第28話 Teagame to Honne
おれは、マホナの茶番に参加しながらも平静を保たねばならなかった。始めのうちは、彼女が、おれを愛していることに自信を持っていたから殆どを聞き流すことができた。マホナは自己を解放させたのだろうか? それとも、ついてこられるのか試したかったのだろうか? むしろ、早く突き放したかったのだろうか? 悶々としながら判断材料を待とうとも、彼女は決定的なことを何一つ言わなかった。会う度に、つき合いたくなくなるような破天荒さを見せつけながら、時より思ってもみないところで優しさを織り交ぜるのだった。おれは、そんな彼女の賢さや破天荒さの根管に何を隠しているのかそそられた。世界に二人きりになれば誤魔化されないで本音を聞き出せるんじゃないか、そんな錯覚を覚えた。レオもそんな気持ちで浜に連れてきたのかもしれないと思った。彼女が言うことが嘘だろうと本当だろうと、一生懸命にバカバカしければバカバカしいほど、引きつけながら同時に近づけなくさせた、プラスとマイナスがちょうど打ち消しあうように。
しかし、次第に彼女の言うことは度が過ぎていった。「元カレが彼女を取り合って富士山のふもとへ心中しようとした話」に「元彼の男にレイプされ、レオがそいつに飛びかかって、割って入った彼女が頭を打ちつけて救急車で搬送された話」また、そのたぐいの、自分を取り合う男の暴力沙汰の自慢話を、同じ話を、何度も聞かされた。彼女の断片的な話は把握できないことばかりだし、まるで登場人物をこっちが把握しているかのように話を続けるので余計にチンプンカンプンだった。それでも適当な相槌に満足して彼女は喋り続けた、
「今度、浜で薬浸けのパーティーに参加したいな」
「薬漬けなんて言ってない」
「そう? お客さんから聞いたのかな」
「すんなよ」
「うーん、なんか薬持ってない? 痛み止めか睡眠薬が一番だけど」
「ない、おれ薬大嫌いだから。手術の時でさえ隠れて捨ててたんだぜ。だから家には退院後に出た薬が山ほど残ってる」
「え、痛み止めかな、名前わかる?」
「わかんない」
「きっと強いやつね、絶対そうよ、いいな。マホナにちょうだい」
「いいけど実家だよ」
「じゃあ帰ったら頂戴ね。約束」
「そんなんでいいならいくらでも」
「名前が可愛いいの。いろんな色のグラスに入れて名前を書くと綺麗なのよ。タンリンとか、アスピリンとか。まいちゃんちいっぱい並んでいてすごくお洒落なの。スナックのママがくれる頭痛薬じゃあ全然足りないわ。レオったらこういう話しすると怒るのよ、意地悪でしょ?」
おれはこの話しにのってしまった自分を後悔した。
そして、このように自然に見せかけて、レオならなんて答えるか考える癖をつけさせられていくのだった。会話中の正しい返事や振る舞いが、話し相手によってすでに決められている感覚。相手を喜ばせる為とはいえ、それは少しずつ蓄積する種類の苦痛だった。
レオの出所が近くなると、客に見つかるとまずいとか、ローソンにも寄れないとか、あらかじめ理由を付けられて、会える頻度も減っていった。彼女は自分で作ったパターンをおれが慣れる前に壊し始めた。
おれは久しく話しをしていない友人にまで電話で相談した。せいぜい遊んでやれ、とけなしてくれる人が必要だった。しかし、皆親身になって、どうやってこの恋を成就させようか考えるお人好しばかりだった。友人たちが就職していることを考慮すると、恐れ多くて二回目を掛けられる相手はいなかった。たかが遊びなのだ。それは一番おれがわかっている。
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