第17話 side-アル-
俺の名前はアストラル――ほとんどの奴からはアルと呼ばれている。
その方が俺も呼ばれ慣れている事もあり、基本的にはそう呼んでくれとこっちからお願いしてるのもあるんだが。
ああ、あとは髪を伸ばし、後ろで縛るようにしたぐらいだな。
そもそも、男で外見を弄るやつはほとんどいないんじゃないか?
多少顔を弄るやつもいるとは聞くが……特に興味はないな。
「さて、そんなことよりも薬の補充だ」
今は補充のために1人で行動しているが、基本的にはパーティー単位での行動が多い。
別にソロでも構わないんだが、スキル構成を完全に戦闘メインのビルドにしているからな。
狩りの効率を上げようとすると、必然的にパーティーを組む方が利に適っているんだ。
このゲームは今までのネトゲなんかとは違い、ソロで無双するようなことはかなり難しい。
できないわけじゃない、できないわけじゃないんだが……厳しいだろう。
なぜなら、スキルや個人の技量――すなわち努力でしか鍛えることが出来ず、その上でソロで複数を相手取るのは無謀にも等しい。
そんなことが出来る人間は……いったいどれだけの技量を備えているんだろうな。
……まぁ、だからこそ俺はパーティーを組んでいるわけだが、パーティーだからといって完全に楽なわけでもない。
パーティーを構成するメンバーにもそれぞれの役割があり、大きく分ければ前衛と後衛、その他と……その中でもさらに多種にわたる。
前衛に
後衛に
敵の能力を下げたり、味方の能力を上げたりする
それぞれが、それぞれの役割で働くことで、パーティーはソロを超える効率を出せるってわけだ。
「なんにせよ、運良く前衛と後衛が揃って助かったな」
サービス開始の初日、タンクを求めていたパーティーを見つけることができたのは、運が良かったとしか言えない。
その際はアタッカーとソーサラーだけだったが、ヒーラーがその後見つかったのも、本当に運が良かった。
おかげで前衛2人、後衛2人というバランスの取れたパーティーを組むことも出来、各々のやることも明確でわかりやすい。
そう、わかりやすいのは、良いことなんだが……
「技量がまだ追いついていないのも確か、だな」
実際こうして、一度の狩りで20本以上のポーションを買っては消費してを繰り返している。
タンクという役割上、仕方の無いことなのかもしれないが、俺が受けるダメージをもっと減らすことが出来れば、より安定した狩りができるのも事実だ。
タンクは、戦闘の安全性を維持する上で、最も大事な役割。
俺が倒れれば、それだけ他のメンバーを危険にさらすことになる。
「……もっと精進せねば、っと。着いたな」
考えながら歩いていれば、目的地――雑貨屋アルジェが目の前になっていた。
ここ、アルジェはこの町で唯一のポーション販売店でもある。
先日ここでポーションを買おうと思った際、フレンドの1人でもあるアキさんに会ったわけだが……。
今日もいるのだろうか?
「すまない。失礼する」
「おやあんたかい。いらっしゃい。」
戸を開けて中に入れば、そこにはいつもと同じ場所に腰掛けている赤毛の女性がいた。
この店の店主、アルジェリアさんだ。
ごく普通のNPCのはずだが……時折妙な威圧感を感じる。
そのためか、この人を前にすると不思議と萎縮しそうになってしまうわけだが……。
「今日もいつものポーションかい?」
「ああ、前回の狩りでほとんど使い切ってしまいまして。また狩りに行くには心許なく」
「なるほどね。ちょっと待っとくれ。持ってくるよ」
「お願いします」
アルジェリアさんはそう言って、店の棚からポーションを取り出していく。
数は常に同じ数。
支払いと一緒に、前回使って終わったポーションの空き瓶も渡していく。
アルジェリアさんいわく、瓶は洗って再利用しているらしい。
瓶1本でも、この世界では大切なのだろう。
「ちなみに今日は、その」
「ああ、あの子かい? 来てることには来てるんだけどねぇ」
「何かをやっている、と言うことですか?」
「まぁ、もう少ししたら出てくるだろうさ。時間があるなら待っててやっておくれ」
幸い、今日は特に急いでいるわけではない。
そのため、アルジェリアさんの言葉に頷きつつ、雑貨屋の中で時間を潰しておくことにした。
◇
「あの、着替え……終わりました」
「どうだい、きつかったりはしないかい?」
「あ、はい。大丈夫です」
アイテムを手に取り、効果を確認していると、アキさんが出てきたらしい声が聞こえた。
着替え、と聞こえたが……装備でも変更したのだろうか?
前回会った時は、確か初期装備のままだった記憶があるが……。
「ああ、アキさ……」
アイテムを戻し、振り向いた先には、可愛らしい少女。
柔らかそうな白いワンピースを身に纏い、その上からベージュのカーディガンを羽織っている。
腰まで届く薄紅の髪に、白いリボンが結ばれているのは今までと変わりがないのだが、服の色と合わさり、可愛らしさに拍車をかけているように見えた。
――なんだ、これは?
「ほら、あんたも黙ってないでなんか言ってやりな!」
「あ、ああ……。その、似合っていると思う」
アルジェリアさんの声で、少しだけ我に返ることができたが、俺の口からひねり出せたのはそんな感想だった。
言い慣れていないからか?
なぜか、顔が熱いような気がする。
「え!? アルさん!? なんで!?」
俺がいるとは知らなかったのだろう。
驚いたのか、アキさんはアルジェリアさんの後ろに隠れるように身をよじった。
「あ、いやその、ポーションの補充ついでに進捗なんかを聞こうと思って、な?」
アキさんの慌てようを見て、少しだけ冷静に戻れた気がする。
顔が熱いのは変わらないが……なんなのだろうな?
アキさんが男なのは、話してもらったことで知っている。
いや、アバターは女性だったな……それなら、いやしかし……。
「そうかいそうかい。それじゃ私がいたって邪魔だろうし、2人とも台所で話しな。さすがにこれ以上ここで騒がれたら商売の邪魔さ」
挙動不審な俺と、隠れてしまったアキさんに呆れてしまったのか、アルジェリアさんはいつもの場所に腰を下ろし、払うように手を動かす。
彼女が腰を下ろしたことで、背中に隠れていたアキさんがまた完全に見えるようになってしまったわけだが……。
結局、俺たちが動き出せたのは、それから少し経ってからのことだった。
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