに頭を撫でられたけど……アルさんの手の方が大きかったなぁ……。


(アキ、様……?)

「あ、そ、そうですね! 今度アルさんに聞いてみます!」


 シルフの声に我に返り、咄嗟におばちゃんへと返事を返す。

 危ない、なんだったんだ今のは……って!


「そ、そうだおばちゃん! これ、森で採ってきたんですけど、お薬に使えるものってありますか?」


 ひとまず話を変えるために、インベントリから森で採取したものを机へと出していく。

 草に木の枝、木の実……それにキノコとか。

 こうやってみると、ホントにこれ、素材になるのかな……?


「んー、そうだねぇ」


 言いながらおばちゃんは素材を見て「これと、これと……」と数種類の素材を指さしていく。

 赤い草、木の枝……それから小さいキノコだ。


「木の実って薬になりそうだけど、違うの?」

「それはまたちょっと違うねぇ。使うこともあるけれど」

「ふうん?」


 とりあえず違うといわれた素材を全てインベントリにしまい、おばちゃんが指さした素材だけを机の上に残す。

 そうするとおばちゃんはまず、赤い草を手に取り「これは強躍草キョウヤクソウだね」と言った。


強躍草キョウヤクソウ?」

「そうさい。興奮剤の材料になるのさ」


 興奮剤……?

 なんだか危なそうな感じの名前なんだけど……と、僕が心で距離を取ったのが分かったのか、おばちゃんは少し笑い、商品棚へと手を伸ばした。

 そして見つけたらしいお薬を僕の方へと渡してくる。


[興奮剤:使用後5分間、毒、麻痺以外の状態異常耐性上昇

強躍草の成分を抽出した液体。飲むと少し元気になる]


 なるほど、栄養ドリンク的なものなのかな?

 飲むことで回復するわけじゃなくて、耐性を付ける、か。


 なるほどなるほどと、僕が納得しているのを尻目に、おばちゃんは残りの材料を指さす。


「その枝はシュネの木の枝。冷散錠の材料だね。こっちのキノコはポルマッシュっていう……毒の材料さ」

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