第22話 ただそこにいる人
落ちる、いや、落ちていく。
暗く深い水の中にいるみたいに――少しの浮遊感を感じながらも、身体は落ちていく。
――ああ、これが
落ちていく身体とは逆に、真っ暗だった意識は浮き上がるように明瞭に。
――生き返る感覚。
耳に残る悲痛な叫び声。
可愛らしい僕の友達の叫び声が、なんどもなんども、頭の中で響くみたいで。
――シルフ……。
◇
気付いた時には、街の中央広場に1人で立っていた。
そこは普段と変わらず多くの人が行き交い、遠くでは馬の鳴く声も上がっていた。
「そうか。僕は、死んだのか……」
呟き、目を閉じれば、瞼の裏に残る最後の一瞬。
動けなくなった僕の顔めがけ、鹿の足が迫り……HPは砕け散った。
直前に響いたシルフの悲痛な声が、耳だけでなく心の奥に突き刺さる。
そういえば、シルフは……?
いつもならばすぐそばに浮かび、笑顔を見せてくれるシルフの姿はどこにもない。
ステータスを見なくても、僕とシルフの繋がりが途絶えていないことは分かる。
けれど、肝心のシルフは……?
(シルフ!? どこにいるの!?)
『アキ、さま……』
普段はない妙なノイズに混じり、微かに聞こえたシルフの声。
そして同時に走る奇妙な感覚。
初めて会ったときに感じたものと、同じ感覚。
その感覚に急き立てられるように、僕はその場を飛び出した。
◇
僕とシルフが正式に契約を交わした薄暗い路地の先。
たった数日しか経っていないのに、なぜかとても懐かしく感じるその場所――広場の中心に、彼女はいた。
膝を抱え、微かに震えながら。
「……見つけた」
「ッ! アキ……さま……」
僕の声に顔をあげ、実体化しながら飛び込んで来る。
両手を広げてそれを受け止め……きれずに2人して地面へと転がった。
いや、まさか空を駆けるように飛んでくるとは……。
「アキ様……アキ様!」
「し、シルフ! 落ち着いて……落ち着いて!」
シルフの下敷きになるように落ちた僕を両手で抱きしめながら、その場にいることを確かめるように彼女は何度も僕の名前を呼ぶ。
なんども、何度も……僕の言葉も聞こえないみたいに。
仕方なく諦めて、落ち着くよう……安心させるように頭を撫で、背中を叩く。
むしろそれ以外何もできない。
「目の前で消えて……パスも薄くて……っ!」
「うん、うん」
「このまま契約も消えてしまうんじゃないかって……。またひとりになるんだって……」
「……」
「嫌なんです……! こんなのは、もう……」
「……ごめん」
吐き出すだけ吐き出して落ち着いてきたのか、少しずつ抱きしめる腕の強さが和らいできた。
それでも僕はゆっくりと背中を叩く。
ここにいるよ、大丈夫だよって、伝わるように。
「……アキ様」
「ん? なに?」
「もう、ひとりにしないで……おいていかないで、ください……」
「頑張るよ。だからシルフも、僕をひとりにしないでね」
僕の答に彼女はゆっくりと顔をあげて、泣いてぐしゃぐしゃになってる顔でむりやり笑顔を作りながら「はい。アキ様……」と小さく呟いた。
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