第30話 bite to Cellfon

 翌日、バイトを終えて帰った後、レオの出所を出迎えに行くマホナを駅で見送る約束していたが、おれの体は体携帯電話のアラームに対応しなかったらしい。

 8月の中頃。彼は離れた場所で出所した。レオママも立ち会ったと後で聞いた。

「レオが話したいって」

 電車の中からだった。

「彼女がお世話になったみたいでこれまで本当にありがとう」とレオは言って、一方的に電話を切った。

 二人分の気持ちがないがしろにされた気がした。このままなかったことになるのだろうか、実感が湧かない。布団の上には煙草の焦げ跡が残っている。

 それからまたすぐ後に電話が鳴った。

「色々聞いたんだけど、やった?」

「やった」

「正直に言って」

「やった」

「お前男だろっ殺す! 明日駅来いよ聞いてんのか?」

「何時?」

「逃げんじゃねーぞおら!」

「何時に駅に行けばいい?」

 遠くから彼女の声がした、「もういいから」

 すぐ彼女から電話があって、レオのことを考えてあげて、と言われた。次のレオからの電話も脅しめいていた。マホナとレオが一緒にいるのが気にくわないわけじゃなかった。ただ嘘をつきたくなかった。愛し合ったことをなかったことにするなんてできなかった。何度聞かれても同じ答えが返せると信じていた。

「やった」

 携帯電話が置かれた音がして、マホナの声が、悲鳴が、聞こえた。しばらく悲鳴と破壊音が続いた。何が起こっているのか全く想像できなかった。永遠に続きそうだった。聞くに耐えず電話を切った。

 深夜三時に駄目元でかけた電話が繋がった。

「今睡眠薬飲んだところ」とマホナは無気力な声で言った。

「今からでも行くよ、前のホテル?」

「いいの違うし」

「やってないって事になってる?」

「うーん。この男嘘ばっかり。何もかも全部嘘。最悪な男。彼の携帯折ったから。嘘ばっかり」

 男の声「代わって」

「切るね」

「マホナ」

 無音。

「聞こえてる?」

「ん?」

「マホナのこと好きだよ」

「うん、ありがとう。こっちからかけるからしないで」

 連絡が無いまま二日が経った。

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