第509話 ◆アリシアの大冒険(その20)

◆アリシアの大冒険(その20)



さあ、いくわよ!


ディアは、銀の矢をつがえて力強くキリキリと引いていく。


すると銀の矢は、その矢じりから虹色の光を放ち始めた。


それは見る見るうちに強くなり、辺りを煌々と照らす。



あっ!


前方を見れば、その光によってヴイーヴルの真の姿が浮かび上がっているではないか。


なんて恐ろしい姿なの・・・


ねえ、ディア。  あたしたち、あんなのに本当に勝てるの?


改めてそうディアの方を見ると、銀の矢を限界まで引いたディアは、いままでに無いくらい精悍な顔をしている



バッシッ


ヒューーーン


ディアが放った矢は、通常の矢の何倍ものスピードでヴイーヴルに向かって吸い込まれるように飛んでいく。


そしてヴイーヴルの胸部に当たったように見えた瞬間、ヴイーヴルの巨大な体が後方へと傾いた。


同時にヴイーヴルを包み隠していた、ゆらゆらした陽炎のようなものも一気に吹き飛ばされる。


そう、ディアが言っていたとおり、ヴイーヴルの姿を隠していた魔壁がいま消滅したのだ。



ディアは間髪入れず、次に鉄の矢をつがえた。


だが、怒りに狂ったヴイーヴルが、真っすぐこちらへと突き進んで来る。  あの巨体ですごいスピードだ。



あたしは、こんなに恐ろしい状況に遭遇したことなどなかった。


本能がどう対処すべきか判断できずそのまま固まる。


きっと体が竦んで動かなくなるというのは、こういう事なのだろう。



でも、ディアは勇敢だった。


あのヴイーヴルの恐ろしい姿が迫ってくるなか、弓の照準をヴイーヴルの目に合わせ続ける。


恐竜のようにドォドォと体をゆすりながら突進してくる。 揺れ続ける的に的確に当てるためには、十分に引き付けてから矢を放つのが良いのは分かっているけど、あたしにはそんなことは出来ない。



もうヴイーヴルは、ディアの目の前まで近づいている。


あまり近づかれると弓を放つ角度が大きくなり、ヴイーヴルの目に当てにくくなってしまう。



喉がカラカラになる。  時間が経のが遅く感じる。  まるで目の前がスローモーションに切り替わったかのようだ。




ディアが矢を放った!


それは突き進むヴイーヴルの目をめがけ、吸い込まれていった。


ギャォーーー!!


辺りに地獄の咆哮が響き渡る。


鉄の矢がヴイーヴルの右目を射貫いたのだ。


しかし、あの巨体で突進してきたヴイーヴルは、ディアが立っていた場所を蹴散らしながら通り過ぎていった。




ディアーーーー!  


辺りはヴイーヴルが巻き起こした土煙がもうもうと立ち上がりなにも見えない。


ディアは無事だったのだろうか。


あたしは、もう心配で心配で仕方がなかったのだけれど、まだ足がうまく動かなかった。



ほんの少しすると、舞っていた土埃が薄れて視界が戻ってきた。


しかしそこには、ディアの姿は捉えることができなかった。


まさか・・・


一瞬、最悪の事態を思い浮かべる。



一方、目を射貫かれたヴイーヴルは、そのまま谷の方まで進んだあと脳まで達したのであろう、その矢の強烈な痛みで、のた打ち回っていた。


辺りは、ヴイーヴルが崖や山にぶつかる衝撃で、凄まじい音と振動が響き渡っている。


それは、まるで百の落雷が同時に巻き起きたかの様だ。




ここまでは、ディアが言っていたとおりになった。  でも後は、金の矢でヴイーヴルを浄化しなければならない。


けれども矢を射る、肝心なディアが見当たらないのだ。



あたしは、さっきまでディアが立っていた周辺を隈なく探したが、とうとう見つけられなかった。


時間は刻々と過ぎていく。  あたしはもう、この時点でどうしたらいいのか本当に分からなくなっていた。





***


あのさっ。  ちょっといいかな。


はい。 なんでしょう?


もう、「その20」になってるんだけど。


なにか問題でもあるんですか?


うぉほん。  この小説の主人公は誰だか忘れていないわよね。


主人公ですか?


そうよ!


いくら何でも作者が、それを忘れるわけはないじゃないですか。


だったら、そろそろあたしの出番があってもいいんじゃないのかしら。


えーーっと。  シルフさんは、ひと月ほどバカンスに行くって言ってましたけど。


ひょっとして主人公って、あたしじゃなかったの?


ぷっ

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